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僕のおじいさん 春 夏 秋 冬  作者: 天ノ風カイト


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3/7

2 暑い夏は砂浜の波打ち際で

 夏


 この日は朝から暑くなりました。

お爺さんは、いつも、とても早起きだったので、夏でも日の出よりも早く起きてパジャマから普段着に着替え、それからいつもの椅子に腰かけ、窓から見える海の向こうの水平線から太陽が昇り始めるのを待って居ました。

そうして、天気が荒れてない日は庭先に出て、丘の上から海と日の出を眺めるのが日課でした。



 お爺さんの家が建つ丘の麓に広がる海岸は砂浜で、海水浴をするには絶好の場所でした。

そこには夏になると、この島や島の外からやって来る、たくさんの人達が泳ぎに来たり、キャンプを楽しんだりしてました。

その人達は、昼間は泳いで騒いで、夜には焚き火や花火をして騒ぐので、お爺さんは夜にぐっすりと寝られなくなる日が多くなりました・・・。

それでも早起きのお爺さんだったので、今朝もこうして海を眺めてたのです。

丘の上から海岸の砂浜を見ると、いくつものテントが張られてました。

そして、その内のいくつかには、焚き火の後がありました。

火は全部消えてるのでしょう。煙も出てません。

まだ誰も起きてないようで、誰も朝ごはんの準備をしてません。

お爺さんは、昨夜は楽しんだ人達が寝静まってるようすを見下ろすと、水平線の向こうから登って来た朝日を見て迎えました。

「今日も太陽さんが迎えに来てくれたか・・・」と言ったお爺さんは、太陽に向かってお祈りをしました。

それは、今では毎日が楽しいと思っていないお爺さんでしたが(今日も太陽が自分を迎えに来てくれた・・・。)と思っての感謝からでした。


 多くの人達にとって太陽は『お爺さんのためにある』のではありません『みんなのためにある』のです。

お爺さんだって、子供の頃は『毎日、太陽が昇り、それから沈むのは、自分や周りのできごととは関係無く続く当たり前』と思ってました。

それからお爺さんが大人になってからは『太陽はみんなを照らしてくれる暖かなもの』と思うようになりました。

そう信じてました。

なのにお婆さんが亡くなって家に独りになって・・・それから何年かした頃からでした。

お爺さんは『もしかしたら、太陽は自分のために昇って来てくれるのではないだろうか?』と、考えるようになったのです。

それは、子供の頃から学校で教わった『宇宙に地球は浮かんでいて、太陽の周りをグルグルと回っていて、太陽が昇ったり沈んだりするのは、地球がクルクルと回るからで、君たちはその地球の上に立って見てるからだ』との話とは違ってましたから、お爺さんは最初の頃は『そんなことはあるはずがない』と思ってました。

それでもお爺さんは、独りで毎日のように朝日が昇って来るのを見てるうちに、少しずつ感じ方が変わっていったのです。

それから、もっともっと時間が経つに連れ、考え方も変わっていったのです。

そして、今では『太陽は毎朝、自分を迎えに来てくれてる』と考えるようになったのでした。


 それからお爺さんは、昼間は詰まらないと思えたり、夜には寂しく思い・・・寝る前にはお婆さんの事を思い出して涙が出る日もありましたが、朝はいつも『今日も太陽が自分を迎えに来てくれたんだ・・・ありがとうございます

!』と感謝して、毎日をなんとか頑張って、そして少しでも楽しんで生きようと思えるよになったのでした。


 お爺さんは丘の上の庭から、赤い太陽が海から上がって来るのを有り難い気持ちて迎えると、胸とお腹をギュ~っと引っ込めって「はぁ~・・・」っと息を吐きました。それから丘の下から上ってくる潮風を鼻から「すぅ~・・・」っと、胸一杯に吸い込みました。

それから、また「はぁ~・・・」っと息を吐くと、また「すぅ~・・・」と吸いました。

そうしてお爺さんは深呼吸を何度か繰り返しました。

「う~ん・・・・今朝は、潮の匂いが強いな」

お爺さんは、そう言って、赤色から黄色に変わり始めた太陽を背にすると、自分の家の方へと歩いて行きました。

これから自分のための朝ごはんを作るのです。


 お婆さんが体調を崩して二人でやってた漁師を辞めて、それからお婆さんが亡くなる迄の間、お爺さんはお婆さんの世話をして暮らしてました。

それは、お爺さんは、それまでお婆さんに苦労を掛けたと思ってたので、その恩返しの気持ちもありました。

ベッドに寝てる時間がとても長くなったお婆さんは、そんなお爺さんに時々言いました。

「てっきり、私があんたの世話をして終わるかと思ってたのに、こんな事になるなんてねぇ・・・」と。

お婆さんにそう言われたお爺さんは、いつも少し寂しそうな顔をすると「私のわがままに付き合ってくれたお礼だ。何も悪いと思うことは無い」と答えてました。

それから何年かした5月のある朝、お婆さんは旅立ちました。

3日前にお爺さんが電話で呼び寄せた二人の息子や娘と、その家族が見守る中でした。

ベッドで眠ってる時間が長かったお婆さんでしたが、亡くなる少しの前にして目を開けると、ベッドの側の窓から差し込む朝日を見つめ、目を輝かせました。

それから大勢の家族に向かって言ったのです。

「今日は、人生で最高の朝を迎えたわ・・・」と・・・。

お婆さんの顔は、まるで子供に戻ったようにキラキラとしてたので、夜通し見守って居た家族は『お婆さんはこれから元気になるのでは?』と、思いました。


しかし、それから直ぐでした。

お婆さんが帰らぬ人となったのは・・・。


お婆さんは家族に向かって、最高の感謝の言葉と笑顔をプレゼントして去って行ったのです。



 この数年。

お爺さんの毎日は、お婆さんとの日々を思い出す事が多くなってました。

最近の事よりも、昔の事の方が気掛かりなのです。

もう、二度と変える事も、そして帰る事もできない昔の事ばかりがずっと気掛かりで、大事になっていたのでした。


 


 ジリリリリ〜ン!!


お爺さんの家の電話が突然鳴りました。

いつもの椅子に腰掛け、お婆さんとの事を思い出しながらウトウトとし始めてたお爺さんはハッとしました。


ジリリリリリ〜ン!


ジリリリリリ〜ン!


ジリリリリリ〜ン!


ジリリリリリ〜ン!


ジリリ〜ン・・・。

「はい・・・もしもし」

お爺さんを呼ぶ電話のベルを止めたのは、椅子から立ち上がって受話器を取ったお爺さんでした。

「ああ・・・お前か。・・・ああ。何でも無いよ。一人で気楽にやってる。」

電話の相手はお爺さんの息子、長男でした。

他の子供達もそうですが、島で一人で暮らすお爺さんを心配して、時々電話を掛けてくれるのです。

毎日の生活に余りの変わった事が起きないお爺さんは、子供達から電話が来ても、そんなに話したい事は有りませんでした。

ですから、子供達との電話での会話の殆どは、お爺さんが息子や娘の話を聞いたり、孫の事が殆どでした。

ですから、せっかく子供達が自分の事を心配して電話を掛けてくれても、お爺さんは聞き役になる事が殆どだったのです。

最近では、一年に2回程しか会う事も無くなった孫の話し等を聞くお爺さんは、孫達の成長が嬉しくもあり、そしてちょっぴり淋しくもありました。

そして、あと何年かすれば、きっと孫達は大人になってしまい、もう毎年お爺さんに会いに来るという事は無くなるだろうとも思っていたのでした・・・。



 8月のある朝。

この日は穏やかな天気でした。

お爺さんは、いつものように丘に立って日の出を待って居ました。

そうして、水平線の向こうから朝日が昇ってお爺さんを赤く照らしてくれました。

お爺さんは、両腕を少し広げて太陽を迎えました。

そうして、いつものように深呼吸をしました。

すぅ~・・・はぁ~・・・。

すぅ~・・・はぁ~・・・。

すぅ~・・・はぁ~・・・。

「なにこれ?気持ちいいね。」

突然の子供の声に、お爺さんは驚きました。

見るとお爺さんの隣には、見知らぬ男の子が立って、お爺さんと一緒に深呼吸をしてたのです。

見知らぬ子・・・?

いや。

始めはそう思ったお爺さんでしたが、その子には見覚えがありました。

今年の春に、お爺さんの庭に突然現れた男の子だったからです。

「お前さんは、いつからそこに・・・?」

お爺さんは、こんな朝早くに、人里離れた小高い丘に建つ自分の家に、子供が一人で来る訳が無いと思い、辺りを見回しました。

でも、ここには、自分と男の子しか居ません。

「お前さんは、誰と一緒にここに来たんだい?」と、お爺さんは男の子に聞きました。

男の子は「誰と?・・・お爺さんと一緒に来たんじゃない!」

「お爺さんって・・・・」と言って、お爺さんはもう一度辺りを見渡しました。

しかし、やっぱり、ここには自分と男の子の二人だけしか居ないのです。

「お爺さんは、いっつも海を見てるのに、海の近くに行かないの?」

「あ・・・いや。ここから海辺迄は、こう見えて遠いからなぁ・・・。」

「そんなに遠く無いよ。こっから、ほら!そこまでだよ!?」

「丘の上から見れば直ぐ近くに見えるが。この丘をずっと下って・・・ほれ、あの道へと出て・・・それから、あの砂浜の入り口にやっと出られるんだから・・・。」

「そんなの、直ぐだよ!」

「お前さんなら直ぐかも知れないが・・・私の足では・・・」

「そんなこと言ってると、来年は本当に海まで歩けなくなるかも知れないよ?」

「来年は・・・かぁ・・・。」

「今らな、まだ行けるよ!」

「う~ん・・・。だが、行けたとしても、帰るのがしんどいからなぁ・・・・。」

「帰りは僕が手を引いてあげるからさ!ね?行こうよ!」

男の子はそう言うと、お爺さんの手をとって、丘を下り始めました。

お爺さんは戸惑いながらも、何年も前に孫に手を引かれ、海まで行った時の事を思い出してました。

そして、お爺さんは不思議に思ってました。

それは、自分の手を引く男の子は、春に一度だけ会っただけで、どこから来たのかも分からないに、ずっと前から知ってるような心地よさを感じてしまうからでした。

男の子は、お爺さんの手を無理に引っ張ったりしませんでしたので、お爺さんは丘を下る道をゆっくりと歩いてました。

お爺さんが一歩、また一歩と丘を下る度に、砂浜の海岸線は近くなって見えます。

それは、今から10年ぐらい前のお爺さんなら、見慣れた景色でした。

でも、今の足腰が弱ったお爺さんには、もう見ることも無いかも知れないとおもってた景色なのでした。


どれぐらいの時間を歩いてたのか。

どれぐらいの疲れを感じてるのか。

お爺さんは、良く分からなくなってました。

気が付けば、お爺さんは男の子に手を引かれて、砂浜の入り口に立って居ました。

そこは、お爺さんがいつも丘の上から見てた場所です。

今となっては、近くても遠いと思ってた場所です。

お爺さんは、そこに立って居ました。

辺りには、キャンプをしてる人達のいくつかのテントが建てられてます。

昨日は遅くまで騒いでたからなのか、日の出を待ちわびてた人は誰も居なかったようです。

早起きして朝食を作る人も誰も居ません。

夕べから夜明け前に掛けて焚き火をしてた後は、今は(くすぶ)った匂いをさせてるだけでした。


「海に行こうよ!」

男の子が元気にお爺さんに言いました。

「海って・・・。」と、お爺さんは戸惑って言うと、海を見ました。

いつもは丘の上から見てた海の波は、海岸線で「ザァー・・・!・・・・ザァー・・・・!」と、波音を立ててました。

それは、お爺さんが漁師として働いて時には、毎日のように聞いてた音でした。

お爺さんは、男の子の手を握りながら、ゆっくりと海辺に立ちました。

目の前には、見慣れた海なのに、忘れかけてた海が広がってました。

お爺さんは、目を閉じました。

すると、目蓋の裏には、お婆さんと一緒に魚をとって暮らしてた時の光景が広がりました。


魚がたくさん獲れて喜び港にもどり、その魚を家族総出で箱詰めするのに苦労した日。


魚が全然獲れなくて気落ちして港に戻り、苦労だけした一日に眠れなくなった日。


子供達が大きくなって、お婆さんと二人だけで何年も漁師の続けてる内に、知らず知らずに年老いてた事に気が付き『あと何年、この仕事を続けられるだろうか?』と、寂しく思った日。


そして、お婆さんが病気になって入院してしまい、自分一人では、もう漁師を続けられ無いと思って、大事な船を売り払った日・・・。


目を閉じるお爺さんの目には、涙が滲んでました。

お爺さんは、お婆さんと一緒に過ごした日々が、遠い思い出になってる事に悲しくなったのです。



「お爺さん・・・泣いてるの?」

男の子の声に、お爺さんはハッとして目を開けました。

「い・・・・いや。潮風が目に染みただけだよ・・・。海辺まで降りてきたのなんて、何年ぶりか・・・。」

「ふぅ~ん・・・。」と言った男の子は「せっかくだからさ。海の水に触って行こうよ!」と、お爺さんを波打ち(ぎわ)まで行こうと誘いました。

お爺さんは「そうだな。・・・・じゃあ。」と言って、砂浜に座り込むと、靴を脱ぎ始めました。

すると、そんなお爺さんを見てた男の子も、お爺さんと一緒になって靴を脱ぎ始めました。

お爺さんは、そんな男の子を隣に見て「ふふ・・・。」っと、笑いました。

お爺さんは少し楽しくなってしまったのです。

二人は裸足になりました。

それから二人して、ズボンの裾を膝まで(まく)り上げると、立ち上がりました。

お爺さんは、男の子に向かって「じゃあ。足を海水に()けてみるかな?」と、微笑みながら言いました。

男の子は「うん!ぬるいよ!きっと!」と言って、海に向かって走り出しました。

お爺さんは「子供は急かしいもんだな。」と、少し驚いてしまいましたが、直ぐに男の子の後を追いました。

海に足を入れたとたんに、男の子は「ひゃ!」っと、声を上げ、(すく)みました。

そして「つぅ~ぅぅ・・・・!」

「つう?」

「冷たい!!」

「はは!」

「思ってたより冷たいよ!」

「この島は、冷たい海流が通ってるからな。海の水は夏でもそんなに温かくはならないんだ。」

お爺さんは、そう言いながら波打ち際に近づくと「どれどれ。」と言って足を海水に浸けました。

すると「うっは!」と、声を上げて「これは思ったよりも冷たいな。」と言って「はっはっはっ!」と笑いました。

海の水は確かに冷たかったのですが、それはそれで海水浴ができる島の夏の温度だったので、我慢できないほど冷たい訳ではありませんでした。

なので二人は、最初は冷たいと思った海の水の温度にも、だんだんと慣れてきたのでした。

お爺さんは、とても久しぶりの海水に、体の中に溜まった悪いものが吸い出されるような心地よさを感じてました。

「海に足を浸すだけで、こんなにも体が楽になっていくとは、不思議なものだな・・・毎日のように海で仕事をしてる時には、こうは思わなかったが・・・。」

お爺さんはそう言うと、潮風をイッパイに吸い込み、それから続けて深呼吸をしました。

「ああ・・・・海は、いいな。毎日のように丘の上から眺めてはいたが・・・・海はいい。」

お爺さんはそう言うと、隣で海の砂を足で踏んで感触を楽しんでる男の子を見ました。

それから二人は、少しの間、海に足を浸しながら、砂浜や、お爺さんの家のある小高い丘や、水平線を眺めたりしてました。


「そろそろ。もどろうかな。」とお爺さんが男の子に言うと、男の子は「うん!」と言って、お爺さんの手を握ってきました。

お爺さんは、自分に懐いてる男の子に少し驚きましたが、男の子の手を握ると、一緒に砂浜に置いてた自分達の靴の方へと歩きました。

二人が靴を履いて立ち上がると、やっと起き出したキャンプをしてる人達が、昨夜の焚き火の後にもう一度薪を並べて火を着け、朝ごはんの準備を始めようかとしてました。

そんな様子を見たお爺さんは(丁度よい時に帰れるな。)と、思いました。

それは、遊びでこの島に来たり、この砂浜に来る人達と、お爺さんのように、ここに住んでる人達とでは、同じ砂浜に立ってても、気持ちの違いがあったので、キャンプをしてる人達が砂浜に多くなると、お爺さんは居心地が悪くなる気がするからでした。



 男の子は、丘の上からからお爺さんを誘い出す時に約束してくれたとおりに、帰りにはお爺さんの手を引いて、丘の上のお爺さんの家まで続く小道を、登ってくれました。

お爺さんは、久しぶりの上り坂を、休み休み登り、やっとの事で家の庭先まで戻りました。

男の子が「あそこに座って休んでから、家に戻ったらいいよ。」と言って、お爺さんの庭の板で作ったベンチを指差したので、お爺さんは「ああ。疲れたから、とりあえず、そうするよ。」と言ってベンチに腰掛けました。

そうしてお爺さんが、男の子が居た方を振り返って「お前さんは・・・」と言ったのですが・・・・・。


そこにはもう、男の子は居ませんでした。

お爺さんは、疲れてましたが、男の子がどこに行ったのか不安になり、たった今、来たばかりの道を見渡しました。

でも、そこに男の子の姿はありません。

家の周りも探しましたが居ません。

お爺さんは、男の子の行方が分からず不安になりましたが、春に出会った時もそうだったのに、また会えたのだから、やっぱり島の子で、それも案外、近くに引っ越してる家族の子なのかも知れないと思いましたが、それでも不安だったお爺さんは、島の駐在さんに電話をして、誰か男の子を探してないか聞こうと思いました。


 駐在さんとは、交番と家が一緒になってる所で住み込みで働いてる警察官です。

今の駐在さんは、20年近くも前からこの島で暮らしながら駐在所で働いてる男の警察官で、今では島の人達にすっかり親しまれてました。

島の人達みんなは、駐在さんを『同じ島の人』と思ってるのです。

それで島の人達は親しみを込め、その男の警察官を「駐在さん」と呼んでるのでした。


 お爺さんは家に入ると早速、電話機の前に立ち、受話器を取りました。

そして、電話の横に置いてある手書きの電話帳から、駐在所の電話番号を探しました。

手書きの電話帳は、お婆さんの字と数字が書かれてました。

お爺さんは、電話帳を見ながら、お婆さんの事を思い出しましたが、直ぐに気を取り直して、駐在所の電話番号を探し出し、それからダイヤルを回しました。

お爺さんが駐在所に電話すると、駐在さんは直ぐに電話に出てくれました。

お爺さんは、それだけで(駐在さんは、島の見回りをしてたりする事が多くて、なかなか電話に出てくれない事も多いから、今日は運がよかったな。)と思いました。

お爺さんは「誰か、この島で男の子を探してる人は居ないだろうか?」と聞きました。

駐在さんは「男の子・・・・?う~む・・・いや、誰も子供が居なくなったとか言ってないし・・・。そんな捜索願(そうさくねがい)とかも無いですが・・・何かありましたか?」

「ああ・・・いや、実は今朝、見知らぬ男の子が私の家の庭に居たので・・・。」

「そうですか・・・う~む。それは、もしかしたら、キャンプとかで来てた人達の子ではないですかな?」

「確かにそうかも知れませんが・・・。」

「それで?その男の子は、その()は、どうなりましたか?」

「それが・・・・気が付いたらどこにも居なくなってたので、気になったので。」

「それで、駐在所(こちら)に、電話してきたって事ですか。」

「まぁ・・・そうなんですが。この(あと)も誰も探して無いなら、あの子は、無事に帰ったって事でしょうから・・・それなら、安心なのですが。」

「事情は分かりました。それなら、何か分かりましたら、そちらにお電話しますので、あまり心配せずに居て下さい。」

「そうですか・・・。分かりました。では、失礼します・・・。」

お爺さんは、最後にそう言うと、静かに受話器を置きました。

それからお爺さんは、下ろした受話器を握り絞めながら目を閉じました。


「あの子・・・・なぜか今年の春にも会ったが・・・。思えば、その前からあの子を知ってたような・・・いや、誰かに似てるような・・・?」


お爺さんは、そう独り言を呟きました。

お爺さんは、自分でも気が付かない内に、あの男の子に懐かしさを感じてた事に気が付き、ふと、振り返りました。

そして、窓を見ると目を細め、その先に広がる眩しい夏の光に照らされキラキラと輝く海と、庭の草木を見つめました。


「私はあの子を、ずっと昔から知ってた・・・?」

お爺さんは、自分の中に沸き上がる不思議な考えに戸惑いました・・・。



 つづく



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