世界を救うために
俺とシャル王女だけでレオンを打倒する……それがどれほど難しいことなのかは俺達がよくわかっている。
それに、俺達から先んじて動くことは難しい……騎士達は国に忠誠を誓っている以上、シャル王女の部下でもレオンに反逆するというのは無理だ。
外部から人間を雇い入れるのもさすがに無茶であり、レオンの動向を窺うことも厳しい。それに、シャル王女は俺に相談を持ちかけてきたが、この事実だってレオンには既に知られていると考えた方がいい。
つまり、相手は全てを把握した状態で決戦準備を進めている……俺達にとれる選択肢は多くない。その中でシャル王女は、
「私は城内に異常がないか調べるという名目で、兄の動向を探ります」
そう彼女は語る。
「兄も調査については反対しないでしょう。もっとも、私が調べることができる範囲は限られていますが……」
「それでいいと思う。何か異変があったらすぐに知らせて欲しい」
「はい、わかりました」
「俺の方も剣の力を使って色々と探ってみるよ」
「はい。お互い頑張りましょう」
シャル王女は部屋を出て行った。残された俺は一人、小さくため息をつく。
「さて……恐ろしい速度ではあるけど、終わりが近づいているな」
レオンが首謀者であるなら、彼を打倒すれば世界に平和が訪れる……かどうかは不明だけど、短期間で国を脅かす存在が出てくるなんて事態は、なくなるはずだ。
ただ、こちらに打てる手はほぼない。例えばの話、俺が英雄として祭り上げられていたら、人を使って色々と動くことはできたかもしれない。しかしゲームとは異なり、世界の脅威を人に見られない形で倒していることから、俺のことを知っている人はほとんどいない。
同業者ですら、俺のことは剣を手にする前の弱い剣士という評価のままだ……動くとしても俺だけ。レオンの身辺を調査とか、動向を窺うなんてのは人がいなければどうにもならないので、俺にできることはない。
唯一やれることは、レオンの動向を剣の力で探ることだけ……なのだが、ここにも問題がある。
というのも、改めてレオンのことを探ろうと思った段階で気付いたのだが、剣の力を使っても気配を探ることが難しい……これは相手が対策をしているためだ。俺が『終焉の剣』を持っていることで、レオンは何か処置をしている。
一応レオンの居所を追うことは可能だが、四六時中は無理。レオンの気配は王城内において捉え続けることが非常に難しい。
「でも、それをやらないといけない……というわけだな」
俺はそう呟くと、ベッドの端に腰掛けて目をつむる。そして、意識を王城のある方角へと集中する。
剣の力によって、レオンの動向を常に把握できるようにする……相手が『終焉の剣』について、どれほど情報を持っているのかはわからない。でも、この剣の力は底が知れない。ならば、相手の予想を裏切るほどの結果を生み出すことだって可能ではないか。
非常に可能性が乏しい話ではあるのだが、俺にやれることはそれしかない……レオンとしては、俺に選択肢を消すというのも戦術なのかもしれない。ただ目の前を倒すだけしか能が無い俺に対し、有効な手段……現状を打開するには、相手を上回るだけの力を剣から引き出すほかにはない。
「……世界を救うためには、やるしかないか」
俺は呟き、王城へ向けて気配を探る。とにかく今は情報が欲しい。レオンに関することをとにかく集めるしかない。
意識を集中しながら、レオンのことを思い返す……俺を目の前にして本性を現した。ただ、きっと転生前の記憶が戻る前は、世界を滅ぼすなんて無茶なことを考えることはなかった――そう一度は思ったが、オルザークを始め様々な存在を動かしている事実を踏まえると、もしかして記憶が戻る前から行動していたのか?
いや、俺自身記憶が戻ったタイミングはゲーム開始の十日前だったが、レオンはもっと前かもしれない……どちらにせよ、裏で謀略を巡らせていた存在であることは間違いなく、状況的に厳しい戦いを強いられるのは間違いない。
立て続けに押し寄せる敵を薙ぎ払うだけでは足らない……俺と同じように全てを知るレオンに、正面から打ち勝たなければならない――絶望的な状況ではあったが、以前のように不安に包まれているといったことはない。
それは、戦うべき相手が――世界を救うために挑まなければならない相手が明瞭となったから、だろうか。それとも、シャル王女に頼られ、覚悟を決めたためだろうか。
王城へと意識を向けながら、きっとその両方だと考える――やがて、俺は異質な気配を見つけた。間違いなくレオンだが、その気配が突如スウッと消える。
実際にいなくなったわけではない。彼の気配は非常に薄く、動きを悟らせないようにしている。俺はさらに意識を集中させる。困難ではあるが、レオンの動きを捉え続けなければ、勝てない。
再び気配を捉えるが、またも消え失せる。そこで俺はさらに神経を研ぎ澄ます……額に汗が浮き出るのを自覚しながら、俺は延々と作業を続けた――