王子との話し合い
着席し、侍女がお茶を用意して退出したタイミングでレオン王子は話し始める――ただ、その中で俺は緊張のまっただ中にいた。
相手が王位継承者であることもそうだが、お茶を用意し始めた時点で、王子はシャル王女を退出させた。つまり、この部屋には俺と王子しかいない。その事実によって、身体に自然と力が入る。
「……まず、本題に入る前にお礼を言わせて欲しい」
王子は俺へ向け、そう切り出した。
「報告内容を聞く限り、ロイハルト王国に未曾有の危機が迫っているようだ。相次いで現れる強大な敵……君の尽力によって犠牲はなく事なきを得ているが、どうやらまだ戦いは終わっていないらしい」
「東側の気配……ですか」
「そうだ。既に情報は届いているよ。警戒をしている間にも少しずつ気配に変化が現れている。本格的に動き出すのは時間の問題だろう」
――やはり、早すぎると俺は思う。ゲーム上では魔物の王オルザーク出現から第四の敵までは少なくとも半年以上は経過しているはずだ。にも関わらず、現実では一ヶ月も経過していない。この差は一体何なのか。
「そしてどうやら、この城にも魔の手が忍び寄っている……」
そして第五の敵についても王子は語る。ここについてはシャル王女が退出する前に俺が語った内容を伝えていた。
「詳細は不明だが、おそらく何者かの差し金で陛下は体調不良に陥った、と考えていいかもしれない」
「正直、確証はないですが……」
「異常事態である以上は、あらゆる可能性を想定するべきだ」
決然とした物言い。王子は敵の強さを報告書などから読み取り、極めて危険な状態であると認識している様子。
「と、話が逸れた。私としては、何度も妹のことを守ってもらって感謝している。そのお礼をきちんと言うべきだと思ってね」
「は、はい……」
応じつつお茶を飲む。正直味などわかったものではない。
「こちらとしては当然のことをした、というか……」
「国のため? それとも妹のため?」
「……両方です。王女は、この国にとってなくてはならない存在でしょうから」
その言葉に王子は一瞬目を細めた後、そうだとばかりに頷いた。
「ああ、その考えは正しい……王家に伝わる装備を妹が持っている。私が継承できなかったことが非常に歯がゆく思う面もあり、同時にシャルが持っているからこそ、装備を完璧に使いこなせるのだろうという確信もある……あの装備ならばいかなる魔物が出現しても大丈夫だと考えていた。しかし」
王子の顔が苦々しいものになる。
「どうやら、現在国を襲っている脅威は、そんな単純なものではないらしい」
……その表情からは、国の危機を最大限憂慮している様子が見て取れた。
ここで俺は王子のことを思い出す――主に前世のゲーム部分について。
まず、ゲームにおいてレオン王子の姿は現れなかった。名前は出てくるのだが、グラフィックはなし。王位継承権を持っている人物なのに扱いが微妙……というのはプレイヤーの中で語り草だった。
サービスが続けばどこかのタイミングで顔を出していたのだろうけど……考える間に王子は話を進める。
「今回、こうして話をした一番の理由は今後のことについて話し合いがしたい、と思ったためだ。まず、何より尋ねておかなければいけないことがある」
「……俺がこのまま戦い続けるかどうか、ですね?」
問い掛けにレオン王子は首肯する。そこで俺は、
「その点については、今後も国を守るために戦うことをお約束します」
「ありがとう……けれど単純に仕事の依頼をするだけでは君にとって割に合わないのは事実だろう」
「報酬については、後々交渉ということでどうでしょう? 正直、こちらとしてもどういう風に受け取るべきか悩んでいまして」
「国の危機を救っているわけだし、相場がわからないと」
「はい」
「さすがに国を寄越せと言われると難しいが、可能な限り君が望む地位を約束することはできるが」
俺は首を左右に振った……正直、俺みたいな人間が貴族になっても、不幸にしかならないだろう。
「そういう報酬はいらないと……わかった、どうするかは考えておこう」
「ありがとうございます」
「では、具体的にどうすべきかという点について。基本的に君はシャルと二人で行動してもらうことになる……というのも、魔物と戦うことにおいては、一番優秀なのはシャルだからな。必然的に最前線に立つことになる……その中で君には、妹を守って欲しい」
「もちろんです」
そこについては当然とばかりに頷く。俺の反応を見てレオン王子は「ありがとう」と礼を述べつつ、
「敵についてはわからないことも多いし、君の能力に頼ることだってあるかもしれない……君の剣について、詳細はわからないとのことだったが……」
「正直、俺自身も……」
「ああ、わかった。可能であれば研究などしたいところだが、おそらく時間もないだろう。今はとにかく、脅威を排除することを優先する。間違いなく数日中には東にいるであろう敵をどうするか結論が出る。よって、君はいつでも出立できるよう準備をしておいて欲しい――」