様々な推測
レオン王子の助言により、俺は次の戦いへ向け準備を始める……といっても、必要な物資については王子や王女に伝えれば用意してもらえるし、基本的に宿の中で待機するだけなのだが。
場合によっては城の中に滞在する可能性もあったのだが、俺が第五の敵について提言したことにより、城内に居続けるよりは外の方がいいだろう――ということで、城下町で宿を手配してもらった。
一方でシャル王女とレオン王子は城内の調査を始めた……ただ、第五の敵は実体というものがないため、対処できるのかわからない。
そもそも、魔物の王オルザークの出現からそれほど時間が経過しているわけでもない。にも関わらず、なぜ第五の敵が出現しているのか……ゲームではオルザークを始め、敵達はロイハルト王国に大きな被害をもたらしてきた。それによって魔力が汚染されて第五の敵が出現する。
しかし、現実では違う。オルザークや古の邪竜は、出現直後に俺が倒した。第三の敵である暗黒大樹については、多少なりとも森を汚染していたが、森の外に影響は出ていなかった。王都周辺に対する影響は皆無のはずだ。
第四の敵もまだ動き出している雰囲気はないし……ここで俺は、やはり何者かが介入して相次いで敵が出現し続けているのでは、と考える。
「それはゲームに登場していた『破滅の使徒』……ってことか?」
何者なのかはわからない。ただ、そいつは俺が片っ端から敵を倒しているから、干渉して次から次へと次の敵を……ただ、その方法はわからない。古の邪竜については封印を解くだけでいいが、第四の敵なんて一体どういう方法で――
「……ひとまず、俺の動向を観察している人間がいる、ということだけ念頭において動くしかないな」
とはいえ、直接的に俺へ仕掛けるという可能性は低いだろうと思う。なぜなら力があるならわざわざ出現する敵を利用しようとは思わないだろう。
で、これが真実だとするならもう一つの可能性が浮かび上がってくる……それは、暗躍している存在は俺と同じ転生者なのではないか、ということ。
しかも相手はロイハルト王国に出現する敵について的確に理解している……とくれば、俺と同じようにゲーム『ワールドエンド・アルカディア』をプレイしたことのある存在だろうか?
「……でも、そのくらいしか可能性はないよな」
わからないことばかりだが、そういう可能性を踏まえて今後は動くことにしよう。戦いの中で周囲に注意を払っていれば、もしかすると黒幕が見つかるかもしれない。
いや、もしかすると現在進行形で俺のことを監視している可能性も……? 俺は宿の中で意識を研ぎ澄ませる。目をつむり魔力を探ると、王都内に存在する多数の人々が発する魔力を感じ取ることができる。
それらを一つ一つ精査することは無理だが、もし俺を監視していると言うのなら、こちらへ魔法か何かで探りを入れているはず。いかに人が多い王都とはいえ、宿の一室にいる人間に対し観察しているといったことをしている存在はさすがに異質だろう。もしこれが見つかれば――
そう考えた時、明らかに俺へと魔力を向けている存在を捉えることができた。それはどうやら別の建物の中にいる……たぶん、俺が滞在している宿とは別の宿だろう。
「仕掛けてもいいだろうけど……いや、ここは相手がどういった存在なのかを確かめるのが先、か?」
下手に干渉すれば敵は動きを止めるだろうし……それに、現段階では転生者云々についてはあくまで可能性の話だ。俺を観察している理由は「手柄を立てた人間を調査している」とでも言って誤魔化してしまえばいい。一応、調査をしていた人物の詳細はわかるかもしれないが、その人物がオルザークを始めとする存在を利用しているのかはわからない。
可能であれば、相手に気取られないように調査をして、首謀者を捕まえたいところだけど……ふむ、適当なタイミングでシャル王女と話をして、調べてもらうのもありだろうか?
「レオン王子でもいいだろうけど……出歩いて調べるにしても相手に気付かれないようにというのは難しいな……」
うーん、これはさすがに手詰まりだろうか? さすがにどれだけ力を持っていても今回の件については解決が難しい――
「……いや、待てよ」
俺はベッドの傍らに置いてある『終焉の剣』を眺める。剣の力……それを利用すれば、相手に気付かれずに調査を進めることだって可能だろうか?
このまま相手を好きにさせておくのはさすがに釈然としないし、剣の力によって情報を得られるのであればそれが一番望ましい……ということで剣を手に取る。そして、
「……剣よ、俺の願いに応えろ」
そう呟きながら剣に魔力を流す――と、そこで頭の中に色々な魔法が思い浮かんだ。それは、紛れもなく、今の俺に必要なものであった。