第11話 真実(1)
第11話公開します。
「ねえ、加奈、どうしちゃったの。俺は全然、大丈夫だよ」
幸助は困ったように、でも確かに私を気遣う目でそう言った。
――違う。幸助が大丈夫でも、そんなことは関係ない。
初対面で「死にそうな顔」なんて言葉を投げられて、平気なわけがない。
「どうしたの、加奈。確かに、俺に対してかなり侮辱的な言い方だったとは思う。初対面でそんなことを言うのもおかしいし、それを俺の彼女である加奈に伝えるのも変だ。でも……それだけで、こんなに泣くほどつらいのか?」
幸助は言葉を選びながら、静かに続けた。
「なにか、理由があるのか?」
私は答えたかった。
でも、理由を口にした瞬間、きっとすべてが歪む。
幸助は現実から目を背けるかもしれない。
――いや、信じてくれるならいい。
でも、もし信じず、「不謹慎だ」の一言で片づけられたら、私はもう二度と人を信じられなくなる。
それでも思った。
幸助なら、受け止めてくれるかもしれない。
たった四十八日しか一緒にいなかったけれど、それでも――この人なら。
私は少し息を吸い、口を開いた。
「これから話すことは、あなたにとって、とても酷で苦しい話です。
この言葉を聞いた瞬間、人生に絶望して、自暴自棄になるかもしれない」
幸助の表情が強張った。
「それでも……」
声がかすれる。
「それでも、幸助。
私のことを、信じてくれますか。
私の孤独を、すくってくれますか……いや、救ってくれなくてもいい。
ただ、私が話す真実を、信じて受け止めてくれる――そんな人生で最初の一人になってくれますか」
幸助はすぐには答えなかった。
加奈が話そうとしているものが、想像以上に重いことを感じ取っていた。
少しの沈黙のあと、彼は小さく息を吐き、真っ直ぐにうなずいた。
「ああ。大丈夫だ。
加奈の言葉は、全部受け止める。
そして……必ず、加奈を救う。約束する」
その言葉を聞き、私はほんの少しだけ笑った。
「ありがとう。じゃあ……ここを離れよう。
この場所では、話せないから」
私が幸助を連れてきたのは、人影のない路地裏だった。
街灯は途中で割れ、明かりは頼りない。
周囲には雑木林が広がり、聞こえるのは風に揺れる葉の擦れる音だけだった。
私は、数字を確かめるときの定位置に立ち、ゆっくり振り返った。
「……真実を話すよ。心して聞いて」
幸助は、その瞬間、これまで見たことのないほど真剣な表情で私を見ていた。
「私は、人の寿命が見える。
一年以上残っているときは赤い数字で年数が、
一年を切ると黄色で日数が、
そして一日を切ると青で秒数が見える」
私は息を整え、続けた。
「幸助。今、あなたの寿命は――三一〇日。
黄色の、日数表示」
幸助の顔から血の気が引く。
驚き、理解、追いつかない絶望――そのすべてが同時に浮かんでいるのが分かった。
それでも、私は止まらなかった。
「そして……この数字は、どんなにもがいても変わらない。
私の親友が、そうだったから」
喉がひくりと鳴る。
「だから、幸助。
あなたは三一〇日後に死ぬ。間違いなく」
幸助はかすれた声で聞き返した。
「……本当なのか」
私は小さく、でもはっきりとうなずいた。
「本当だよ……」
言葉が落ちると同時に、幸助の表情は完全に崩れ、声も出せずその場に立ち尽くす。
「ねえ……幸助」
少しの沈黙のあと、私は続けた。
「私たち、結婚しない?」
その言葉は、夜の空気に静かに立ちのぼる。
「幸助が死ぬ前に、私はあなたの妻でいたい。
あなたの妻として、幸助の隣を歩きたい」
一歩距離を縮める。
「だから……結婚しよう」
幸助はこの話を聞いた直後、突然笑った。狂気じみた笑みだった。
そして、笑いながら加奈に向かって最悪な言葉を投げつけた。
「何言ってるの、加奈。俺が加奈に本気だなんて思ってるの?
よくある大学生の恋愛に決まってるじゃん。
結婚?冗談じゃない。そもそも、彼女が欲しいなんて遊びでそんなつもり一切ない。
何勘違いしてるんだよ加奈。
俺はもう行くぞ。加奈、お前なんかにかまってる暇なんかねえんだよ。
忘れろ、消えろ。そんな重い話、こっちから願い下げだ」
その瞬間、幸助は堂々と加奈のもとから立ち去った。
ただ、その額には、涙がこぼれていた。




