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戦いの終わり

 そして――腕の感覚がなくなっても前へ踏み出した結果、視界が晴れた時に俺は悟った。決着が、ついたと。


 目の前に、レオンの姿。彼が握る剣は半ばから砕け、呆然とした姿があった。

 そして彼の体にも、俺の斬撃が入った形跡が……その一方で俺も思うように体が動かない。先ほどの攻防で、魔力を使い果たしてしまったらしい。


 レオンが表情を戻し、襲い掛かってきたら終わりだが……だが彼は動かないまま、


「……絶望を、与えたはずだ」


 声を発した。俺はそれに同意し、


「ああ、間違いなく俺の意志を砕くに十分過ぎる力だった」

「ならば、なぜ俺を凌駕する力を引き出せる……いや、その剣は俺の力をはね除けるほどの物だったのか?」

「可能性は二つある。一つはこの剣の力を……俺が存分に発揮した」


 それと共に、俺は剣を見る。よくよく見れば、細かいヒビが入っている。魔力で形作っている剣だが、俺は直感する……これはきっと、永遠に残る傷だ。


「もう一つは、お前の力……確かに絶望的なものだったが、お前の力はこの剣と同じ物を基にしている……なら、そちらが力を尽くすことができなかった」

「……は、最後の最後で自分の力を出すことができなかった、というわけか」


 レオンはそこで剣を捨てる。地面に落ちた剣は、溶けるように消えていく。


「まあいい、俺の目論見は完全に潰えた……世界の命運を決める戦いはそちらの勝利だ」

「あんたは、消えるのか?」

「そうだな、力を使い果たし、人の身を捨てた俺の結末は一つだ」


 その時、シャル王女が俺の横へやってきた。声を発さずただ兄の姿を見据えたのに対しレオンは、


「何も言うつもりはない。ただ、俺がいなくなることで混乱が及ぶことは間違いなく、それを立て直すことに当面は終始することになるだろう」

「……これで、終わりですか?」

「ああ。世界は救われた……しかし、この世界には災厄を振りまく存在がまだまだいる。それに応じるか、それとも滅びを受け入れるかは、そちらの自由だ」


 レオンの体が、崩れていく。俺はそれを見守りながら、


「俺が、全てを止めてみせる」

「はっ、すっかり英雄気取りだな……まあいい、敗者はおとなしく消えるのみだ。一足先に、世界の創造者とやらに挨拶へと向かうとしよう――」


 そう言い残し、レオンは消えた。長い戦い――記憶を取り戻してから始まった戦いは、終わりを告げた。






 俺とシャル王女はその後、しばらく沈黙した後に王都へ向けて歩き始めた。残念ながら転移魔法は起動せず、徒歩で移動を余儀なくされた。

 その道中で会話はなかった。王女としては聞きたいことはいくらでもあるだろう。でも、俺は話さなかった……というより、話すことができないと言った方がいいだろうか。


 そして彼女も、どうやら聞くつもりはない……俺が話し出すその時まで、待つというのがなんとなく理解した。

 やがて俺達は王都へ辿り着き、そこでようやく王女は口を開いた。


「……兄が消えたことについては、突如失踪したということにします。そして、様々な敵を招いていたことも公表し、兄を追うという形で動くことにします」

「そうやって……世界に存在する災厄を倒す?」

「はい、そのつもりです……私がやるべきなのか、という疑問はあるかもしれませんが、こうして関わった以上は、野放しにできないというのが私の考えです」


 ――そうやって言う以上、俺の答えは決まっていた。


「なら、俺も手伝います」

「ありがとうございます。その、色々と事情はあると思いますが、落ち着いた時にお話をして頂ければと思いますから」

「……はい」


 今なら、俺の話も信じてもらえるだろうか? とはいえ、転生、異世界……その話を飲み込むのは難しいだろうし、今すぐはさすがに彼女にとっても負担になるだろう。

 今後、共に戦っていくのであれば、いつかでいい。俺はそう考えつつ、


「……当面、俺は王都に滞在という形になりますか?」

「はい、王都は……この国は兄を失って混乱するでしょう。それが解決するには時間が掛かるかもしれませんが、その間にも脅威が迫る可能性がある。ラグナさんは、王都にいてください」

「わかりました」


 同意と共に、これから始まる彼女の戦いは苦難に満ちたものとなるのを俺は確信する。

 レオンが消えたダメージは、相当大きなものになるはずだ。しかし戦いの証人となった彼女は、それを真正面から受けようとしている。


 兄を失いショックだってあるはずだ。なのに……シャル王女は、王都を背にして俺へ微笑んだ。


「大丈夫です、ラグナさん。事態が収束するまで、待っていてください」


 力強い彼女の言葉。それを受けて俺は静かに頷いた。

 今はただ、彼女の言葉を信じるしかない……そしてシャル王女は、俺を安心させるように再び笑みを浮かべたのだった。


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