第12話:この男、設計で戦う
四階は、さらに深かった。
通路は迷路のように入り組み、いくつもの部屋が連なっている。
天井からは水が滴り、足元は滑りやすい。
「気をつけろ。ここは危険だ」
ガルムが警戒しながら進む。
律の視界には、常にログが流れている。
『ダンジョン階層:4F』
『脅威レベル:高』
『環境:湿潤、視界不良』
「敵の気配が濃いわね」
セリアが囁いた。
その時。
通路の先から、複数の足音が聞こえた。
「来るぞ!」
ガルムが盾を構える。
通路の向こうから、影が現れた。
五体のモンスター。
骸骨の戦士。錆びた剣と盾を持っている。
「スケルトンソルジャー!」
律の視界に、情報が浮かぶ。
『敵:Skeleton Soldier × 5』
『レベル:13』
『HP:120/120 (×5)』
『特性:物理耐性(高)、魔法耐性(低)』
『行動パターン:集団戦術』
「五体……」
ガルムが呟いた。
「多いな」
「私の魔法で倒せるけど、時間がかかるわ」
セリアが杖を構える。
だが、律は通路の構造を観察していた。
幅は三メートル。天井は低い。
通路の途中に、石柱が二本立っている。
左右の壁には、古い燭台。
「……待ってください」
律が言った。
「何?」
「戦い方を、変えます」
律は素早く状況を分析した。
敵:五体
味方:三人
通路:狭い
敵の特性:物理耐性が高い、集団で動く
なら――
「ガルム、石柱の前に立ってください」
「石柱の前?」
「はい。盾を構えて、敵の進路を塞いでください」
ガルムは律の指示に従った。
石柱の前、通路の中央に立つ。
「セリア、ガルムの後方、三メートル離れた位置に」
「わかった」
セリアが後退する。
「魔法は使わないでください。まだです」
スケルトンたちが近づいてくる。
ガルムが盾を構える。
最前列のスケルトンが剣を振り下ろした。
ガルムの盾が受け止める。
だが、他の四体も続いて攻撃しようとする。
「ガルム、そのまま!」
律が叫んだ。
律の視界に、ログが流れる。
『敵配置:分析中』
『通路幅:3m』
『同時攻撃可能数:最大2体』
通路が狭い。
だから、スケルトンは全員同時には攻撃できない。
最大で二体まで。
「ガルム、防御に専念してください! 攻撃しなくていい!」
「わかった!」
ガルムは盾を構えたまま、動かない。
スケルトンの攻撃を受け止めるだけ。
二体が前に出て攻撃する。
残りの三体は、後ろで待機している。
「セリア、後列の三体に風魔法を!」
「了解!」
セリアが詠唱を始めた。
「風よ、刃となれ――」
風の刃が、後列のスケルトン三体に襲いかかる。
『Skeleton Soldier HP:120 → 75 (×3)』
魔法が有効だ。
前列の二体は、ガルムの盾に阻まれて反応できない。
「もう一度!」
セリアが再び詠唱。
風の刃が後列を切り裂く。
『Skeleton Soldier HP:75 → 30 (×3)』
「もう一撃!」
三度目の魔法。
後列のスケルトン三体が崩れ落ちた。
残りは前列の二体だけ。
「ガルム、今度は攻撃してください!」
「了解!」
ガルムが盾を少しずらし、隙間から剣を突き出す。
一体目のスケルトンの頭蓋に命中。
崩れ落ちる。
残り一体。
セリアの魔法が最後の一体を粉砕した。
戦闘終了。
沈黙。
ガルムが盾を下ろした。
「……終わったのか?」
「はい」
セリアが息を整えながら言った。
「あっという間ね」
「被害は?」
「ゼロよ」
ガルムは自分の身体を確認した。
傷一つない。
「……すごいな」
「何がですか?」
「普通なら、五体相手に苦戦する。下手すれば死ぬ」
ガルムは律を見た。
「だが、お前の指示通りに動いたら、被害ゼロで勝てた」
「たまたまです」
「たまたまじゃない」
ガルムは真剣な顔で言った。
「お前は、戦術を組んだ。地形を使い、敵の動きを制限し、魔法で各個撃破した」
「……仕様を読んだだけです」
「仕様?」
「敵の行動パターン。通路の構造。味方の能力。それらを組み合わせただけ」
ガルムは黙った。
セリアが笑った。
「あんた、やっぱり設計者ね」
「そうなんですか?」
「戦闘を、設計してるのよ。配置、タイミング、攻撃順序。全部」
律は少し考えた。
「……そうかもしれません」
ガルムが言った。
「律。お前の指示、信頼できる」
「ありがとうございます」
「これからも、指示を出してくれ。俺たちは従う」
セリアも頷いた。
「私も同意。あんたに任せるわ」
律は二人を見た。
信頼されている。
それは、嬉しいことだった。
だが同時に、重い。
「……わかりました。でも」
律は真剣な顔で言った。
「俺の判断が間違ってたら、すぐに言ってください」
「わかった」
「当然よ」
三人は再び進み始めた。
次の部屋に入ると、そこは広い空間だった。
天井が高く、柱が何本も立っている。
そして、部屋の奥に――
巨大な影。
「……何だ、あれ」
ガルムが立ち止まった。
影が動いた。
石でできた巨大な獣。ライオンのような姿。高さは四メートル以上。
「ストーンライオン……」
セリアが呟いた。
律の視界に、情報が浮かぶ。
『敵:Stone Lion』
『レベル:18』
『HP:450/450』
『特性:高速移動、強力な物理攻撃、魔法耐性(中)』
レベル18。
HP450。
これまでとは格が違う。
「……まずいわね」
「勝てるか?」
「正面からじゃ無理」
ストーンライオンが、こちらに気づいた。
咆哮。
石造りの口から、低い音が響く。
「来るぞ!」
ストーンライオンが走り出した。
速い。
「ガルム、柱の後ろに!」
律が叫んだ。
ガルムが近くの柱の後ろに隠れる。
ストーンライオンが突進してきた。
だが、柱があるため直線的に攻撃できない。
回り込もうとする。
「セリア、反対側の柱へ!」
「了解!」
セリアが別の柱の後ろへ移動。
ストーンライオンが混乱している。
二つの標的が、柱を挟んで離れている。
律は部屋の構造を分析した。
柱:六本
配置:不規則だが、ジグザグに動けば安全地帯を確保できる
敵の速度:速いが、急な方向転換は苦手
「ガルム、次の柱へ移動! セリア、そのまま!」
ガルムが次の柱へ走る。
ストーンライオンが追いかける。
「セリア、今! 背中に魔法を!」
セリアが詠唱。
風の刃がストーンライオンの背中を切り裂く。
『Stone Lion HP:450 → 410』
ダメージは入った。
だが、まだ倒せない。
ストーンライオンが怒り、セリアに向かって走り出す。
「セリア、柱の後ろ!」
セリアが柱に隠れる。
ストーンライオンが柱にぶつかる。
石と石がぶつかる音。
「ガルム、今度は横から!」
ガルムが柱から出て、ストーンライオンの横腹に剣を叩き込む。
『Stone Lion HP:410 → 385』
ストーンライオンが再び咆哮。
だが、柱を使った戦術は有効だった。
十分後。
ストーンライオンは、ついに崩れ落ちた。
『Stone Lion HP:0』
『戦闘終了』
沈黙。
三人は息を整えた。
「……勝った」
ガルムが呟いた。
「まさか、ボス級を倒せるなんて」
セリアが律を見た。
「あんた、本当にすごいわ」
「……運が良かっただけです」
「また、そんなこと言って」
ガルムが律の肩を叩いた。
「お前は、設計で戦う男だな」
「設計?」
「戦術を組み立て、地形を使い、敵を誘導する。まるで、戦場を設計してるみたいだ」
律は少し考えた。
「……そうかもしれません」
視界の端に、文字が浮かぶ。
『同期開始まで:残り 25日』
25日。
時間は減っている。
だが、今日また一つ、学んだ。
戦闘は、設計できる。
配置。
タイミング。
地形。
敵の行動パターン。
すべてを組み合わせれば、強敵にも勝てる。
律は呟いた。
「戦闘も、システムだ」
そして、システムは――
設計できる。
「先に進みましょう」
セリアが言った。
「まだ、最深部には遠いわ」
「ああ」
三人は部屋を出た。
次の階層へ。
より深く。
古代装置が、待っている。
世界の真実が、待っている。
そして、律は確信していた。
この戦い方で、生き延びられる。
設計者として。
それが、俺の武器だ。




