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僕のおじいさん 春 夏 秋 冬  作者: 天ノ風カイト


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3 枯れいく秋は思い出を訪ねて

お爺さんの住む島は、秋を迎えてました。

島で暮らす秋は実りも多かったですが、冬を乗り越える為の準備に追われる季節でもありました。


 夜明け前。

 

 夏の終わりの、ある日。


お爺さんは、夢を見てました。

それは、不思議な夢でした。

自分の夢なのに他人が見てる夢のようだったからです。

なぜなら。

『夢の中に自分が居たから』です。

自分の夢なのに、自分が秋の山で木を切ってる姿が見えるのです。

目の前に草があるのか、景色は少しボンヤリとしてますが、季節が秋なのは、周りの木々が紅葉してる事から分かりました。


夢の中の自分は汗を流して、一生懸命に斧を振るって木を切り倒そうとしてました・・・。

 


 それから、しばらくして。

お爺さんが暮らす島にも、秋が訪れました。

島の多くの木々の葉は、黄色に染まってました。

夏には多くの人達が来て楽しんでた砂浜には、海水浴やキャンプで訪れる人達と入れ換えるようにして、魚を釣りに来る人達が釣竿を並べて居ましたが、釣りに来てる人達の多くは、島に住んでる人達でした。

今朝も早くから、丘の上で日の出を迎えたお爺さんは、そんな釣り人達の様子を見下ろすと「魚か・・・・。最後に自分で獲った魚を捕まえたのは、何年前だったろうかな・・・・?」と、寂しそうに呟きました。

それから、お爺さんは家に戻ると、台所にあるガス・コンロに火を点けると、それでヤカンでお湯を沸かし、マグカップに紅茶を淹れました。

それからお爺さんは、そのカップを片手に、いつもの椅子に腰掛けました。

そして、紅茶を一口飲むと「ふぅ~・・・」と、溜め息を一つついてから天井を見上げ「今日も、朝ごはんを食べたら、木を切って、薪にしに行くか・・・。」と呟きました。

実は、お爺さんは10日前から来年の冬を越すための薪を集めてました。

自分で山に生えてる木を切り倒してから作る薪は、雨や雪に当たらないようにして乾燥させ燃やせるようにするのに、何ヵ月も掛かります。

ですから、お爺さんが10日前から切り出しに行ってる薪は、もう直ぐやって来る冬ではなく、次の次にやって来る冬のためでした。

それは、年々、歳を取る毎に、辛くなる仕事でしたが、ちゃんとそれをしてないと、(いず)れは冬の寒さで凍え死んでしまうのが分かってるので、しない訳にはいかない大事な大事な仕事でした。

お爺さんは、去年の秋は上手く薪を集められませんでした。

ですから、次にやって来る冬の薪が足りるか心配でした。

でも、それは今さらどうにもなりません。

どうしても足りなくなったら、まだ乾いてない今年の薪を燃やすしかないと思ってました。

そんな事もあってお爺さんは(今年はちゃんと薪を揃えよう!)と、思ってたのです。




 お婆さんが居なくなってから、何年か過ぎた秋の事でした。

本土で暮らす長男が「父さんも、もう歳で体も弱ってきてるだろうから、もう一人で暮らすのは止めて、僕達と一緒に暮らしてはどうかな?」と、電話で言ってくれた事がありました。

その時、お爺さんは本当は嬉しかったのですが「お前達の世話になるには、まだ早い。それに、私はこの島が好きで、この家も、庭から見る海も好きだし。それに・・・」と言った後(ここは私が生まれ育って、そして婆さんと一緒に暮らした家だからな・・・)と、心の中で思いました。

それで、お爺さんは長男の誘いを断ったのでした。

それからも長男は何度かお爺さんを自分の家で一緒に暮らしてはどうか?と誘いましたが、それをお爺さんはずっと断って今日まできたのです。



 朝ごはんを作る時に、お爺さんは、焼いたベーコンとチーズのサンドイッチも一緒に作りました。

それは、山に薪を取りに行った時に、そこでお昼に食べるためのものでした。

お爺さんは、朝ごはんを食べ終えると、玄関の近くに置いる手斧とノコギリと(なた)を縛り付けてある背負子(しょいこ)に、サンドイッチと紅茶の入ったポットを入れた小さなバックを、忘れずにロープで(くく)り付けました。

それから、今日は(あらた)に木を切り倒すので、大きな斧も背負子に縛り付けました。

お爺さんは「よっこら・・・せ!」と自分に掛け声をして、重たい背負子を背負うと、足の感覚を確かめながら玄関のドアを開け外に出ました。

そうして、お爺さんは、丘の上の向こうに広がる森を目指して、ゆっくりと歩き始めました。


 今日は、新たに木を切り倒さなくてはならない日でした。

お爺さんは、10日前に斧を使って木を斬り倒してましたが、その木はもう、ノコギリで幾つにも切り分けた(あと)に背負子で背負い、家の横にある薪置き場に運び終わってたのです。

斬り倒した木を切り分けるのも、運ぶのも大変な苦労ですが、木を切り倒すのは、大変な上に危険でもありました。

それは、木を切り倒す時に、斧で木を倒したい方向に合わせて大きく切れ目を入れるのですが、それが見間違いをして思ってたよりもズレたりすると、自分の方に倒れて来る事があるからです。

それでお爺さんは、朝に奇妙な夢を見た事もあって(今日は、特に気を付けて仕事をしないといけない)と、思ってたのでした。


 お爺さんは、森から木を運んでる時にも、辺りの木の育ち方を見てました。

それで(次は、あの木が良いだろう)と、当てを付けてた木があったので、今日はその木に向かって歩いてました。

そうして、お爺さんは黙々と山道を歩いてましたが、ふと立ち止まると背負子を下ろし、その脇に括り付けてた(なた)の紐を解き、地面に鉈を置きました。

それから、もう一度、背負子を背負うと、地面に置いてた鉈を手に取り、道から外れて、森の中に分け入りました。

お爺さんが歩いてた山の森の小道は、それまで、お爺さんや、お爺さんのお父さんや、ひいお爺さんの家族が踏み固めて作ってきた小道で、お爺さんはそのお陰で山から薪を運ぶのに楽をさせてもらえました。

でも、そうした道の周りの木は、今では小さな木が多くなってましたので、お爺さんはそこから脇に入って、鉈で低い木の枝を払いながら自分で道を作っては、木を切り出す事も多くなってたのです。

「やっぱり、あの木がちょうど良いな」と言ったお爺さんは、額に少し汗が浮いてました。

それはお爺さんが、以前から山道を通る度に遠くから見てただけでしたが、(あの木は、ちょうど良さそうな大きさだ)と、思ってた木でした。

お爺さんは『その木』に近付いて来た時、草を刈る手を急に止めました。

そして、そこから『その木』を見上げてました。

「この光景は・・・?」

お爺さんは、驚いたのです。

それは、この場所から見てる『その木』は、今日の朝に『夢で見た木』と同じに見えるからでした。

「私は、この木を間近で見るのは初めての筈だが・・・どうして夢で?」

お爺さんは、奇妙な出来事に戸惑いました。

それで(この木を切り倒すのは良くないのではないのか?この木は、切り倒されるのが嫌だから、あんな夢を自分に見せたのではないのか?)と、思いました。

でも、夢の中では、自分は斧を振るって『その木』を切ろうとしてましたし、夢はそこで終わってましたから『その先は分からない』と、思えました。

「そうなら・・・『あの木』は、私が切り倒す(さだ)めなのかも知れない」

お爺さんは、自分に言い聞かせるようにして呟くと、また鉈を振り始めました・・・。


 お爺さんは、その木の根元の周りに生えてる低い木の小枝や草を、鉈でザクザクと切ったり刈ったりしました。

木々は色付き、その枯れた葉の多くをを落としてましたが、森の下草は、まだ青々と(しげ)ってました。

それは、これから斧を振るって、この木を切り倒すのに邪魔になるからでした。

そうして、下準備を終えたお爺さんは、ここで一休みしようと、背負子に括り付けてある小さなバックから、ポットを取り出しました。

ポットの注ぎ口の方には、カップとして使える蓋があるので、お爺さんは、蓋に紅茶を少しだけ注ぎました。

すると、それまで切られた草の匂いがしてた辺りには、紅茶の匂いが広がり散っていきました。

お爺さんは紅茶の匂いを嗅ぐと、心が落ち着きました。

そして、これから切り倒す木を見上げてながら、蓋に入った紅茶を、木の根元に撒きました。

「すまんが。お前さんをこれから切り倒させてもらうよ」

お爺さんは、これから切り倒す木を見上げると、そう語り掛けました。

木はもちろん何も答えません。

聞こえるのは、絶え間無い小鳥がさえずりと、虫の声です。

お爺さんが黙って木を見上げてると、サァ~っと風が吹きました。

辺りが一瞬でざわつきます。

木が枯れ葉を散らしながら小さく揺れました。

それは、残り少なくなった命をユラユラと風に(なび)かせてるように、お爺さんには見えました。


 お爺さんは思いました。

この木は遠くから、自分がまだ子供だった時を見てくれてたのだろうと。

その子供が、大人になって、結婚して、それから子供を育てて、そして妻と死に別れて・・・・爺さんになって・・・・そして、今は自分を斬り倒しに来たのを見てるのだろう・・・と。

お爺さんは一度、ポットに蓋をして地面に置くと、これから切り倒す木に両手を当て目を閉じ、少しの間、黙って居ました・・・。

それから目を開けると、地面に置いてたポットを手にとって、今度は自分が飲むための紅茶を注ぎ、飲みま「はぁ~」っと息を吐きました。

「さて。始めるか・・・」

お爺さんはそう言うと、背負子から斧の紐を解きました。


いよいよ、この木を切り倒すのです・・・。



    カーン!・・・・・・・。

  カーン!・・・・・・・・。

カーン!・・・・・・・・。


森に規則正しい音が響きます。


    カーン!・・・・・・・。

  カーン!・・・・・・・・。

カーン!・・・・・・・・。


それは、お爺さんが、木を切り倒すために斧を振るってる音です。


お爺さんは、この木と他の木の距離や、森の斜面の傾き具合などを見て切り倒す方向を決めてから、最初の斧を打ち込みました。

そして、それから時々、木の切り口を確かめたり、木の傾きを見たりしながら、繰り返し繰り返し、斧を振るってました。

そうして、ずいぶんと時間が過ぎた頃でした。

ミシ!っと、(みぎ)から音が響いたのは。

その音は、お爺さんが思ってたよりも、少し早かったので、お爺さんは一瞬、木の傾きを確かめるのに見上げようとしました。


「あぶない!逃げて!!」


聞いた事のある男の子の声でした。

お爺さんはハッとして、自分が切り口を開いてた幹を見ました。

すると木の幹は突然「バキバキ!!」っと大きな音を響かせると、弾けるようにして切り口から裂けたのです!!

そして木は、そこから上と下が「バシン!!」という音と共に分かたかと思うと『ダルマ落とし』のようにして「ズン!!」っといきなりずれたのです!!

驚いた小鳥が叫び声のような鳴き声で鳴き、それが山に響きます!

気付けば木は、お爺さんの方へと向かって倒れ始めました!!


倒れて来る木を見上げたお爺さんは(もう間に合わないな・・・)と、覚悟を決めました。


その時でした!

お爺さんの手が、力いっぱい引っ張られたのです!!



『ズズズン!!!』

大きな音を立てて、木が倒れます!!

辺りには、斬り倒された木の枯れ葉が、木が倒れる時に起こした風と共に舞い上がりました!








辺りには、木が切り倒される前と同じように、小鳥のさえずりがしてました。


気が付けば、お爺さんは倒れた木の直ぐ横に倒れて居ました。


「あぶなかったぁ~・・・・」

お爺さんの直ぐ横から、さっきの男の子の声がします。

お爺さんが声のした方を見ると、あの時の男の子が、お爺さんと一緒に倒れて居ました。

「お・・・お前さんが・・・?」

お爺さんは直ぐに『この男の子が自分の命を救ってくれたのだ』と分かりました。

「どうして?こんな山の森のに、お前さんが!?・・・いや!それよりも、ケガはないか!?」

お爺さんは、自分の体が無事だったのか確かめるよりも先に体を動かし、男の子がケガをしてないか確かめました。

男の子は驚いたのか、まだ目を閉じたままですが、幸い何処にもケガをしてるようすはありません。

男の子はうっすらと目を開けると「だいじょうぶ・・・どこも痛くないよ」と、言いました。

お爺さんは心底(しんそこ)ホッとしました。

それから「ああ・・・良かった・・・良かったぁ・・・」と言うと、自分達がどうなってるのか気になり、辺りを見回しました。

すると、お爺さんは、一瞬で青ざめました・・・。

それは、倒れた・・・いや、お爺さんが切り倒した木が、お爺さんの右足の直ぐ近くに幹を横たえてたからでした・・・。

あとほんの少し避けるのが遅かったら、お爺さんは、危うく木の下敷きになるところだったのです。


男の子が手を引っ張ってくれなければ、大怪我をして動けなくなって居たか・・・死んでたでしょう・・・。


お爺さんは、少しの間、呆然としました。

そして「こんなヘマをしてしまうとは・・・」と、呟きました。


「うう・・ん・・・」と、男の子は声を出すと、起き上がろうとしました。

お爺さんはハッとして「おお!どうだ?もう立ち上がれるのか!?」と、男の子に手を差し伸べながら聞きました。

男の子は「うん。おどいたけど・・・もうだいじょうぶ」と言って顔を上げると、お爺さんの手を取って立ち上がりました。

男の子は「お爺さんは?ケガは?どこも痛くない?」と、お爺さんに聞くので、お爺さんは「ああ・・・!ああ・・・無事だよ・・・。お前さんのお陰で、無事だった!」と、深く感謝の言葉を伝えました。

男の子は笑顔になると、服に着いた枯れ葉や土を払いながら「よかったぁ~・・・。ぼく、木を切ってるお爺さんを見てたんだ。そしたら木が変な方に倒れそうになったから、びっくりして叫んで・・・それから走って!そしてお爺さんの手を掴んで木が倒れて来ない方へと引っ張って・・・それで、気が付いたら倒れてた・・・お爺さんと一緒に・・・」と、言いながら、涙を浮かべました。

お爺さんは、泣きながら一生懸命に話す男の子の話しを聞いてる内に、涙が出てきました・・・。

それは、この子が居なければ、自分はどうなって居ただろうと思っての涙ではありません。

小さな男の子が、自分の身がどうなるかを考えもせずに、お爺さんの命を全力で救ってくれたからです。

その有り難さに涙が溢れてしまったのです・・・。


 それから少しの間、お爺さんは目を閉じ、溢れてしまう涙を止めようとして体を震わせて居ました・・・・。

そうして、やっと目を開ける事ができた時。


もう、そこに。

男の子の姿はありませんでした・・・。



お爺さんは、驚き。慌てて辺りを探しました。

背負子もそのままに走り出すと、山道まで戻って見ました。

でも、道の登った先を見ても、下った先を見ても・・・そこにも男の子は見当たりません。

それからお爺さんは、山道を走って下りながら男の子を探しました。

気が付けば、お爺さんは、自分の家の近くまで降りてました。

丘の上から下る道、砂浜、家の周り・・・・。

お爺さんは男の子を探し回りましたが、それでも男の子は、どこにも居ませんでした・・・。

「あんな小さな男の子が、そんなに足が速いはずは・・・」

さっきまで焦ってたお爺さんは、一転して、途方に暮れました・・・。


お爺さんの心の中は『命を助けてくれた男の子に感謝の気持ちしかない』筈だったのに・・・。


今はただ。


『あの男の子は、いったい何者なのだろうか?』と、言う思いでいっぱいになってしまったのでした・・・。



 つづく



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