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エピローグ:大英雄

 ――英雄ラグナという存在は、結局世間に公表されることはなかった。


 レオンが引き起こした世界を滅ぼす存在を巻き込んだ大事件で、ラグナは獅子奮迅の活躍を見せた。そして、彼自身は自分が政争に巻き込まれるのを避けるため、国とのやりとりも最小限に留めた。一時、あまりに淡々としていたため逆に疑われるという事件もあったが――ラグナは最後まで、政治闘争とは無縁の人生を送った。


 その一方で多くの人々から事件に対し称賛の声が送られたのはシャル王女だった。事件解決の立役者として彼女は評価され、その後も王家に伝わる装備を携え戦場を制覇。さらなる国家の脅威を排除したことで、王位を継承するのは彼女では――という段階にまで至り、政治闘争に発展しかけた。


 けれど彼女自身が王位継承権を放棄することでひとまず事態は収束。彼女もまたラグナと同様に政治的な影響をほとんど受けることはなかった。

 大きな違いは、人々に称賛されたか否か――シャル王女は幾度となくこれでいいのかとラグナへ問い掛けることがあった。しかし回答は決まって「これでいい」だった。


 やがて、相次いで出現する国を脅かす存在について、その調査と対抗手段を構築することとなった。とはいえ王女自身が懸念していたのは、研究によって得た技術そのものが牙を剥く可能性があることだった。

 結果として、それに様々な対策が講じられた後、研究は動き出した。世界中から様々な技術者がやってくる。そうした者達に、世界の脅威についてを語っていく。


 一番有効だったのは、世界を滅する敵がどれほどの力を持っているのかを示すことだった。レオンとの戦いが終わり、ロイハルト王国の混乱が収まった後、シャル王女は改めてラグナが倒した脅威について調べ、そうした敵がいたという痕跡を手に入れた。

 その情報を基に、改めて痛感する――オルザークから始まった一連の敵は、間違いなく世界を滅ぼしうる存在であると。それがわかったため、多くの研究者達はロイハルト王国の研究に参加し、技術を発展していった。


 そうした光景を見て、ラグナはようやく剣を収める決断をした――レオンとの戦いの後、持っていたゲーム知識によって、出現した敵と戦い続けた。やがてラグナ自身が知識で知り得る敵を全て倒した時、世界の脅威は現れなくなった。

 けれど、ラグナは警戒を続けた。それは世界を滅ぼす存在に対抗できるのが、自分しかいないから――やがて、王城から離れ旅をするという決断をした。


 けれど――残って欲しいと告げたのは、シャル王女だった。


「どうか、残ってください……もう、ラグナさんが動き回る必要はないと思います」


 そう言ったが、最終的にラグナは城を出ることにした。王女は最後の最後まで引き留めたが、ラグナの意思は変わらなかった。

 別れはひどくさっぱりとして、ラグナは一人王都を出る。彼が持つ『終焉の剣』については、さらに戦いが進んだことで劣化が進んでいる。折れるような事態に陥る可能性は低いが――二度三度、世界の脅威と戦えば、壊れてしまうかもしれない。


「でも……それでいい」


 ラグナはそんな気持ちを抱きつつ、旅をする。その目的は、ラグナ自身が把握していない――つまりゲーム知識の外に存在する世界の脅威。


 ロイハルト王国ばかり狙ってくる敵達だが、様々な国の研究者から情報を集めた結果、凶悪な敵が出現しどうにか対処した、という事例は世界中であるらしかった。

 ならば、そういった敵を全て取り払おう――いずれ、ロイハルト王国の研究が実を結び、世界の脅威に対抗できる手段ができるまで。そうした決意を胸に、ラグナは旅を始めた。


「……なあ、世界の創生者とやら」


 そんな旅の途中で、ラグナは一人呟いた。


「この世界が特別だという証明はできたか? それとも、まだ何かやろうとしているか?」


 答えなど返ってこないだろう、という予感を抱きつつも言葉は止まらなかった。


「あんたは創生者で、この世界を好きにできるのかもしれないが……ここには無数の人生が存在する。好き勝手やるな……その代わり、俺がやれるだけ戦ってやるよ。それで少しでも特別にしてやるから、我慢しろ」


 一方的に宣言し、ラグナは歩を進める。その時、脳裏に何か――人の形をした何かを幻視したような気がした。


『ならば、見せてみろ』


 ラグナはそんな言葉を投げかけられたような気がした。それにラグナは「ああ」と短く返事をする。

 創生者が返事をしたのかわからない。だが、そうなのだろうという確信めいたものを抱きながら、ラグナは新たな敵を求めてひたすら進み続けた――






 そして――ラグナは世界の脅威に対する対策が構築されたその時まで、戦い続けた。その戦歴から唯一功績を知るシャル王女から「大英雄」と呼ばれ、自分という存在が必要なくなるまで、剣を振るい続けた。

 その人生が、良いものだったのかはラグナ自身にしかわからない。しかし剣を握らなくなった時――英雄の存在が必要なくなった日、彼の顔には笑みが浮かんでいた。


完結となります。お読み頂き、ありがとうございました。

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