婚約者候補になりたくない
そこへこの家のメイドがやってきました。
「ああ、ここにいらしたのですね。お探ししましたわ」
「その方は」
「ああ、彼女はこの家のメイドで酒井由佳さん。それで何か用?」
「はい。お嬢様から浅井様のお部屋を用意するようにと。それで用意ができましたので探してたのですが」
「わしの部屋?」
「はい。婚約者候補としてこちらにお住まいになり、修行していただくとうかがっていますが」
「いや、それは困る。わしは理沙殿と結婚する気はない」
「まあ。いいんじゃない?なんといってもこの家の人脈は広いから、例の科学者の教授、えっと名前は?佐川教授だったけ?お嬢様の婚約者になればその伝手で教授に連絡がとれると思うし。それにこの世界のことも学べるし、きっと元の時代に戻っても役に立つと思うよ」
「そうかもしれんが、それでは理沙殿に対してあまりにも不誠実ではないか」
「まじめなんだな。そう難しく考えなくてもいいと思うよ、これまで、何人も、お嬢様が婚約者候補だと言って連れてきたけど、半月も持てばいい方だったし。お嬢様もそんなに期待してないんじゃない?」
「いや、理沙殿にもわしの事情を、話して、納得してもらう。今、理沙殿に会うことはできぬか」
「お嬢様はもうおやすみになっておられますが」
「無理に起こすのも気がひけるな」
「長政さんだって、行く当てがないんだろ。とりあえず、しばらくはここでやっかいになればいいと思うよ」
「では、お部屋に案内いたしますね。事情は分かりませんが、お嬢様のことはそんなに真剣に考えなくともいいと思いますよ」
「理沙殿はその方らの主であろう。いささか、扱いが軽くはないか」
翔太と由佳顔を見合わせました。
「だって、お嬢様だって深く考えていらっしゃらないし」
「そうとも限らんだろうが」
「とにかく、今夜はここで泊まって、明日、お嬢様に事情を話すなりなんなりすれば」
「そうするしかないか」
長政は由佳に案内された部屋に通されました。
シンプルながら豪華な部屋でした。ベッドにライティングデスク、床にはふかふかの絨毯が、敷いてあります。ベッドにかけられている布団を触ると驚きました。
「なんだ、これは絹ではないか。それでこれは何なのだ、これは?」
「ベッドですが」
「べ、べつど、、、」
「おやすみになられるところです」
ってなんでこんな説明させられてんのかしら。由佳は怪訝な顔を浮かべました。
「今夜ももう遅いですし、おやすみになればいかがですか。あ、その前にお風呂にいたしますか」
「風呂か?それではいただくか」
「この部屋にもついていますので、お好きな時に入れますよ」
「ああ、わかった。世話をかけたな」
「では、おやすみなさいませ、ご用がございましたら、そこのベルを鳴らしてくださいませ」
由佳はベルを指さしました。
「これか」
長政がベルを持ち上げてふるとチリリンと音が鳴りました。
一例すると由佳は部屋から出ていきました。
と、先ほど、翔太から渡された本に気がつきました。わしを主人公とした物語と言っておったが。そんなのがあるのか。しかし、この本は糸もなくどのようにして綴じてるのだろう?




