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渾身の剣

 こちらの斬撃に対し邪竜は後退を選択した。俊敏な動きにより俺の剣は空を切り、双方の動きが止まる。

 俺は邪竜を見る。右腕を斬られてから表情は一変。俺を見据える眼光は、それだけで人の心臓を止めるのではないかと思うほどの殺気が込められていた。


 だが、俺は悟る――間違いなく邪竜の目には、恐怖が宿っている。


『……貴様は、神が寄越した使徒か何かか?』

「それは俺も聞きたいんだけどな」


 そもそもこの役目は別の人間が担う……はずだった。俺はそう思うのだが、実際はところはどうなのか。

 邪竜からすれば、目覚めた直後に自分を滅ぼすかもしれない存在が現れて驚く他ない。その一方で俺もまた内心で驚いていた。この剣が使用者の意思に応え力をくれるのはわかっていたが、剣士として最底辺の実力しかなかった俺が邪竜にすら対抗できる強さを得るなんて、ご都合主義もいいところだ。


 いずれこの剣が何なのかをちゃんと調べないと、足下をすくわれるかもしれないな……そんなことを考えつつ、邪竜を見据え力を高める。

 相手は明らかに逃げる気配を見せていた。背の翼を広げ飛翔されたらさすがに追うことは難しい。だが、今の俺なら相手が動くよりも先に剣を当てられる――


『さすがに現状の有利を捨てるつもりはないか』


 俺の考えを察したか邪竜は呟く。


『ならば、手段は一つしかあるまい』


 邪竜は左腕に魔力を集める。それは――周囲の大気がきしみ、大地が地鳴りを起こすほどの凝縮だった。


『文字通り、命懸けの攻防となるだろう。我が保有する魔力の大半を注いだ。これで通用しなければ、どのみち我に生き残る術はない』


 勝負を決するための、文字通り全てを費やした一撃。邪竜の究極とも言える攻撃が、まさしく放たれる。

 暴虐的な魔力を見ても、俺は動じなかった。剣を構え直し、意識するのは――後方にいる王女の存在。


「……ラグナ、さん」


 小さな声が、俺の耳に届いた。魔物の王だけでなく、古の邪竜さえも圧倒している現状。彼女も驚いているだろうし、周囲の騎士はどう考えるか。

 理不尽とも言える力に対し、騎士達は本能的に恐怖するだろう……俺の扱いはどうなるのか。ほんの少し気がかりではあったけれど、俺の意思は変わらない。


 すなわち――シャル王女を守る。俺はそのために剣を振るう。


「行くぞ、邪竜」

『ああ、来い――そういえば、名を聞いていなかったな』

「ラグナ=フィレイルだ。あんたに名はあるのか?」

『あるとも、しかし、語る意味はない。我は再び地上に出た瞬間、その名を捨てることに決めたのだから――』


 邪竜が、動く。これまでの俊敏性からさらに上を行く速度。俺へ間合いを詰め、この世を終わらせるかもしれない、究極の一撃を放つ。

 その威力は、平野どころか周囲の森すら粉砕するほどかもしれない。邪竜が全てを注いだ攻撃に対し、俺は胸に意思を抱きながら対抗する。


 再び邪竜の腕と俺の剣が、激突する――そして再び両腕に衝撃が走るが、その直後に俺は剣を強く握りしめた。


「い、けぇぇぇぇ!」


 絶叫と共に振り抜いた剣は、感覚がほとんどなかった。しかし、俺の剣はどうやら邪竜の左腕を、見事破壊した。

 気付いた時には雄叫びを上げる邪竜の姿。俺はすぐさま足を前に出し追撃を仕掛ける。相手はまだ動けない。だが、喉奥から魔力を感じ取ることができたため、渾身の光弾を放つ選択をした。


 それは、させない――攻撃が成功した時点で背後にいる騎士や王女がどうなるか。だからこそ俺は、今まで以上に全力で邪竜へ向け迫った。

 そして、光弾が放たれるより先に、俺の剣が邪竜の首に入り、両断した。それで光弾は力を失い魔力は霧散。戦いは、俺が勝利した。


『馬鹿、な』


 首だけとなった邪竜は声をこぼし、そして胴体はゆっくりと倒れ伏す。倒せた――どこか現実感のない中でそう思った時、突然視界が揺らいだ。

 え、と戸惑っている間に膝立ちになる。気付けば剣もまともに握れなくなっていた……どうやら魔力が枯渇した。どれだけ『終焉の剣』で強大な敵に対抗できても、それを使いこなすのは俺自身の魔力。それがなくなったことで全身に疲労が襲い掛かってきた。


「――ラグナさん!」


 後方からシャル王女の声が聞こえてくる。それに応じることはできないまま、俺の意識は暗転した――






 次に意識が浮かんだ時、俺の目の前には『終焉の剣』が――洞窟奥で突き刺さっていた。


「え……?」


 と、呟いたがすぐにこれが夢であることを認識する。これは過去の出来事……剣がまだ岩に刺さっていた時の光景だ。

 ただ、少し眺めていてなんだか様子がおかしいと感じた。剣からは魔力が発せられているように見えており、何かを主張したい風に見える。


「まさか……今から喋り出すなんて展開とかあるか?」


 そんな推測をしたのだが、剣は何も発しない。ゲームではそんなことなかったし、さすがにないか。

 しかしなんとなくこの夢は自分の意思ではなくて、剣が見せているような気がした。なぜそんな風に思ったのか。俺はじっと岩に突き刺さった剣を見る。


 だが何も反応がない……そう思っていたのだが、しばらく見続けていた時、何か剣の奥に見えたような気がした。


「あ……」


 それは、まるで人間のようであり――けれど、視線の先には洞窟奥の岩肌だけ。

 でも、きっと気のせいではない。この剣の製作者か、あるいは岩に突き刺さる前の所持者なのか。どちらにせよ、剣には洞窟にあった経緯があり、この剣はゲームの主人公や俺のような使い方を望んでいる……そんな気がした。


 ただこれは、単なる俺の夢が生み出した空想か、それとも本当に剣が何かを語りかけているのか。疑問は晴れない中で少しずつ意識が遠のいていく。夢から覚める――そんな自覚を抱きつつ、俺の視界から剣が消えた。






 そして、目が覚めたのは……ベッドの上。病院、というわけではなさそうだが、俺が泊まっている宿屋でもない。


「ここは……」


 呟いた瞬間、俺が寝ているベッドの横に人影を見つけたのだが――


「気がつきましたか?」


 相手は、シャルミィア王女……目線が合い、俺は唐突な展開に緊張で鼓動が速くなる。


「ここは詰め所内にある医務室です。竜を滅んだ直後にラグナさんは倒れまして、ここに運び込んだ次第です」


 ああ、そういうことか……古の邪竜と戦っていた光景が蘇ってくる。

 邪竜を倒せたが、限界が来てしまった……邪竜以外にも敵がいたら危なかったけど、そういう存在は皆無でひとまず王女達は町へ戻ってくることができたようだ。


「……怪我人とかは?」

「ラグナさんはご自分の心配をしてください。外傷はありませんでしたが、相当消耗していたんですよ?」


 たしなめられてしまった。俺が「すみません」と謝ると王女は微笑を浮かべ、


「……私達に怪我人はいません。竜の攻撃は、全てラグナさんが真正面から受けきったので」

「そう、ですか。他の魔物は――」

「竜を倒した瞬間に、山にあった魔力は消えました。全て竜と共に消滅したのでしょう」


 そこまで語ると、王女は俺と視線を重ね、


「二度も、助けられてしまいました。本当にありがとうございます」


 頭を下げる王女。そうした反応を見た時、俺はふとある疑問を抱いた。


「……あの、王女」

「はい」


 返事と共に頭を上げると、俺は彼女と目が合った。

 真っ直ぐこちらの瞳を覗き込んでくる王女に対し俺は戸惑いつつも……少しして、口を開いた。


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