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英雄の資格

 暗黒大樹撃破後、俺は町へと戻り騎士団がリーデの森やその周辺について調査を行った。その結果は二日ほどで出て、森に魔物がほとんどいなくなったことを確認。ようやく厳戒態勢は解かれた。

 それを機に駐屯地にいる騎士達はリーデの森だけでなく他の場所以外に調査へと入った。これはシャル王女による指示であり、立て続けに凶悪な存在が出現したことで他に敵がいないかを調べるわけだ。


 ちなみに、俺も彼女に訊かれたのだが……それについて返答はした。


「距離が遠くて判然としませんが、東の方角に何か怪しい気配があります」


 東――次の敵は王都の東から襲来する。ちなみに今は王都の西であり、王都を挟んで反対方向に敵がいることになる。

 その敵が活動開始しているかどうかはわからない……が、この調子だともう既に行動を起こしていても不思議ではない。王女も俺の話を受けてすぐに伝令を飛ばし王都東を調査するよう対処したみたいだし、その報告内容を聞いてどう立ち回るか考えるとしよう。


 その一方、俺は調査する騎士達の姿を眺めつつ、休養を取った。王女の提案であり、魔物の王襲来から連戦続きだったので、休むべきだと言われためだ。

 シャル王女も指示は出すけど陣頭に立って行動はしていない……暗黒大樹相手に消耗したみたいだし、完全に調子を戻すには少し時間が掛かるかもしれない。


 まあ、数日ゆっくりするくらいは問題ないとは思う……シャル王女へ伝えた内容はゲーム知識によるものだが、暗黒大樹を撃破してすぐに動き出す、という雰囲気ではなさそう。

 ただ距離もあるし、東へ移動してから俺の索敵が正しいのか確認しないといけないだろう……宿の中で結論を出した後、俺は一つ考える。


 どうしてここまで、敵の出現が立て続けに起きているのか。


「それはゲームのラスボス的な存在……のはずだった『破滅の使徒』が関係しているのか?」


 呟いてみるが結論は出ない。仮に使徒が現れたとして、それを倒せば平和が訪れるのだろうか?

 様々な疑問はあるが、こうまでゲームと大きく状況が違う、ということを考慮すると作為的な何かがあるという気がしてくる。そこから考えられるのは――


「俺と同じように転生者がいるとか?」


 例えばの話、俺は『終焉の剣』を手にしてロイハルト王国を救うという立場となった。その一方で悪役に転生――それこそ『破滅の使徒』に転生して、国を、世界をぶっ潰そうと考えている、とか?

 あり得ない話ではないと思う。でなければここまで立て続けに世界を滅ぼす存在が現れるとは思えない。


「調べたいけど、今は次々と出てくる敵を対処する方が先だよな……」


 とはいえ、次の敵はどうなのか……最初は魔物を率いる王、次に圧倒的な個の力を持った邪竜。その次は多数の魔物を率いる大樹……と、集団個体集団という流れで来ている。次は――

 コンコン、とノックの音が鳴った。この部屋に訪ねてくる人間は……俺は扉を開ける。そこに、


「どうもです」


 シャル王女がいた。もちろん装備は変装用のもの。


「少しお話が」

「……今後のことですか?」

「ラグナさん、敬語」


 この格好では普通に喋って欲しいらしい。俺は少し間を置いて、


「……今後のことについて?」

「はい」


 暗黒大樹を撃破後に、彼女は来てもらいたい場所があると語っていた。その場で詳細は語らなかったので、今日改めて話をしに来たらしい。


「わかった……酒場にでも行く?」

「そんなに時間は掛かりませんし、部屋の中でも構いませんよ」

「……王女がそう言うのなら」


 部屋に招き入れる。窓際に置いてある丸テーブルと二脚の椅子を指差し、俺達はテーブルを挟み対面する形で話をする。


「結論から話します。行ってもらいたい場所とは王都です」

「なんとなく予想はしていたよ。つまり、今までのことを正式な形で報告したいと」

「はい」

「それで俺のことも……ってこと?」


 頷く彼女。ここまでは予想通り。

 俺はゲームの主人公ではないけれど、世界を滅ぼす敵を倒し続けたことで、英雄となる資格を得た……ということなのだろう。ゲームとの大きな違いは犠牲が現在時点でゼロなところ。そしてもう一つは、犠牲がないということはそれだけ敵を早期に対処しているため、俺のことを知っている人間が王女や今回作戦に参加した騎士や魔術師くらいしかいないこと。


 英雄というのは、多くの人に認知されてこそのものだ。故に俺は英雄的な活動をしているけど、犠牲者がいない以上目立たない……まあ、それでいいとは思う。俺は英雄になりたいから剣を手にしたわけじゃない。目の前にいる王女を守りたい、救いたいと願ったから戦っているのだから。

 俺としては、目立たないまま敵を倒しきって終わりにしたいような気分ではある。王女を救うという目的で剣を握ったが、あまり目立ちたくない……というか、目立てば確実にボロが出る。正直英雄として祭り上げられても、どうしようもない。


 ただ、国が俺のことを認識するというのは今後のことを考える必要がある……いつまでも現状を維持するというのはさすがに無理だろうし。


「……報告に行くことは賛成だ。俺が拒否する理由もない」

「はい」

「一つ質問だけど、具体的にはどうするんだ?」

「まずは何より、謁見と共に戦いのあらましを説明します」


 謁見か……王様と会うのも想定内ではある。


「俺を連れて行くということは、俺のことを詳細に語るわけだよな?」

「報告書には記載し、謁見前に事情は伝えます。謁見は時間が決められているわけではありませんが、あまり長い話もできませんからね」


 それもそうか……王様やその重臣が居並ぶ場所で話をするというわけではなさそうだ。ただ、


「……前にも話したと思うけど、俺の力は異質だ。場合によっては異常な存在として拒絶されるかもしれないぞ」

「そんなことはさせません」


 キッパリと彼女は言う……そうはならないだろう、とか曖昧な表現ではなく彼女自身がさせない、と主張している。


「ラグナさんは誰が何と言おうとこの国を救った人です。そんな方を貶めるなど、私が認めません」

「俺の肩を持ってくれるのはありがたいけど、あんまり庇い立てると立場を悪くするかもよ」

「私は平気です……ともかく、ラグナさんが考えている懸念については問題ないとお答えします。どうか、王都まで同行願えないでしょうか?」


 再度改めて要求。俺としてはさっき応えた通り拒否する理由もないので、


「ああ、わかったよ」

「ありがとうございます。出発は数日後になるかと思いますので、それまではゆっくり休んでいてください」


 ――シャル王女は部屋を出て行く。そして一人残された中で、


「……どうなるかな」


 ゲームの主人公、リュンカは多数の人々を救ったことで英雄となり、信頼を勝ち取った。しかし俺はどうか? 国の人間にそこまで信用されるだろうか?

 シャル王女が色々と手を回して対処するつもりかもしれないが、俺自身怪しまれないよう気を遣う必要があるか……王都へ行く前の時点でなんだか憂鬱になってくる。とはいえ悩んでいても仕方がない。そう思い直し、俺は王女の言葉通り今のところはゆっくり休むことにしたのだった。


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