第18話:王都へ
翌朝、四人は街の北門に集まった。
王都行きの馬車が用意されている。
「これが王国の馬車か」
ガルムが感心したように見ている。
立派な造り。四頭の馬。御者が二人。護衛の騎士が四人。
「さすが、王国公認ね」
セリアが呆れたように笑った。
クロウは少し離れた場所に立っていた。
「俺は、ここまでだ」
「来ないんですか?」
「王都は、俺の仕事場じゃない」
クロウは外套を直した。
「それに、王国には顔が利かない」
「情報屋なのに?」
「情報屋だからこそ、だ」
クロウは笑った。
「王国の連中は、情報屋を嫌う。邪魔だから」
律は頷いた。
「わかりました」
「でも、必要になったら呼んでくれ」
「どうやって?」
「ギルドに伝言を残せばいい。俺が拾う」
クロウは手を振った。
「じゃあな。死ぬなよ」
「あなたも」
クロウは路地へ消えていった。
「……行っちゃったわね」
「ああ」
三人は馬車に乗り込んだ。
馬車の中は広かった。クッションの効いた座席。窓にはカーテン。
「豪華ね」
「王国の顧問待遇だからな」
馬車が動き出した。
街を出て、王都への街道を北へ。
窓の外には、畑が広がっている。農民が働いている。
平和な光景。
だが、律の視界には、警告が浮かんでいた。
『魔力流動:不安定継続中』
『システム負荷:86%』
『警告:臨界点接近』
負荷が増えている。
昨日より1%上がった。
「……まずいな」
「何が?」
「システム負荷が増えてます」
律はセリアに説明した。
「このペースだと、一ヶ月以内に臨界点に達する」
「臨界点って、何が起こるの?」
「わかりません。でも、多分――」
律は窓の外を見た。
「世界が、壊れる」
沈黙。
ガルムが言った。
「……止められるのか?」
「わかりません。でも、試さないと」
馬車は街道を進み続けた。
昼過ぎ、街道沿いの宿場町で休憩した。
「ここで昼食を取ります」
護衛の騎士が案内する。
三人は宿場町の食堂に入った。
簡素な店。だが、清潔で落ち着いている。
「何にします?」
「スープとパンを」
「同じく」
料理を待つ間、律は周囲を観察した。
食堂には、他にも旅人がいる。
商人、冒険者、農民。
みんな普通に話し、笑い、食事をしている。
平和だ。
だが、この平和は――
「律」
セリアが声をかけた。
「また、そういう顔してる」
「……すみません」
「謝らなくていいわよ。でも、今は食べなさい」
料理が運ばれてきた。
温かいスープ。柔らかいパン。
「美味しいわね」
「ああ」
ガルムも黙々と食べている。
律も食べた。
温かい。
優しい味。
こういう日常が、守られるべきものだ。
食後、再び馬車に乗った。
午後の日差しが、車内を照らす。
セリアが眠そうにしている。
「疲れたの?」
「少しね。昨日、魔力使いすぎたから」
「休んでください」
「……そうする」
セリアは律の肩に頭を預けた。
「ちょっと、借りるわよ」
「……どうぞ」
セリアはすぐに眠った。
静かな寝息。
律は動かないようにした。
ガルムが小さく笑った。
「仲がいいな」
「……そうですか?」
「ああ。見てればわかる」
ガルムは窓の外を見た。
「お前たち、信頼し合ってる」
「セリアには、助けられてばかりです」
「それが、信頼だ」
ガルムは静かに言った。
「俺も、前のパーティでそうだった」
律は黙って聞いた。
「信頼してた。だから、一緒に戦えた」
ガルムは拳を握った。
「でも、守れなかった」
「……」
「今度は、守る」
ガルムは律を見た。
「お前たちを」
律は頷いた。
「ありがとうございます」
馬車は進み続けた。
夕方、遠くに王都が見えてきた。
巨大な城壁。
高い塔。
旗がはためいている。
「……すごいわね」
セリアが目を覚ました。
「王都、初めて?」
「ええ」
セリアは窓に顔を近づけた。
「こんなに大きいとは」
「人口は十万以上だ」
ガルムが言った。
「この国で一番大きい街だ」
律の視界にも、情報が表示された。
『王都:アルディア』
『人口:約12万人』
『管理レベル:高』
王都の門をくぐる。
門番が馬車を確認し、すぐに通した。
「王国の馬車だ。通れ」
門の内側は、さらに賑やかだった。
石畳の道。並ぶ店。行き交う人々。
街よりも、すべてが大きい。
馬車は王都の中心部へ向かった。
やがて、巨大な城が見えてきた。
「あれが王城か」
「ええ」
石造りの巨大な城。高い塔が四つ。城壁に囲まれている。
馬車は城門をくぐった。
中庭に入る。
「着きました」
護衛の騎士が扉を開けた。
三人は馬車を降りた。
中庭には、リーネが待っていた。
「お疲れ様です」
「……早いですね」
「私は馬で先に来ました」
リーネは微笑んだ。
「さあ、案内します」
三人はリーネに従って、城の中へ入った。
広い廊下。高い天井。壁には絵画。
「すごい……」
セリアが呟いた。
「これが王城」
「貴族や官僚が働いています」
廊下を歩く人々は、みんな上品な服を着ている。
だが、その目は冷たい。
律たちを見て、顔をしかめる者もいる。
「……歓迎されてないわね」
「当然です」
リーネが静かに言った。
「あなたたちは、平民です。しかも、ステータスが測定できない異常者」
「……そう見られてるんですね」
「ええ。だから、気をつけてください」
リーネは立ち止まった。
「ここが、あなたたちの部屋です」
扉を開けると、立派な部屋があった。
広い。ベッドが三つ。机、椅子、本棚。窓からは中庭が見える。
「明日、報告会があります。それまで、ここで休んでください」
「わかりました」
「夕食は、後で持ってきます」
リーネは扉を閉めようとして、立ち止まった。
「一つ、忠告します」
「何ですか?」
「王城では、本当のことを言わないでください」
リーネの目が、鋭くなった。
「この城の人間は、真実を嫌います」
「……どういう意味ですか」
「そのままの意味です」
リーネは扉を閉めた。
三人だけが残された。
「……嫌な予感がするわね」
セリアが呟いた。
「ああ」
ガルムも頷いた。
律は窓の外を見た。
王城の中庭。
きれいに整備された庭園。
だが、どこか息苦しい。
律は呟いた。
「この城、何かを隠してる」
視界の端に、文字が浮かぶ。
『同期開始まで:残り 23日』
23日。
時間は減っている。
そして、明日は報告会。
王国が、何を望んでいるのか。
何を隠しているのか。
それが、わかるかもしれない。
「……警戒しましょう」
律は二人を見た。
「この城、信用できません」
セリアとガルムが頷いた。
三人は、夜が更けるまで警戒を緩めなかった。




