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第9話 帰省(1)

第9話公開します

夏祭りからどれだけ経ったんだろう。

まだ胸のどこかで、あの灯りの残り香みたいな余韻が揺れている。


そんなときだった。一本の電話が鳴った。

プルルルル――。


画面を見ると、おばあちゃん。

胸がぎゅっとした。私はおばあちゃんが大好きだ。

お母さんにきつく言われたときも、味方になってくれたのはいつもおばあちゃんだった。

だから、“もしものこと”が頭をよぎって、慌てて電話をとった。


「もしもし、おばあちゃん!? 大丈夫? 具合悪いの?」


その心配は、杞憂だった。


「なに言ってんの、あたしゃまだまだあと50年は生きられるよ」


いつもの冗談めいた調子で、元気に笑っていた。

ふと気づいた。――あ、寿命が見える私にはわかるけど、おばあちゃんはあと23年は大丈夫だ。

心配して損した、と思って少しだけ肩の力が抜けた。


「で、何の用だったの?」


「加奈ちゃん、今度の休日にうちに来てくれない? 久々に顔が見たくてね。

あ、そうそう……お母さんも来るらしいよ。仲よくできてないの知ってるから、無理しなくていいけど。」


お母さん――。


胸が重くなる名前だ。

お母さんは、いつも“正しい道”ばかり押しつけてきた。

私が何を選んでも、「本気なの?」「もっと考えなさい」の繰り返し。

心配からだと頭ではわかる。でも、その言い方が刺さってしまう。


だけど、ふと思った。

彼氏を紹介するなら今しかない。

逃したら、きっとずっと紹介できずに終わる。

それだけは嫌だった。


だから私は深呼吸して言った。


「行くよ。……それと、幸助も一緒に連れて行っていい?」


おばあちゃんは驚くほど嬉しそうな声で答えた。


「もちろんさ! 加奈ちゃんに彼氏ができるなんて、あたしゃ涙出るほど嬉しいよ。ぜひ紹介しておくれ」


私は「わかった」と小さく返事した。

それは覚悟を決めた声だった。


幸助を誘うと、彼は迷いも見せずに言った。


「もし加奈のお母さんが何か言っても、大丈夫。

俺は加奈にふさわしい男でいたいし、ちゃんと認めてもらえるよう頑張るよ。」


その言葉が嬉しかった半面、胸が痛んだ。

幸助が傷つくのだけは本当に嫌だった。

お母さんは、不安を隠すために強く出る人だ。

誰かが相手でも態度を変えない。

“それでも幸助なら認めてもらえるかも”

そんな淡い期待が心のどこかにあったのも、本当だった。


当日。

おばあちゃんは私たちの姿を見るなり、ぱあっと笑った。


「加奈ちゃん、来てくれたんだね。おやまあ、そちらが彼氏さんかい?」


「初めまして。加奈さんとお付き合いさせていただいている幸助と申します。」


「まあまあ、なんてイケメンなんでしょう。加奈ちゃん、あんたもなかなかやるじゃないの」


おばあちゃんの無邪気な喜びに、思わず頬がゆるんだ。


でも、その横で――

お母さんは黙ったまま、こちらを値踏みするような目で見ていた。

あの視線。

“加奈がまた軽率なことをしているんじゃないか”

そんな不安と警戒が混じった、あの独特の眼差しだった。


「さあ、こっちへ。これ、加奈の好きだったお菓子。

彼氏さんは何が好き?」


「いえ、なんでも。おばあさんのおすすめなら、なんでも嬉しいです」


幸助のその返しに、おばあちゃんは目を細めた。


「なんていい子なのかねぇ。……そうだ、二人はいつ結婚するんだい?

おばあちゃん、早く孫の顔が見たいよ」


その瞬間、私と幸助は同時に真っ赤になった。


「け、け、結婚なんてまだ早いよ! 私たち大学生だよ!? そんな――」


否定しながらも、声がどこか浮ついているのが自分でもわかった。

おばあちゃんは嬉しそうに笑った。

しかし、お母さんは表情を変えず、お茶を置く手だけが少し強ばっていた。


おばあちゃんは、テーブルに二人を座らせ、満面の笑みで私たちのなれそめを聞いてきた。


「ねえ二人はどう出会ったの教えて、おばあちゃん気になる」


私は、少し出会いが特殊な感じであったために戸惑いながらもなれそめを語っていった。

おばあちゃんは、そのなれそめを自分のことのように聞いていた。

しかし、母は、とても心配そうに聞いていた。


「まあ、何てロマンチックな出会いなんでしょう。やっぱこれは運命よ結婚しちゃいなさい。」


「いやだから、早いって」


私は浮かれていた。

だからこそ少し油断をしていた。母のこと


「ちょっとあんた、なんでそんな浮かれているの」


楽しかった空気が、ガラスみたいに一瞬で割れた気がした。


「なんでって、彼氏いるんだし当然じゃない」


自分でも、声にトゲがあるのがわかった。

でも、ここで引いたら、またいつもの“正しい娘”に戻される。その焦りもあった。

ああ…やっぱり彼氏連れてこなきゃよかった。この時こう感じた。


しかし、これは、まだよかった。いやよかったとおもえるほど、次の一言は、私の心を逆上させ、母に勘当を迫るほどのそれほどの地雷を母は言ったのだ。


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