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湧き上がる不安

 新たな脅威が迫っている――シャル王女はそう認識したが、俺の話した内容だけで騎士達が動くことは難しい。よって、


「まず、リーデの森へ調査を赴けるように準備をします。時間は……三日ほどあれば」


 話し合いの最後にそう述べたため、俺は待つことに。宿へ戻り、王女が何をするか予想する。


 まず魔物の群れや竜という存在が姿を現したということで、他に脅威がないのかを調べるよう騎士達へ通達する。そして対象を国内全域へと広げる――その中でリーデの森に魔力が滞留していることを突き止め、調査に向かう。そんな感じだろうか。

 魔物の数などが捉えきれないと騎士は語っていたが、逆にそういった異様な状況が発生しているなら、調査の対象となる……そう推測し、俺は連絡が来るまで休息することとなった。






 シャル王女が語った三日という時間で、騎士団はリーデの森に異様な気配があることをつきとめ、調査に乗り出すことに。そして邪竜の存在などからシャル王女は俺に協力を持ちかけ――帯同することとなった。


「よろしくお願いします」


 出発の際に王女からそう言われ、俺は「はい」と返事をして、町を離れた。


 向かう先はリーデの森近くにある騎士団駐屯地の砦。事前に伝令を飛ばし、森へ調査するための準備をしているらしい。俺達はそこへ向かい部隊と合流。その後、森へ入る予定だ。

 今回出発したのは王女と護衛の精鋭およそ十数人。そこに俺が加わり、馬を用いた移動を行う。馬には乗れるので移動については問題なく、道中は問題なく進むことができた。


 騎士と一緒に行動する中、俺は先頭で馬を駆る王女の姿を眺める。周囲の騎士へ指示を行い、移動中も緊張感を持っている様子。

 そんな中で俺はどこか目立たぬよう、一番後ろで手綱を握り追随していた。王女は俺に対し信頼を寄せているが、他の人はどうなのかわからない。よって沈黙し、殊勝な態度を見せている……いやまあ、これは意識してやっているわけではなく、性格上の問題ということもあるんだけど。


 陽気に騎士達と会話できれば信頼構築も容易だが、下手に喋ると逆に怪しまれるかもしれない……思えば前世も今の俺も、そこまで積極性があるわけじゃなかった。もし明確に自分というものがあれば前世ではもっと活動的だっただろうし、今も知り合いや友人が多くてもおかしくない。


 けど、実際は――小さくため息を吐く。それと共に王女の後ろ姿を見る。


 俺は、彼女を守ることができるのだろうか? 剣の力は本物だが、ちゃんと使いこなしこれからも出現する敵を倒すことができるのか?

 ゲームで敵の強さはインフレし続けた。魔物の王と古の邪竜はなんとかなったが、次も上手くいくとは限らない。


 暗黒大樹については、災厄を振りまく前の段階で挑めばなんとかなる。けれどその次は? 邪竜の時と同じように瞬間的な成長に頼るしかないのか?

 正直、そんな戦い方がいつまでもつのかわからない……しかも、ゲームと違い今後も敵が次々と押し寄せてきたら?


 移動中に色々と不安が頭の中に湧き出てくる。俺はゲームの主人公ではなく、頼れる仲間もいない。王女と手を組むことはできたし、それはとても心強いけれど、どこまで戦い続けることができるのか。

 邪竜との戦いで最後、気絶したことも不安要素だ。剣の力を引き出せるにしても、俺自身の体力や魔力がもたなければ、死が待っている……その事実を思い出すとため息が出た。


 ただ、不安の中でやるべきことは明確だった。自分にできることをやる。王女を守る――決意だけはしっかりと胸の中にある。幾度となく王女と会話をしたことで、その意思だけは剣を抜いた時よりもずっと強固になった。

 その信念でどこまで戦えるのかわからないけれど、やるしかない……悲壮な覚悟とさえ言える心境の中、俺は王女達と共に移動し続けた。






 そしてリーデの森近くにあるアルデという名の町へと辿り着いた。駐屯地は町から見える場所に存在しており、入口から砦の城壁が見える。

 俺はそちらへ行くものだと思っていたのだが、王女は町を拠点にする方針らしく、俺はひとまず騎士団に用意された宿に入った。


 王女は今頃騎士達と作戦会議をしていることだろう……それに対し俺は不安を抱えながら部屋に入り一泊した。

 翌日、騎士から「調査に入るまで少々時間が掛かる」と連絡を受け、朝から宿の中で過ごすことに。俺は外へ出ることなく、部屋の中で次の戦いのことについて考える。


 暗黒大樹はまだ活性化していないとは思うが、森の奥――深淵に到達するまで、どれだけ敵がいるのか。

 邪竜との戦いで、俺の魔力と体力に不安があるという事実が浮かび上がった。それを踏まえると、暗黒大樹が活性化していなくとも、そこへ到達するまでに戦い続ければ力尽きてしまうのでは。


 もし、力尽きてしまったら……もちろん王女や騎士達の援護はある。しかし――


 色々と考えている時、コンコンとノックの音がした。騎士の誰かが連絡しに来たのか、と思いつつ「はい」と返事をしつつ扉を開けると。


「どうも」


 ――シャル王女がいた。格好は騎士のそれではなく、シャル=アルテンの格好ではあったが。


「……抜け出してきたんですか?」

「はい」


 あっさりと返答。本当にバレていないのかと首を傾げたくなるが、


「えっと、どういう用件で……?」

「森へ調査に入るのは二日後です。明日は一日休みということになりました」


 それはありがたい……いや、余計なことを考えるかもしれないし、体は休まるけど精神的にはどうだろう。


「そこで、何ですけど」


 と、ここで王女はこちらの様子を窺うような表情を見せる……身長は俺の方が高いので彼女は上目遣いになる。

 そんな態度を見て俺は少し鼓動を速くする。一体これは――


「あの、明日一日ですが、もしよければ町を見て回りませんか?」

「……この町を?」

「はい。この町には何度か来たことありますが、さすがに詳しく見て回ったことはありませんし」


 それはまあ、そうだろう。王族である以上、普通は町中を見て回るなんてしない。

 しかし、これはどういう提案なのか。何故俺なのかについては、他に誘う相手がいないというのもあるだろうし、俺のことについて色々と探ろう、という意図もあるだろう。


 そこで、ゲームのイベントを思い出す。相次いで出現する凶悪な敵に対し、シャル王女は多数の騎士や、ゲームの主人公リュンカの下に来た仲間達と共に戦い続けた。その中で主人公と共に城を抜け出して王都を案内する、なんてイベントがあった。

 ゲーム上では気分転換と言っていたが、実際は国を守るプレッシャーによるものだ。主人公はそれを半ば理解し、王女の誘いに乗って王都内を散策した。


 ――ここは王都ではないけれど、流れとしては同じだろう。現時点で国に大きな被害は出ていない。しかし、彼女は魔物の王も古の邪竜も目の当たりにした。その圧倒的な力を前に、次に出てくる敵も勝てるかどうか、という疑念だってあるはずだ。

 もしかすると俺が不安げな表情をしていることを察し、例えば俺が逃げ出さないかなど、観察するという意味合いだってあるかもしれないが……とにかく、プレッシャーによるストレスを少しでも解消しようと彼女は考えた。相手に俺を選んだのは、騎士が相手だとさすがに気分転換にならないから、という面もあるだろうか。


 で、この提案については……俺に断る選択などあるはずもなかった。


「わかりました」


 同意の言葉を告げると、シャル王女は嬉しそうな――天使が見せるような笑みを浮かべたのだった。


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