第五話 変わらないもの
第5話公開します
数字は変わらない。
——これは絶対だ。
そう信じるようになったのは、愛理のことがあったからだ。
愛理は、思ったことをはっきり言う子で、涼香に少し似ている。
けど、誰よりも人を信じる。傷つけられることがわかっていても、信じることをやめない。
私は、そんな愛理の真っ直ぐさが、少しうらやましくて、すごく好きだった。
出会ったとき、彼女の寿命は「290日」の黄色。
その数字を見た瞬間、心の奥のほうで、何かが鈍く裂けた気がした。
290日。
それは「いつかの未来」じゃなく、「今もうすぐそこにある終わり」だった。
仲良くなるほど、愛理の笑顔を見るほど、その数字が私の中でカウントダウンの音を立てた。
彼女が笑うたびに、あと何日なんだろう、と無意識に数えてしまう自分が嫌だった。
でも、黙っているほうがもっと耐えられなかった。
だから私はついに、愛理に寿命のことを打ち明けた。
愛理は戸惑った。
そりゃそうだと思う。
突然、「あなたの寿命はもうすぐ終わる」なんて言われたら、誰だってパニックになる。
それでも愛理は、私の言葉を信じてくれた。
信じてくれたことが、どれだけ嬉しかったか。
そして同時に、どれだけ怖かったか。
——守らなきゃ。
そう思った瞬間から、私はもう冷静じゃなかったんだと思う。
残り10日。
私は愛理を泊めるために、彼女の家族を説得した。
「お泊まり会だから大丈夫です」なんて嘘をつきながら、胸の奥では「これで助けられる」と信じていた。
最初の2日間、愛理は私のそばにいてくれた。
一緒に笑って、一緒にご飯を食べて。
でも、心のどこかにずっと不安があったのだろう。
3日目の朝、愛理は「少し外に出たい」と言った。
その瞬間、血の気がひいた。
外に出たら、死ぬ可能性が来てしまう。
それだけで、頭が真っ白になった。
「ダメだよ、愛理。今は危ないから」
声が震えていた。
でも愛理は、私の言葉より、自分の息苦しさのほうを優先した。
きっと閉じ込められているような気分だったのだと思う。
私は守っているつもりだったけど、愛理にとっては“拘束”にしか見えなかったのかもしれない。
それでも私は、必死で止めようとした。
止める理由が正しいかどうかなんて、もう考えられていなかった。
そして、その夜。
寝ている愛理を見ながら、私は南京錠をかけた。
ドアも、窓も、中から絶対に開かないように。
——「これで守れる」
そう思った瞬間、胸が少し軽くなった。
でも、その軽さが一番の間違いだった。
愛理は私を恨んだ。
当然だ。
「あなたは死ぬから、外に出てはだめ」
そう言われても、彼女にとっては何一つ証拠がない。
信じたいけど信じられない。
その狭間で、愛理は追い詰められていたんだと思う。
そして、愛理は自ら命を絶った。
数字が0になった瞬間、愛理は息を引き取った。
まるで数字に従うように、定められた時間に。
私はその姿を見て、気づいた。
——数字は変えられない。
どれだけ守ろうとしても、どれだけ願っても、どれだけ愛していても。
数字の書かれた未来は、絶対に変わらない。
ただ一つ変えられるものがあったとしたら、
それは、愛理の最後の10日間が“どんな気持ちだったか”だけだ。
そして私は、その10日間を、最悪の形で終わらせてしまった。
私は、今、同じような状況にいる。
最愛の幸助の寿命は短い。
今度は、この356日を最高の状態で終わらせたい。
356日目に幸せな顔で幸助に旅立ってほしい
私が与えた幸せが、死んでもなお幸助の中にずっと残るようにしたい。
私が、こんなことをしている間だって、幸助の短い、短い寿命は減っていく
寿命が短いことに落ち込んでいる暇はない。
だから…
私は、意を決してこう答えた。
「喜んで」




