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王女の考え

 俺と王女の周囲にいた魔物が、濁流のごとく押し寄せてくる――王女へ視線を向けると彼女は剣を構え応じようとする姿勢を見せていた。

 だが、俺は魔物の目を見て――こちらを無視するかのように王女へ視線を集中させる光景を理解し、まずいと悟った。


 いくら彼女が戦えて俺が援護したとしても、暴虐とも呼べる魔物の攻勢に耐えられない可能性が高い。そう判断した俺の体は勝手に動き、彼女の腕をつかんで引き寄せた。


「えっ……!?」

「俺から……離れないように!」


 そして彼女を半ば抱き寄せるような状態となって――その上で剣を一閃した。ありったけの魔力を込めたその斬撃は、迫る魔物を吹き飛ばすほどの威力となる。

 剣に魔力を乗せれば、擬似的に魔法みたいなことができると感覚で理解する。続けざまに薙いだ剣戟にも魔力を込め、それが風の刃へと変じなおも迫る魔物達を切り裂き、吹き飛ばしていく。


 背後から来る魔物へも同様に剣を振って風を飛ばす。これならなんとかいける、と思ったが、崖上や背後からさらに魔物が押し寄せてくる。さらに言えば、魔物を生み出していた岩のような魔物さえも突撃してくる。間違いなくこのままではジリ貧だ。

 もし魔物が一斉に食らいついてきたら……感覚的に俺は無傷だろうと思った。根拠はオルザークとの最後の攻防。俺は勝利したが間違いなく相手の拳にあった魔力――それはこちらに届いていた。つまり相手の攻撃を受けていたはずだが、無傷だった。


 魔物に襲い掛かられても、俺は怪我一つしないだろう……しかしシャル王女は別だ。防御していたとしても、これだけ大量の魔物に攻撃され続けるのだから、最悪のケースも想定される。

 なら、魔物の攻撃が届く前に倒しきるしかない。しかし風の刃だけでは確実に足らない。もっと、魔物を一度に倒せる手法を考えなければ――


 そう思った矢先、脳裏に閃くものがあった。それは剣が知識を提供したのか、それとも前世の記憶の中にあったものか……判然としないまま、俺は頭に思い浮かべた動作を行う。

 まず右手に握った剣を逆手に持ち替え――地面に差した。同時に魔力を込めると、刀身から地面へ魔力が流れた。


 それが一挙に拡散し、襲い掛かってくる魔物へと弾けた。例えるなら地面から弾丸のような石つぶてが俺達の周囲から発せられたようなもの。その攻撃は一つ一つが魔物に大きなダメージを与えるものであり、魔力のつぶてに当たった魔物はズタズタになって、あっさりと消え失せた。

 魔物の数が一気に減る。そこで俺は一度剣を地面から抜くと、もう一度――先ほどよりも魔力を込め、勢いよく地面に刺した。


 それによって周囲の地面が光り輝いた。その変化はなおも襲い掛かろうとする魔物の動きを止めるほどのものであり――次の瞬間、地面から発する魔力が隆起し光の刃となって、魔物の体に突き刺さった。

 それが、目に見える範囲にいる魔物全てを対象とし……光が消えた時、俺達へ襲い掛かる魔物は、消えていた。


「倒した……か」


 と、ここで未だに王女を抱き寄せていることに気付いて俺は慌てて離す。不敬ととられて斬りかかられたら洒落にならない……などと思ったが、彼女はただ俺を見据え、次いで魔物がいなくなった平野に目を向けた。

 俺は声を上げることもできずただ彼女を見守る。魔物が消え失せた現在、周囲は静寂に包まれキーンと耳鳴りがなるほどだった。


 沈黙が俺と王女との間に生じ……やがて彼女が俺へ向き、頭を下げた。


「助けてくれてありがとうございます、ラグナさん」

「あ、ああ……」


 どうにか返事をした。魔物の王を倒した力……俺が持つそれに恐怖を抱いてもおかしくはなかったが、そんな気配は一切ない。

 そして俺は改めて相手が王女であること認識すると少し声がうわずってしまった。


「私が単独でこの場に来ていたら、間違いなく命を落としていたでしょう」

「……その、王女様が単独で偵察するなんて、褒められたものじゃないと思いますけど」

「……あはは……」


 苦笑するシャル王女。


「もしかして、最初から気付いていましたか?」

「この剣を手にした時から」

「その剣は――」

「偶然、手に入った物です。詳細は俺もわかりません」


 返答した後、王女と視線を重ね、


「……確認ですが、魔物討伐の際に出会ったシャルさんは、あなたなのか?」

「はい、シャル=アルテンは私が剣士として活動する時の姿です」

「なぜそんなことを?」


 問い掛けはしたが……実のところ答えはゲームにあった……もし現実となった今と同じならば回答は――

 俺の質問に対しシャル王女は少し迷った仕草を見せた後、


「その、無茶だってことはわかっています。でも、最前線で戦う騎士として、役目を果たそうと……この国を守るために――」

「王女がそうやって考えているのは、わかっています」


 俺は彼女の言葉を遮るように、語る。


「国を守るために、王族ではあるが無茶している……それは紛れもない事実でしょう」

「はい、そうですね――」

「ただ、他にも理由があるのでは?」


 ……正直、今これを尋ねる必要はない。ただ、どうしても確かめたかった。ゲームの王女と現実の王女の考えが一致していることを。

 それを知れば、俺は王女のために戦う意思を強くできる……きっと、ここから先に出現する敵にも立ち向かえる。そんな気がした。


「従者も伴わずたった一人で偵察に行くっていうのは、どう考えてもおかしい……偵察に行くといった時点で反対されるからだとは思いますが、危険なのは理解しているはず」


 俺の言葉を受けてシャル王女は沈黙する。


「何か、別に理由があるんじゃないか? と、俺は思うんですけど……」

「……心を読み取っているとか、ないですよね?」


 俺は首を左右に振った。そこで王女は沈黙する。

 再び沈黙が生じる……ただ重苦しいものではない。俺は言葉を待ち、王女はやがて意を決したかのように、


「……私は、騎士として剣を手に取って戦っています」

「はい」

「その中で……強い魔物と、あるいは強い敵と戦いたい、という願望があるんです」


 ――同じだ、と俺は思った。ゲームの中の王女も剣を手に戦うことが好きなのだと語っていた。それはシャル王女がゲームで実装された時のシナリオで明らかになる。

 騎士として鍛錬を行ってきた彼女は、綺麗なドレスも、美麗な宝石にもあまり関心がない。求めるのは強い相手――


「あの、一つ言いたいのは決して争いが好きではないのです」


 と、王女はさらに続ける。


「その、私自身が強くなりたいと考え、自分を高めるために強い敵を望んでいると言いますか……」

「剣を極めることが目的?」

「はい、そうです。その過程で、強い敵と戦いたいといいますか……」

「王女らしからぬ願望だけど、武を極めたいという感情は理解できます……今回のも、敵を求めての行動だったと?」

「はい……でも、反省はしてます……」


 視線を落とし落ち込む王女。まあ、単独でここに来たらまずいことになっていたわけだし……もしかすると、ゲームの中でも同じような事態に陥っていたのか?

 シャル王女は王都でオルザークを迎え撃っていたけど、ここで遭遇して何も言わなかったとしたら……もしそうなら、彼女は気に病んだはずだ。それも解決できたとしたら、戦果としては最高だろう。


「……今後、気をつけてください」


 俺はそう言うと、手で町の方角を示した。


「脅威は去った。戻りましょう」

「……はい」


 頷き、王女は歩き出す。それを見て後を追うと、俺は心の中で改めて誓う。

 これから、さらなる敵がロイハルト王国へ襲い掛かってくる。その脅威を、俺は手にした『終焉の剣』で倒す。


 その全ては、目の前を歩く王女のために……今ここで彼女を救ったこと。それによって強く決意が固まった気がした。


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