世界の未来
『私はただ、世界を救う武具と世界を滅ぼす存在を生み出したに過ぎない』
淡々と語る声は男性のような雰囲気。俺は突き刺さった剣を見据え、その声を聞き続ける。
『その先、未来にあるものが何なのかはこの世界の生きる者達に決める権利がある』
「……それが、特別に繋がるのか?」
『世界が滅びようが、世界が救われようがこの世界には命運を決めるものが存在する……世界のバランスを崩す存在がある。それこそが、他とは違うという証明になる』
……俺にとっては理解不能な言説だった。そもそも、世界を救い滅ぼす物があるからといって、特別である証明になるのか?
『世界を形作る創造者とは、世界を自在に操作できるのではなく、全てを受容し世界のあり方を観測する者である』
「……ずいぶんとまあ、変わった考えだな」
『その価値基準はそちらだけのものだ。私には独自の基準がある』
会話はできているが、正直話が通じているとは思えない……俺はここで問答は止めた。世界を滅ぼす存在を、転生者として設定するような存在だ。まともに議論ができると考える方がおかしいか。
「……あんたの目論見はわかった。で、世界が救われようと滅びようとそちらは満足ということか?」
『そうだ』
「……あんたの目論見通りというわけだが、俺は世界を救うために動く。だがそのためには、剣の力をもっと引き出す必要がある。この剣は俺の願いを叶える力があるのか?」
『世界を滅ぼす人間には、確固たる力と同じ志を持つ存在を支配する能力を与えた。一方でその剣には、強い意志に応え際限なく力を与える能力を付与している』
「だからこそ、俺は今まで勝てたと」
『そうだ』
「なら、世界を滅ぼす存在を観測し続ける能力というのは?」
『それは不可能だ。なぜならば、剣の所持者と滅ぼす能力を持つ存在は対等だ。相手を捉え、監視し続けるというのは力が上位でなければ無理な話』
なるほど、俺は必死にレオンのことを探っても、剣は応じてくれないというわけか。
『そして、世界を滅ぼす存在と相対した時、純粋な意志の力によってのみ、滅ぼすことができる』
「対等な関係であるからこそ……純粋な意志によって、勝敗が決まると?」
『勝敗を決めるのは、そこだろう。だが、滅ぼす者は強大な破壊衝動がある。世界を救う側は、その強大な意志に対抗できるのか』
……俺は剣をにらむ。破壊衝動――レオンが世界を滅ぼそうというのは、間違いなくそれが原因だ。
そもそも普通の人間が全てを滅ぼしたいと願うことはない。そんな風に思っている人間がいるにしても、本当に力を得てしまったら……だとしても、衝動を維持し続けるなんて困難だろう。
しかし世界の創造者は、持続する破壊衝動を持たせることで目的を遂行させようとしている……そして、どのような結末であってもこの世界が特別であるという証明になる……意味不明だが、創造者の中でそれが正しいのだと自己完結しているのだろう。ここで話をするのは無意味だ。
ならば俺にできることは一つ。レオンとの戦いに勝つために、やれることをする。
「俺が勝つには、強い意志がなければ無理だと」
『そうだ』
「逆に言えば、確固たる意思さえ持てば、どれだけ強大な力を持っていようとも勝てる、ということか?」
『その通りだ』
ある意味、シンプルでわかりやすくはなっているな……とはいえ、無茶苦茶なのは変わりない。おそらくレオンは俺の意志を挫くために全力を尽くすだろう。俺が絶望するほどの圧倒的な力……それを目の前にして、抗うことができるのか。
だが、それをやらなければ……ここで俺は剣に問い掛けた。
「剣の力を今以上に引き出す……それにやり方はあるのか?」
『ただ願う。どれだけ苦境に立とうとも戦い続けるという感情があれば、剣は全てを覆す。だが、剣の力を過信してはならない。この剣があるから勝てる、といった幻想を抱けばその瞬間に終わる』
「あくまで勝負を決めるのは人の意志というわけか」
『そうだ』
「……俺が勝利したら、それで全てが終わるのか?」
『現在、世界を滅する存在は消える』
「わかった……なら、終わらせるさ。俺の手で」
宣言と共に、俺の脳裏にシャル王女の姿がよぎる。全ては彼女を守るという意志から始まった。世界の存亡を前にしても、やはりどこかピンと来ていない自分がいるけれど、王女を守る、という感情によって、俺の意志は強くなる。
「必ず、世界を救う……絶対に」
『ならば、示してみろ』
創造者が声を発すると同時に、目の前の剣が消える――いや、岩肌も、洞窟も、その全てが消え失せ、俺の周囲は真っ白に染まる。
そして俺は浮遊感に包まれる。目覚めるのだと認識しながら、俺は剣が突き刺さっていた場所を見て、
「……世界を、救う」
そんな言葉を口にしながら、俺は宿屋の中で覚醒した。