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古の邪竜

 その後、魔物と遭遇することなく俺達は森を抜けた。昨日オルザークと戦った場所とは異なる地点なのだが……ここで王女は騎士達へ待機を指示した。

 一方で俺は山を見上げる。古の邪竜、その居場所について目を凝らして確認する。


 魔力が確かに存在しているのを確認し、さらに山の至る所にさっき交戦した魔物がいるのだと理解する。


「……気配はありますか?」


 山を眺める俺に対しシャル王女が近づき問い掛けてくる。


「はい、山の中腹くらいに」

「昨日の魔物と関係はありそうですか?」

「そこは、わかりません」


 実際は関係ないが……詳細を話すのはさすがにまずいと思ったので言葉を濁す。


「とにかく、応援が必要です。山を調査するにしても人員がもっといる」

「はい、急いでこっちは準備をします。あなたは何か異常があれば報告を」

「……先ほど、騎士は上手く気配を探れないと言いました」


 俺はここで王女へ話を向ける。


「詳細がわからなかったため……その、昨日調査を?」


 最後の方は小さな声。それにシャル王女は頷き、


「はい」

「王女が持つ武具……特別なものであるはずですけど、その能力でもわからなかった?」

「ええ、魔物が群れを成していることはわかっていましたが、数の詳細を含めわからないことも多かった……ただ、単独で調べようと思ったのは、昨日私が語った内容も関係しています」


 つまり、強い敵と戦いたい――


「気配を上手く探れないということは、隠蔽する技術があるということ。魔物でそんな能力を持っている存在は聞いたことがなかったので、少し調べてみようと」

「なるほど……」

「今回の敵はあくまで声しか聞こえていません。ただ、その音から考えて小さな魔物でないことは確かです……山へ入るにしても、準備は済ませないとまずそうですね」


 シャル王女はそこまで語ると、俺から離れ騎士へ指示を出した。その姿を見ながら、俺は考える。

 山へ入るにしても、古の邪竜と鉢合わせとなったらどうすべきか……王女達を巻き込まない前提で理想を言えば、俺が単独で邪竜に挑むことなのだが、そもそも勝てるかどうかもわからない。


 ここまで来てしまったが、さてどうしようか……そんな風に迷っている間に町から騎士がやってくる。そして調査をするためか野営準備を始めた。

 この場所で監視をするつもりか……俺は無言で準備する光景を眺める。夜抜け出すにしても、邪竜に勝てる保証がない以上、王女に協力を仰ぐことだって選択肢に入る。


 ただ、相手はオルザーク以上の力を持つ存在だ……果たしてこの場にいる騎士達と協力して勝てるのか? そんな疑問が頭の中に生まれた直後――俺は、山から発せられる濃密な魔力を感じ取った。

 それと共に俺は悟る。敵は――古の邪竜は、俺達が近づいたことで反応した。そしてこちらに考えるだけの時間を、与えてはくれないのだと。


 突如、山から爆発音が聞こえてきた。何事かと騎士達が視線を向ける中、王女が気付いた。


「あれは……何ですか……?」


 山の中腹、そこに、巨大な生物らしき存在がいた。遠目からでもわかるのは赤い体躯にどうやら翼を生やしているということがわかる。

 騎士達が野営準備を止め山へ注目した時、ドン! という音がした。その瞬間に巨大な生物の姿が消えた――否、跳躍したのだ。山の上に、飛翔しこちらへ近づいてくる巨大な影が見えた。


「――総員、退避!」


 反射的にシャル王女が叫び、騎士達は慌てて動き始めた。そうした中で俺は飛翔する巨大な生物――古の邪竜に視線を向け、どこに降り立つのかを半ば理解し、足を前へ踏み出した。


「……あ、ラグナさ――」


 王女は俺の動きに気付き声を上げたが、それは巨大な音によって遮られた。ズウンと地響きを立てながら着地した邪竜は、威嚇するように一度吠えた。

 竜の形は前世で言うところの西洋竜であり、人間のような四肢がある体躯を持つ。邪竜は二本の足で着地し、両腕の先には鋭利な爪を持っている。


 首が長く、赤い体は鱗のような物で表皮が構成されている……前世におけるゲームで竜は悪役、あるいは神秘的な存在であったりと色々な役回りがあった。しかし目前にいる古の邪竜は、言わば悪役のような見た目をしている。

 世界を滅ぼす存在である以上、それは間違いないだろう……俺は見たことがないけれど、この世界には目前にいるような竜種が存在している。人間が暮らす領域に来ることがないため、大抵の人は生きている間に見ることがないけれど……そうした竜種と明らかに違うと容易に推測できる、禍々しい魔力。


 魔物の王オルザークと同様の、大気さえ歪んでしまいそうなほどの恐ろしい魔力。発せられるそれだけで、単なる竜でないことは明白だった。


「あ、あ……」


 気配に圧されへたり込んでしまう騎士もいた……王女と共にいて、魔物を幾度となく討伐している歴戦の騎士でさえも、そんな風に反応してしまう――まさしく、世界を滅ぼす竜だ。


「……ここに来たということは、私達を獲物と認識したということでしょうか」


 へたり込んだり立ち尽くす騎士達の中で、シャル王女だけは言葉を紡ぎ俺の横にやってくる。


「竜種は、遭遇したことがあります。しかし、これほど魔力を抱えているの個体を見るのは初めてですし、異常です」

『――当然だ、人間よ』


 声を発した。竜種の中には高度の知性を持ち人間と共生する個体もいる。この点については驚くに値しない。


『封印されて以降、ほんのわずかな綻びを利用し外部から魔力を吸収し続けていた。身の内に蓄え続けたその力の大きさは、凡百の同胞とは比べるべくもない』

「……封印、ですか」

『長い時間、封じられていた。我が活動していた事実など、それこそ残っていないだろうくらいには、な。我を封じた愚か者も、既に死に絶え塵すら残っていないだろう。だが』


 竜は俺達へ視線を注ぐ。その視線にも魔力が宿り、周囲にいる騎士達の動きを縫い止めてしまっている。


『人間は、どうやら絶滅していないようだ』

「……封印なんてものをやった人間に対し、復讐ですか」

『その通りだ……身なりからすると高貴な人間といったところか――む?』


 そこで竜はシャル王女へ注目する。


『その剣、鎧……なるほど、人間も多少は技術を発達させたようだな。しかし、我の力には遠く及ばない』


 ――竜は既に臨戦態勢に入っている。戦闘回避は、不可能。


『目覚めた直後の相手としては、人数も少ないが……まずは貴様らから平らげてやろう』


 来る、とわかった直後竜が動いた。右腕をかざしたと思ったら、迷わずそれを王女へ向け振り下ろした。

 彼女は反応した。しかし、竜が腕を振り下ろす速度の方が――ここで俺は動いた。それは半ば反射的に行動であり、自分の意思というよりも剣の力による反応、という解釈が正しかった。


 竜が王女を叩き潰す寸前に俺は彼女の横から体をかっさらい、距離を置いた。遅れて竜が地面を叩く衝撃音。地底の奥底にすら届きそうな振動が生じ、王女が立っていた場所の地面が砕かれた。

 俺は――彼女を抱えた状態で邪竜をにらむ。


『……ほう、少しはできる手合いの人間がいるか』


 邪竜の言葉を聞きながら王女から手を離す。そして剣を構え、

「……ここは俺が」

「しかし――」

「大丈夫です」


 返答はそれだけした。後方から気配を感じつつ、俺はゆっくりと邪竜へ近づく。


 ――勝てるかどうかわからない。目の前にいる邪竜の力は、間違いなくオルザークの上をいく。

 しかし、それでも……俺は背後にいる王女を意識しながら、邪竜へ視線を向けた。


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