夢の中
「はあ……はあ……」
作業開始から数時間後、俺は部屋の中で汗だくになり、王城への探りを中断した。
レオンの動きを断片的に捉えることはできるが、やはり継続的にというのは厳しい。それをやろうとすると恐ろしいほどの集中力を必要とされる……力を行使している俺自身の体力と魔力が削られ続ける結果となり、どう頑張っても長時間はもたない。
ある種、今までの戦いと比べても非常に困難……ただ、レオンの動向を探ることができなければ、好き放題されるのは間違いないし、やるしかない。
「でも、作業を続けていたら倒れるな……」
俺は一度息をつき、テーブルの上に置いてある木製のコップを手に取る。そこに魔法で水を生成して、一気飲みした。
「少しでも長く、レオンのことを捉える手法を編み出さないと……」
けれど、それが完成する頃には戦いが始まるかもしれない。気配を捉えることに集中しすぎて、いざ戦闘になったらヘロヘロな状態は避けたい。
「……休憩するか」
さすがに今日明日で決戦とは考えにくいし、一度頭の中をリセットしよう。そう考えて部屋を出る。
酒場へ赴き、食事をすることに。時間は昼過ぎで、客もまばらな状態。
俺は何気なく窓の外から大通りを眺める。道行く人達の表情は明るく、平和を謳歌している。ゲームでは王都が戦いに巻き込まれて甚大な被害が出ているわけだが、現実ではそうなっていない……今はまだ、なんとかなっている。しかしレオンは俺のことを知った以上、今度こそ被害をもたらす何かをするはずだ。
そんなことはさせないと心の中で呟くが、打てる手がほとんどない……不安よりは焦燥感が胸の内に生まれていた。転生前の知識があり、世界を滅ぼす存在を把握し、これから何が起こるかもわかっているのに、対応できない……シャル王女も動いていると思うが、彼女がレオンへ刃を向けるより前に、彼が先んじて動くだろう。
あるいは彼女の動きを認識した瞬間に動き出してもおかしくない……もしレオンが王都内で行動を起こした時、今までのように犠牲なく対処できるだろうか? 正直、その可能性は低いと言わざるを得ない。
「でも、やるしかない……」
ひとまず今日のところは、レオンの動向を窺う術を試行錯誤しよう……今後の方針を決定した時、料理が運ばれてきた。
食事を済ませた後、俺は作業を再開するが進捗はほとんどなかった。意識を集中させてレオンを捉えようとしても、こちらが疲弊するばかり。
この手法には限界がある……剣の力を引き出すことができれば、もっと上手いやり方があるのかもしれないが、どれだけ呼び掛けても応えてはくれない。戦闘技能については習得できるが、他の技法についてはないのかもしれない……まあ、今の気配探知能力は優秀で、今までの戦いでも十分な活躍をしていたし、本来ここまでの技法は必要が無い、ということかもしれない。
それはつまり、俺が一から開発しなければならないということを意味しているのだが……最底辺の剣士だった俺に開発能力なんてものがあるはずもない。よってその日は進捗なく終えることとなった。
「明日になったら色々試行錯誤してみて、それでも駄目だったら図書館にでも行って調べてみるか……」
そう結論を出し、俺はベッドの上で横になる。図書館――魔法の研究資料などを見れば、何かヒントが見つかるかもしれない。
剣の力そのものが特殊なので、そうした文献を発見するにしても応用できるかわからないが……そうこうしている内に俺はあっさり意識を手放した。一日中作業をしていて疲労が溜まっている。
とにかく、明日――そんなことを思いながら眠りに就いた時、俺は夢の中である場所を訪れた。それは『終焉の剣』が突き刺さっていた、あの洞窟。
「……気を失った時、一度ここに来る夢を見たな」
夢の中だが、俺は自分の意思で声を発した。剣が、何か語りかけているのか……俺は突き刺さったままの『終焉の剣』を見つめる。
レオンが語った内容が真実ならば、この剣は世界の創造者が生み出したもの。世界を創った存在が用意した剣なら、あらゆる魔物を倒せたのも納得がいく。
けど、同時に創造者は世界を滅ぼす存在をも生み出している……まるで世界そのものが実験場だ。この世界を特別なものとするために……そんなことをして、何の意味がある?
「……世界の創造者とやら」
俺はなんとなく、剣へと語りかけた。
「あんたはこの世界をどうしたいんだ? 滅ぼしたいのか? それとも、繁栄させたいのか?」
問い掛けに剣は反応しない……当然か。俺は嘆息し、さっさと夢が覚めてくれと願った。
しかし、
『――それは、この世界で生きる者が決めることだ』
はっきりと、声が聞こえた。