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竜との攻防

 俺が古の邪竜へ目をやった瞬間、相手が動いた。

 振り下ろされる腕。それに俺は即座に反応し、横に跳んでかわした。


 そして竜へ接近する――魔物の王と比べ巨大な相手であり、人間の俺による斬撃がどの程度通用するのかわからない。だが、逃げるわけにはいかない。

 接近し、俺はすくい上げるような斬撃を放った。剣は俺の思った軌道を描き肉薄した邪竜へと叩き込まれる――


『ぐっ!』


 手応えがあった。俺の剣は相手の体躯へ傷を付けることに成功した。


『我の体に通用するか……なるほど、人間共を滅するための、試練というわけだ』


 邪竜は声を発しながら後退する。俊敏な動きであり、追うことはできなかった。そして俺が斬った場所に、傷ができている。


『ただの人間とは違うようだ……持っているその剣か?』


 邪竜は俺の強さの源泉が何であるかを即座に看破する。


『感じられる魔力の質からただの魔法剣ではないな……しかし不可解ではある。我が見定めても理解できぬ力とは』


 ――人は、理解できないものに対して恐怖したり警戒する。目の前にいる邪竜もどうやら同じみたいだが、一つ決定的に違うことがある。

 邪竜は自分の力が圧倒的であり、世界を滅ぼせるものであると知っている。よって理解できないものに対しての反応は、力による蹂躙。


『ならば――消えてもらおう』


 言葉の直後、邪竜は息を吸った。その動作を見て、俺は何が来るのか瞬時に理解する。

 ゲームでもあった、邪竜の得意技。喉奥で魔力を貯め、それを一気に吐き出して放つ。飛来するそれは例えるなら魔法の光弾。色は確か青で、自分の頭ほどもある球体が、邪竜の口から射出される。


 そして、特性は――全てを理解した瞬間、背後にいる王女や騎士のことが頭の中を駆け抜けた。

 刹那、俺は剣を握る右腕に力を入れた。何をすべきなのか判断し、ありったけの魔力を剣に注ぎ、


「……剣よ、俺の願いに応えろ」


 邪竜の攻撃は瞬く間に放たれた。喉奥から収束した魔力が青い光弾となり、俺へ向け放たれる――


「あの竜の攻撃を……防ぐだけの力を!」


 瞬きをする程度の時間で到達した青い光弾を、俺は剣で真正面から受けた。


『ほう! 面白い!』


 邪竜は俺の対応に驚き、感嘆の声さえ上げる。

 そして俺は――光弾とせめぎ合いになる。光弾に込められた魔力は恐ろしいほど凝縮され、もしこれが地面に当たればどうなるのか……その光景は、前世のゲームで見覚えがあった。


 だからこそ俺は真正面から受け――叫ぶ!


「おおおおっ!」


 剣を薙ぎ払うように振ると、青い光弾はかき消えた。力勝負をして、結果的に相殺となった形。これについては俺の想定通りの結果だ。

 これを受け、邪竜は――笑う。


『はははは! なんと防ぎきったか! しかも、正解を引き当てるとは!』


 正解――その言葉を疑問に思ったか、俺の後方にいるシャル王女が声を上げた。


「防いだことが正解だと言いたいのですか?」

『その通りだ、高貴な女よ。先ほど撃ったものは防ぐだけでは足りん。弾いても無意味……そのような仕掛けを施していた。もし、この男が相殺していなければ、光は拡散し貴様らの体など粉々になっていたに違いない』


 そう、ゲームでは地面に着弾した瞬間、多数に分裂し小さな光弾となって周囲を破壊し尽くす。もし相殺していなければ、王女や騎士達はどうなっていたことか――


 剣を構え直す。それに対し邪竜はどこか褒め称えるような雰囲気を見せ、俺に視線を投げる。


『しかし、疑問が一つあるな。相殺したのは我の力を見て判断したとは言いがたい。考察するほどの時間はなかったはず。つまり』


 その言葉の瞬間、邪竜が俺をにらむ。


『貴様、我のことを知っているな?』


 ――知っている。それは紛れもなく正解だ。


『我のことを知識で有している程度ならばいいが、我がどんな武器を所持しているか知っている様子だな……この違いはあまりにも大きい。ここへ来たのも最初から知ってのことか?』


 問い掛けられたが答えられない――まさか「転生前のゲーム知識」などと言っても理解はされないだろう。

 こちらが沈黙していると邪竜はどう受け取ったか、笑う。


『まあいい。やることは変わらん……が、貴様はどうやら我のことを知っている』


 少なくとも、俺を標的にしたのは事実。ここについては、好都合か。騎士や王女に攻撃が飛んでこないだけでも俺としては戦いやすい……が、最大の問題は今の俺に邪竜を倒せる力があるのか。

 今の攻防はどうにか対処できた。しかし、あくまで対処できただけだ。邪竜が本気を出せば、今の俺なんて――


『では始めようか剣士。貴様さえ蹂躙できれば、他の人間を平らげることなど造作もないだろう』


 来る、と剣を構えた直後に邪竜の体躯から魔力が発せられた。ただ威嚇のために発したそれは風を生み出し俺達の体に打ち付ける。

 その中で邪竜は右腕をかざした。先ほどの光弾ではなく直接攻撃――が、その動きは巨体とは思えないほど俊敏で、気付いた時には腕が俺へと振り下ろされていた。


 腕全体に魔力が迸っており、俺を押し潰そうとしている――避けなければと一瞬で理解したが、俺は刹那の時間で再びゲームの邪竜を思い出した。

 この攻撃は、大地を割り地形さえ変えてしまうほどの強大な一撃……ゲームでもたった一発の攻撃で今俺達がいる平原くらいの広さが無茶苦茶になっていた。しかも攻撃に伴う余波――魔力の衝撃波が周辺にいた人々を貫き犠牲が多数出た。


 邪竜は俺のことを評価し、渾身の一撃を加えようとしている。ならばこれを避けたらゲームと同様の悲劇が待っている――邪竜の腕が振り下ろされる前に理解した俺は、迫る邪竜の腕を見て……次いで後方にいるシャル王女と騎士のことを思い出す。

 剣を強く握りしめた。声を発する暇もないわずかな時間。その中で俺は王女の姿と、剣のことを思い浮かべた。


 力を貸せ――声には出せなかったが、そう心の中で願った瞬間にさらなる力が俺の体に宿った。これで対抗できるかはわからない。しかし、王女達が犠牲になるかもしれない攻撃を前に、逃げるつもりはなかった。

 俺が迎え撃つ姿勢を見せた瞬間、邪竜の気配が変わった。腕が振り下ろされるまでの一瞬ではあったが、受けるつもりかと驚愕した様子。


 剣をすくい上げるように放ち、向かってくる竜の腕と激突する。その瞬間、腕に感じたことのない衝撃が走る。

 人間と竜がぶつかり合うなど、まともな光景ではない……俺が感じたのは圧倒的な膂力と魔力。普通なら何一つ抵抗できずただ押し潰されるだけ――そのはずだった。


 しかし次の瞬間、俺の剣から光が溢れ衝撃が一気に喪失した。いける、と内心で考えた時には剣を振り抜いており、俺と邪竜の攻防は決した。

 光が途切れ視界に映ったものは、俺の剣によって肘から先が消失した右腕だった。


『――ガアアアッ!?』


 邪竜の苦痛による絶叫が耳に入る。同時、俺へ向け憎悪の視線を投げた。


『貴様、何をした……!?』

「悪いが、説明しろと言われても無理だな!」


 好機だと判断した俺は足を前に出す。確か邪竜は再生能力があるので、斬った右腕もいずれは元に戻るはず。

 しかし短時間では不可能であるため、押し切れるかもしれない――俺は剣に限界まで力を込めて邪竜へ肉薄する。ここで仕留めるという気概と共に、全力の剣を目の前の巨体へ向け放った。


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