問い掛け
訪れた部屋にはシャル王女とレオン王子が待っていた。俺は一礼してから入室し、小さな円卓を囲むように椅子に座り、話し合いを行う。
「まずは、今回の戦いについてシャルの方から説明を」
「はい」
返事をしてから王女は話し始める――時間としては十分も掛からない。一通り戦いの内容を聞いたレオン王子は、
「ふむ、相手はどうやら国を脅かすための準備をしていたが、シャル達の動きが早く、完全に備えることができていなかった、と解釈した方がいいか」
「はい、そんな風に思います」
「そして、当該の人物が呟いた内容……騎士達が調査し、男の名はブロウだという報告は聞いている。そのブロウは何やら他に協力者がいるようなことをほのめかしていたようだ」
「もしかすると、一連の敵は裏で手を引く存在がいるということでしょうか」
シャル王女の疑問にレオン王子は小さく肩をすくめた。
「わからない……が、その可能性も考慮すべきだ」
そうレオン王子は言い、腕を組んだ。
「それに、疑問も残る。一連の敵達が同一の存在によるものだとしたら、そいつはどのように強大な存在がいることを知った?」
「それは……」
「ああ、すまない。返答は大丈夫だ。わからないことばかりだが、ラグナ殿のおかげで最悪の事態は避けられている。その事実は喜んでいいと思うし、何より国として感謝したい」
レオン王子の言葉に俺は「どうも」と応じ、
「それで、今後はどうしますか?」
「強大な敵が他にいないかについてはきちんと調査を行うつもりだ……ラグナ殿、そちらは何かしら情報を持っているか?」
ここで俺は首を左右に振る。
「王子は俺がどういった理由で敵の存在を察したのかは……」
「報告書で確認している」
「……現時点で新たな脅威についてはわかりませんし、夢で見ているわけでもありません」
「そうか。何かあれば遠慮無く報告をしてくれ……さて、城内にあった不穏な気配も消えた。陛下の体調も戻りつつあるため、いずれ謁見をすることになるだろう」
「わかりました」
「それまでは、調査を継続しつつ備える……いつ終わるかわからない戦いではあるが、国の危機だ。被害が出ないように――私達で、食い止めるとしよう」
その言葉に俺とシャル王女は頷き、話し合いは終わった。
とはいえ――内心で呟いた時、王女が先んじて立ち上がった。
「私は少し、騎士達の様子を見てきます」
先んじて部屋を出て行く……彼女としては意図したものではなかったはずだが――俺は好都合だと考えた。
残されたのは俺とレオン王子。そこでこちらは、
「……王子、一つ気になったことが」
「どうした?」
問い返した王子に対し俺は相手の目を見ながら、
「……なぜ、こんなことをしようとしたのですか?」
――質問に対し、王子は一時沈黙した。主語のない問い掛けであるため、何を言っているのかを首を傾げるのが普通ではあったが……彼は、俺の言葉をすぐに理解した。
そして、
「……声音からすると、確信めいた何かがあるようだな」
「はい」
「君を監視していた人間か?」
「はい、そうです。俺のことを探っていた人間……それだけなら強大な敵を倒した俺のことを調べている誰かからの差し金、くらいの解釈でいました。しかしそれが王子の下へ向かい、なおかつ城内に存在していた不穏な魔力と同系統の力を持っているとなったら、さすがに話を向けざるを得ませんでした」
「君に監視をつけたのは間違いだったな。思えば、オルザークを始め国を滅する存在を真正面から叩き伏せてきた御仁だ。下手に干渉すれば露見するのは目に見えていた」
「お認めになるんですね?」
「証拠はない……と、言いたいところだが君ならばいくらでも方法はありそうだな」
レオン王子は笑う――それは、今まで見せていた優しい笑みなどではなく、これまで見せなかった暗い笑み。
「ああ、そうだ。オルザークを始めた一連の敵は、私が動かした」
「……なぜ、このようなことを?」
「それを話す前に、一つ確認しなければならないことがある」
そう述べるとレオン王子は俺を真っ直ぐ見据えた――ゲームでは立ち姿など登場しなかった人物。次期国王であるはずなのに、名前しか上がっていなかった存在。
そうした彼が、今目の前で本性を露わにしている……ゲームでも首謀者が同じであるとしたら、一体どういうシナリオ展開になっていたのだろうか。
「その剣についてだ」
「剣が、何か?」
「君は間違いなく剣のありかを知った上で抜いた……そこは間違いないだろう。ではどうやって、剣の情報を得たのか?」
「王女に話はしましたよ」
「それは真実などではないだろう」
――俺はこの話がどういう風に着地するのか、おおよそ理解した。つまり、
「……君は、あの剣の特性も理解していた。それは間違いなく、剣のことも、オルザークのことを始めとした世界の脅威も、知っていた……この世界の未来を知る存在、だろう?」