十分な報酬
「世界の危機への対策……下手すれば、それによって開発した技術が、牙を剥くことになる」
「そうだな……非常に難しい話だ。でも今だって変わらない。俺はこの剣によって世界を救った。そしてロイハルト王国に友好的だけど……悪しき者がこれを手にしたら、話は変わっていた」
俺の言葉にシャル王女は頷く。
「はい、まさしく」
「……大変だとは思う。でも、今後も世界の危機が現れるのなら……やるしかない」
「色々と、考えなければなりませんね。でも、やりがいはありそうです」
シャル王女はそう言うと、俺へ向け笑う。
「とはいえ、今は目の前に現れる脅威について考えなければ……これからも、手を貸してください」
「もちろん」
頷いた俺にシャル王女は満足げに頷いた後、
「謁見については、後日改めて説明します」
「わかった……あ、そうだ。一つ質問が」
「何でしょう?」
「城の中で俺に対する評価はどうなっているんだ?」
「……ラグナさんの活躍ぶりを直接目にした人は少ないですからね。興味を持つ人間が半分、警戒している人が二割といったところでしょうか」
「残りの三割は?」
「事情をよく知らないため、評価できないといったところでしょうか」
「なるほど……」
「先ほど、ラグナさんは今の境遇で十分だと言いました。ただ、世界を救う力がある以上は、それなりに確固たる立場も必要です」
「……その立場を、王女達が作ると?」
「はい。これも大変だと思いますが」
そこまで言うと、王女は立ち上がる。
「今日はこれで失礼します……改めて、ご協力感謝します」
「俺はこの国の人間だ。手を貸すのは当然だよ」
返答にシャル王女は再び微笑んで、部屋を出て行った。残された俺は、天井を見上げる。
「……まあ、俺が死んでも大丈夫なように、体制を築いていかないといけないよな」
俺自身、このままでいいとは思っていない。それに、魔力の塊である『終焉の剣』に細かいヒビが入っているような状況である以上、限界がいつ来てもおかしくない。
どこかで剣が壊れ、強大な敵に勝つことができなくても……正直、内心で覚悟はしていた。俺は世界を滅ぼす敵を幾度も倒せた。それは事実だし、最強だと名乗ってもおかしくないくらいの力を得たのは間違いないけれど……それだって終わりは来る。次の敵で、俺はあっさりと負けるかもしれない。
今後もシャル王女が戦い続ける以上、俺も剣を握り彼女に追随し続けるだろう……俺自身は、死という結末を覚悟している。でも、残された王女達はどうなってしまうのか……気になるからこそ、俺が死んでも大丈夫な体制を作らなければならない。
「問題は、俺には何一つ方法が思い浮かばないことなんだけど……」
俺はどこまでも傭兵であり、目の前の脅威を排除するだけの存在だ。でも、改めてそれでいいと思う。権力なんて持ってもロクなことはないし、報酬はもらっている。それで十分だ。
「……王女には言えないけど」
俺はふいに、心の内で誓いを立てる。シャル王女を守るために、最後まで……死の際まで戦い続けよう。彼女を守るための盾となり、また世界に襲い掛かる脅威に対抗するための剣となろう。
いつか、俺がいなくても問題ない世界ができるまで……何十年先になるかわからない。でも、終わりがない戦いが待ち受けていると考えても、決して俺の心は絶望していなかった。
「全ては王女を守るため……か」
そこでふと、俺は別のことを考える。王女とは対等な関係となった。戦友のような間柄であり……それ以上の関係を、俺は望んでいるだろうか?
ゲームの主人公、リュンカであれば……本物の英雄となった彼であれば、戦場以外で彼女の隣に立つことはできるだろう。でも俺は違う。英雄という称号を得るに値する力を持っていても、世界の人々に認知はされていない。だから王女の傍に居続けるというのは、実質不可能だろう。
その事実に対し、俺は……、
「それでいい、か」
今の境遇以上のことを望むような野心もない。確かに俺はシャル王女を守るために……ゲームからのファンであった彼女を助けるために剣を手に取り、レオンを倒すときだって彼女を守るという意志で勝利した。
けれど、だからといって彼女を救い続けたから彼女に何かを要求するつもりはないし、俺にとって不相応なものだ……もしかすると彼女が俺へ接する理由は、特別な感情を抱いているためかもしれないが、
「剣を手にして、王女と交流できた……報酬としては、それで十分過ぎるだろ」
言ってから、俺は笑みを浮かべる。そして今日もまた、世界の脅威が現れていないか調べるべく、意識を集中させる。
きっと死ぬまで、俺は今日のように思うことだろう。後悔はなく、俺の胸にはやり遂げようという強い意志がある。この思いを胸に、俺はどこまでも戦い続ける――




