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第13話 仲直り

第十三話公開します

「幸助、ひどい顔。」


私は笑いながら、幸助を見た。


「加奈だって、そんなに泣いてるよ。」


そう言って、幸助も笑った。


「これだよ。私たちは、こうでなくちゃ。泣いて立ち止まってる暇なんてない。」


幸助は、笑いながら頭を抱えた。


「そうだったな。これが、俺と加奈の幸せだよな。

……さっきは、本当にごめん。最悪なこと言って、加奈を突き放して。」


私は、もう迷わなかった。

ただ、笑顔で答えた。


「その話はおしまい。さ、一緒に帰ろ。」


「うん。一緒に帰ろう。」


私たちは笑った。

その笑い声は、葉のせせらぎに溶けていった。

——この時間が、いつまでも続けばいい。

私は、そう願っていた。


けれど、その空気を切り裂くように、突然、携帯電話が鳴った。


母からだった。


『あんたの彼氏、死んだ顔してる』


そう言った張本人。

今この瞬間、いちばん話したくない相手。


私は、着信を切った。


すぐに、また鳴る。


——本当に、うっとうしい。


もう一度、切った。


それでも、また鳴った。


これは埒が明かない。

そう覚悟を決めて、私は通話ボタンを押した。


「もしもし……何。」


怒りを隠すこともせず、そう言った。


「ごめんね……あんなこと言って。

それに、今まであなたを束縛してきたことも……本当に、ごめん。」


母の声は、弱々しかった。


——こんな声、初めて聞く。


いつもなら、母は絶対だった。

自分の言葉が正しく、娘は従うものだと、疑いもしない人だった。


私は、思わず聞いていた。


「どうして、急に謝ろうと思ったの?

今まで、お母さんは“自分がすべて”って感じだったのに。」


少しの沈黙。

そのあと、震える声が返ってきた。


「……そうだね。私はいつも、『あなたのため』って言いながら、全部押し付けてきた。」


母の声は苦く、後悔に沈んでいた。


「でも、違った。本当は、あなたのためなんかじゃなかった。

自分が選べなかった人生、その後悔を……あなたに背負わせてただけ。」


一息、息を呑む音がした。


「それを、おばあちゃんに話して……やっと気づいたの。」


そして、はっきりとした声で、母は言った。


「……本当に、ごめん。」


私は、母が憎かった。すごく憎かった。

私の人生を台無しにした。

本当に許せなかった。


でも、私は、今幸せだ。

今、私が母を拒絶したら、家族のつながりを永遠に失ってしまうかもしれない。

それだけは避けたかった。

だって、私は、孤独が嫌いだから。


私は、母に対してこう伝えた。


「私は、母が嫌いだ。いままでも、そして、これからも」


落胆した暗い声が聞こえている。


「でも、あなたが、あなたの罪を認めたのなら、許す。

私は、あなたを憎むかもしれない。

でも、私は、家族のつながりがなくなり孤独になることのほうが嫌だ。

だから、私はあなたを許す。」


それを聞いた途端母が泣きだした。


「本当にごめんなさい。

わたし、あなたをほんとうにくるしめた。

お父さんもいない不安もある中。

私は、あなたを縛っていた。

あなたは私のものでも何でもないのに…

ほんとにごめん。

そしてありがとう…

こんな私を許してくれて。」


私は、母の言葉を聞き、少し安心した。

でも、やってもらわないことがある。


「お母さん、幸助にも謝って、『あなたの彼氏死にそう』だなんて言って」


お母さんは、幸助に電話を切り替えたあと再度謝った。


「ごめんなさい。本当にごめんなさい。初対面にあんなこと言って本当にごめんなさい。」


幸助は、穏やかな顔をしてこう答えた。


「大丈夫ですよ。もう、気にしないでください。」


しかし、幸助は、内心穏やかではないだろう。

手が震えている。

あんなことを告げた後だ。気にしないなんて不可能だ。


私は、母との電話をすぐに切った。

そして、幸助に伝えた。


「幸助、こんなタイミングで寿命のこと言ってごめんね。先帰ってる。幸助、後で帰ってきて。」


その後、幸助は何をしたか私にはわからない。

ただ、帰ってきたとき、彼の眼は、凄く赤かった。



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