王族
――ゲーム『ワールドエンド・アルカディア』における第四の敵は魔法を研究する世界の破滅を望む学者。それがロイハルト王国の東側に陣取り、その研究の果てに何かに取り憑かれたように国へ攻撃を仕掛けた。
その魔法は執念と呼べるものであり、魔法陣などを活用しての大規模なもの。威力は王都全てを消し飛ばすほど……シナリオの流れとしては王都東に魔力の高まりを観測する。その原因が学者によるもので、魔法を発動させる前に敵の本拠に踏み込んで倒すというのが話の流れだ。
学者は最終的に世界を終わらせる魔法を開発し、それを成し遂げるために動くつもりだった……これまで打倒した敵は魔物や竜といった異形だが、学者は人間だ。そして学者が生み出した魔物が脅威であり、これまでの敵と戦い強くなった主人公達も苦戦するほどである。
現実の場合はどうか。既に王都の東側で活動しているのは間違いないが、まだ魔力の高まりはない……もしそれがあったら致命的だったかもしれないが、そこまでの準備はさすがにできていないらしい。
その一方でもう一つ……学者を倒した後に登場するのが、闇の魔力。これが第五の敵であり、王都に突如原因不明の病が襲い掛かってくるというもの。
それはこれまでの戦いによって大きく魔力が乱れたことによって、人に害をなすものへと変化してしまった。ゲーム上では世界に災厄をもたらす存在が次から次へとやってくるので、魔力も汚染されてしまったというわけだ。
その相手は明確な敵がいない……のだが、最終的には王都全体を浄化する魔法を開発し、事なきを得る。このまま病が王都を襲えば多数の死者が出るという一歩前の状況であり、主人公は魔法を開発するための素材集めをする、という構図になっている。
そして、現実では……どうやら第四の敵は既に動き出している。今ならばまだ、大きな被害を及ぼす前に――暗黒大樹の時と同様に対処ができるかもしれない。
その一方で第五の敵は……先ほど王様が体調を崩したと言っていた。そして王城の中に、異質な気配。コレに気付いているのは俺だけみたいだが……。
「ラグナさん?」
立ち止まった俺にシャル王女が反応。それは少し口ごもった後、
「すみません、その……異様な気配に当てられて」
「まだ城の入口ですよ? そう緊張しないでください」
そうシャル王女は笑いながら俺へ語ったのだが……こちらの態度が硬質なままであることで、何か不穏なものを感じ取ったか、
「もしかして、城内から何か感じますか?」
「……その、俺は城に入ったことがないからこれが良いものなのか悪いものなのか判断がつかないのですが」
曖昧に答える。さすがに第五の敵の詳細を話しても首を傾げられるだろうし……ただ、俺の発言だからシャル王女は気になった様子。
「ふむ、強大な敵が登場したわけですし、まだ国を襲う脅威がいる様子。であれば、何か影響があるのかもしれません。少し具体的に調べてみましょう」
――ゲームでも主人公が違和感を覚え、そこから調査に乗り出して状況が判明した経緯がある。それを踏まえると、おそらくシャル王女が「調べる」と言っているし、話はゲームと同じように転がっていく可能性が高い。
ひとまず第五の敵は対処できるだろうか……そんなことを考えつつ、
「すみません、入りましょうか」
俺が言うとシャル王女は頷きつつ、
「はい……と、どこへ向かうのか確認していませんでしたね」
王様の体調を報告した騎士へ彼女は声を向ける。
「どこに行けば良いですか?」
「四階の客室です」
それで王女には伝わったらしい。彼女は「わかりました」と応じ、俺を先導する形で王城へと入った。
俺はそれに追随し、王女の配下である精鋭騎士と共に、城の中へと入った。
王女の案内に従い、俺は城を進んでいく。周囲にいた騎士はいつのまにかいなくなり、最終的に俺と王女の二人だけとなる。
そして四階の客室へ到達すると、王女がノックをした。
「どうぞ」
声が聞こえた。俺は誰なのかわからなかったが、シャル王女は察したようで一瞬動きが止まった。
彼女は無言で扉を開ける。部屋の大きさはそれなりで、俺は王女に促され入室する。
そこにいたのは、黒い貴族服に身を包んだ栗色の髪の男性。俺は見たことがない……けれど、シャル王女の反応とその顔立ちを見れば、誰なのかは明瞭だった。
「……レオンテイド王子」
「初対面でも、予想はつくか」
柔和な笑みを伴い、男性は告げる。
名はレオンテイド=ビゼル=ロイハルト。シャル王女の兄であり、王位継承者である王子だ。
国王が体調不良によって謁見できない、ということで代理という形なのだろうか……それとも、他に何か理由が? 疑問を抱いていると、先んじて王子から話を始めた。
「私のことはレオンでいい。色々とシャルから報告を受け……君と話をしたくなった。まずは席についてくれ。お茶を用意しよう――」