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純白の城

 俺達が出発したのは三日後。馬を使っての移動であり、シャル王女とその精鋭騎士……そこに俺が加わる形で王都へ向かうことに。

 道中についてはさしあたって問題は出なかった。騎士達が俺に対し何か言及することもなし……俺の能力を目の当たりにして警戒しているという可能性はありそうだけど、とりあえず視線などで感じることもなかった。


 王都へ到着するまでは特段問題はなさそう……そんな中、俺は何気なく空を見上げる。馬を進めながらそんなことをしていると、シャル王女が一つ問い掛けてくる。


「どうしましたか?」

「……いえ、何でもありません」


 俺は首を横に振る。原因は、気配。王都へ近づくことによって、明瞭となってくるロイハルト王国東部に存在するであろう、気配。それが明確に感じられるようになった。

 間違いなく、ゲームにおける第四の敵……ただ、そいつは準備が整えば魔物の王オルザークと同じようにロイハルト王国を滅ぼすべく仕掛けてくるはず。それがないということは、まだ準備を終えていないということだろう。


 ゲームにおける出現時期と比べれば圧倒的に早いことは確かであり……第四の敵がゲームに登場するのは、時間的に言えばオルザーク出現後から半年は経過している。しかし、現実になってみるとまだ一ヶ月すら経過していない。

 暗黒大樹のこともあるし、やはり作為的な何かがあるのかもしれない……オルザークについては微妙だが、古の邪竜については封印を解き、暗黒大樹を早期に活性化させ、第四の敵も……そいつを倒さない限り、平和にはならない。


 そして、もしこんなことを続くのであれば、間違いなく今後ゲームに登場した敵とは異なる存在だって出てきてしまうだろう。そうなったらリスクの高い戦いを強いられることになる。俺は『終焉の剣』を持っているため、戦い抜けるかもしれない。だが、他の人は違う。

 これまでは犠牲者もなく対処できていたが、それは事前に知識を有して敵の攻撃に対抗できていたから……それがなくなれば、多数の犠牲を伴いながら勝利していくことになるだろう。可能であれば俺の知識がある間に対処したいところだが――調べても、さすがに情報が出てくることはないだろうな。


 ロイハルト王国側に協力を持ちかけるにしても、俺が転生したという話をする必要がある……ここについては別段隠しているわけではないし、必要であれば喋るつもりではあるが、正直信じてもらえるかわからない。

 現在はシャル王女を助けたことによって、彼女の助力を得ている形だ。しかし、これからさらに厳しく大規模な戦いをするのであれば、今以上に戦力は必要だし、仲間だって必要になるだろう。今までは世界を滅ぼす敵に対抗できているが、規模が大きい戦いとなったらさすがに厳しいだろうし――


 そんな風に道中で俺は様々な考えが浮かび上がる。とはいえ、ではどうすればいいのかについて結論は出ず、最終的には情報を集めて判断しようと決めた。

 結論を出したところで、俺はとうとう王都へと辿り着く。ロイハルト王国の都、名はデリュシオン。ゲーム『ワールドエンド・アルカディア』の舞台ともなる、ラグナにとって初めての来訪だ――






 王都内を観光することも興味はあったが、さすがに見て回るようなことはできず馬は王都中心に存在する王城を目指す。その道中で大通の人々は王女と騎士の存在に気付き、歓声を上げた。


 魔物討伐を行ったという情報は世間に出回っているのだろう。実質凱旋のような形であり、一番後方にいる俺はいたたまれない気持ちになった。騎士の中に戦士装備の人間がいて不審に思われないだろうか……そんなことを思ったのだが、誰もが視線を王女に向けているため、幸いながらあまり目立ってはいない。さすがに視線がゼロというわけではないし、俺を見て「誰だアイツは?」みたいな表情をする人もいたのだが……何事もなく、大通りを抜け王城の前に到達。


 この城は四方を大きな堀によって囲まれており、さらに堀の内側には森とさえ呼べる木々が生えている。そして肝心の城は、


「あ、もしかして初めて見るんですか?」


 と、ここでシャル王女が近づいてきて問い掛ける。俺は神妙な顔で頷いた。


 そこにあったのは、そびえ立つ純白の城。建物である以上、汚れになる様々なものが付着して本来なら白という色合いは徐々に汚くなっていくと思うのだが……建物に魔法でも掛かっているためか、王城は真っ白な姿を見せている。

 そして見上げるくらい高い建物でもある……王都の外観が見えた時点で、王城の高さは際立っていた。ゲームでも同じ外観だったが、生で見ると無茶苦茶迫力がある……前世でこの城よりも高い建物だって見たことがあるけど、それでも圧倒する外観に俺は言葉をなくし、少しの間城を眺める。


 と、ここで放心していても仕方がないと我に返る。王城は堀に囲まれているが、正門と思しき場所には石造りの橋が架かっている。俺達はそこへ馬を進ませ、やがて大きな城門が開かれた。

 それを抜けると、澄んだ空気が俺の体を撫でた。心なしか大通りと比べても空気が美味いように思える……生えている木々とかがそうさせているのか、それとも魔法か何かを使っているのだろうか? 


 疑問を抱きつつ、城門を抜けた直後に馬から下りる。そして段々と緊張し始めた。


「大丈夫ですよ」


 ここで俺の様子に気付いた王女が声を掛けてくる。


「謁見については、私がフォローを入れますから」

「……お願いします」


 その言葉に彼女は笑みを浮かべつつ先導する形で歩く。俺達は城の入口へ向かい、その手前に騎士が立っているのが見えた。

 その人物は……ゲームで見たことのない人物だったが、白髪混じりの黒髪と顔に刻まれたシワを見れば、歴戦の騎士であったことは明瞭だった。


「お帰りなさいませ、シャルミィア王女」

「はい」

「事前に来ていた連絡によると、この方を謁見させたいというわけですね」


 俺へ視線を向けながら騎士は告げる。それにシャル王女は頷き、


「はい。ちなみに私も同行します――」

「そのことについてですが」


 と、王女の言葉を遮るように騎士が発言した。


「陛下は現在体調を崩され、療養中でございます」

「え……」


 驚くシャル王女。そこで俺は眉をひそめ、騎士はなおも話し続ける。


「原因はわからないのですが……」

「病気、ということですか?」

「おそらくは。ただ医者に診せても原因は特定できていません」


 ……俺はその話を聞いて渋い顔をする。謁見ができないから、というわけではない。もしかして、その原因は――と、心当たりがあったためだ。

 ただそれは、あくまで推測でしかないため言及はしない……シャル王女はならば仕方がないと考えたか、


「なら、謁見は中止ですね……日を改めるほかなさそうです」

「はい……その代わり、ラグナ様を連れてきて欲しいと要望する方が」

「それは?」


 聞き返し、騎士は名を告げる。それにシャル王女は首を傾げ、


「どうしてか理由はわかりませんが……ラグナさん、急遽予定が変わりましたが、大丈夫ですが?」

「平気です」

「なら、参りましょう」


 気を取り直し、俺達は城へ。その道中で王城入り口の大扉が開いた。

 その瞬間――俺は足を止めた。するとシャル王女はいち早く動きを察し、


「どうしましたか?」

「あ、その」


 どうやら王女を含め他の人は気付いていない……確か、ゲームでも気付いたのは主人公だけだった。

 俺が立ち止まった理由。それは開け放たれた扉の奥から立ちこめる気配。


 間違いなく、新たな敵……しかしそれは第四の敵ではない。それに続く、第五の敵であった。


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