第三話 356
今回佳境です。
今日は、まちに待った幸助とのデート。
「しっかりおめかししていかないとね」
鏡の前でくるっと一回転しただけで、胸がふわっと軽くなる。
寿命のことなんて、すっかり忘れていた。
忘れたままでいられるなら、それだけで幸せだと思えるくらい。
「付き合ってくれ、なんて告白されちゃったら…どうしよう」
そんな妄想にふけって、ひとりで顔が熱くなる。
涼香にバカにされそうだけど……恋してたら、仕方ないよね。
そのまま浮かれた気分で水族館に到着した。
潮の香り、子どもの声、デートの空気。
全部が幸せに見えた。
そのとき電話が鳴った。
「加奈ちゃん、どんな服装してる? 俺は黒のシャツにジーパンで、茶色の靴」
声だけで心臓が跳ねる。
「待って、今探すか──」
私は、目を奪われていた。
ただそれは、幸助ではない。
幸助の上の数字だ。
「黄色の356…」
その瞬間、親友と初めて会った日のことがよみがえる。
あの時、彼女の数字は「黄色の290」。
それから会うごとに、日に従って確実に減っていった。
そして、ゼロになった日に――彼女は亡くなった。
あの時、確信した。
黄色は“死ぬまでの日数”。
胸の奥が一気に冷えていく。
私は、急に涙があふれてきた。
「どうしたんですか、もしかして加奈ちゃん?」
幸助の心配そうな声。
私は慌てて目元を拭って、なんとか笑顔を作る。
そして――
「大丈夫だよ、幸助。さ、デート楽しもう」




