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王女を救う

「既に配下によって取り囲んだ。おとなしくしていれば危害は加えない。少し話をしようじゃないか」


 ――間違いなくオルザークの声。だが、その言葉は一切信用できない。


 あいつは世界を滅ぼすために動き出している。数日以内にロイハルト王国を滅ぼすべく動くわけで、危害は加えないなどという話を到底信じることはできない。

 だが、現状で逃げようともそれが厳しいのは事実……俺は横にいる王女様へ視線を向ける。


「どう、する?」

「……話ができるのであれば、してみましょう。そして隙を見て、逃げる」

「それしか、ないか」


 今逃げ出せば相手は容赦なく背中を狙う。だが、今は俺達を取り囲むだけで魔物をけしかけてはこない。つまり、話をしようという考えについては本当のことなのだろう。

 会話をして何の意味があるのかわからないが……俺は王女様の考えに従い、崖下を見る。そこに黒衣の男――魔物の王オルザークがいた。


 配下、と先ほど言った魔物の軍勢はオルザークから距離を置いた位置にいる。こちらの警戒を少しでも緩めようとしているのだろう……俺とシャル王女は一度視線を交わした後、魔法を使い崖下まで降りた。


「剣士二人。魔物を調査しに来た人間だな」


 そしてオルザークは言う――と、


「ん? 女剣士の方は妙な気配が漂っているな……幻術の類いか」

「っ……」


 オルザークは彼女がまとっている幻術に気付いた。ただ、本当の姿は見えていないみたいだが。


「話をするのであれば、本当の姿で向き合いたいところだが、どうだ?」


 距離を置いた場所にいる魔物達がうなり声を上げる。気付けば俺達がいた崖の上にも魔物の気配。囲まれている状況だが――まだ仕掛けては来ない。

 シャル王女は少し躊躇した後、魔法を解除した。こちらが視線を向ける間に彼女はオルザークへ向け、


「これで満足ですか?」

「ああ……と、その顔、見覚えがあるな」


 相手は王女様の姿を見て、そう呟いた。


「いや、より具体的に言えばこの男に残っていた記憶か」

「記憶……?」

「そちらは気配で察しているだろう。私は魔物だ。そして基になった魔力は、人間のもの……例え人間の魔力であっても魔物というのは通常、理性無く本能のままに動く獣だ。しかし私は違う。どうやら突然変異、というものらしい」


 自身の胸に手を当てつつ、魔物の王は語る。


「名前は……生前の名を記憶しているからそれでいこうか。私の名はオルザーク。魔物を率い、人を滅ぼすべく活動する人の形をした魔物だ」

「……人を、滅ぼす」

「今の私は基にした人間の意思に影響を受けている。どうやらこの男はこの国に……ひいては、人間という存在に対し憎悪を抱いているようだ。君はオルザークという名に憶えはあるか?」

「残念ながら、ありませんね」


 剣を構えるシャル王女。そんな態度にも一切動じないオルザークだが、


「……ふむ、どうやらこっちには憶えがあるな。そちらの男は知らない。だが」


 と、オルザークの視線が彼女を射抜く。


「君のことは知っている……遠目で見た程度の知識だが、間違えようがない。なぜこんな夜の森で偵察などしている、シャルミィア王女?」

「っ……」


 小さく声を発するシャル王女。彼女が発する警戒の色が濃くなる。


「ふむ、何か理由があるのか……まあいい、そういうことならば話が早い。王女、一つ取引をしよう」

「取引……?」

「君と隣にいる剣士のことは見逃そう。ただしその代わり、私達がここにいたことは黙っていてもらう……そうだな、三日ほど口をつぐんでもらえばいい。そしてここにいる魔物は大した数ではないと報告しろ」

「その三日で……あなたは何をするつもりですか?」

「聞かずともわかるだろう? 私の目的は人を、国を滅ぼすこと。まずはこのロイハルト王国を平らげる」

「それを私が見逃すと?」

「喋るのであればこちらも手荒な真似をしなくてはならない……この絶望的な状況で、逃げられるとは思っていないだろう? 選択肢などありはしない」


 魔物が威嚇を始める。そうした中で、俺は剣の柄に手を掛けながらオルザークを見据える。


「王女、そちらの実力ならば逃げることだって可能かもしれない。だがそれはたった一人で行動していた場合の話だ。横に人間がいる……従者なのか護衛なのか、それとも知り合いなのかわからないが、どんな相手であれ見捨てるような人間ではないだろう?」

「……残念だけど」


 と、俺はここで剣を抜きながらオルザークへ告げる。


「俺は交渉材料にならないよ」

「ほう、命を捨てる覚悟か?」


 その瞬間、魔物の視線が明らかに俺へと向いた――それでチャンスだと思った。魔物の矛先はシャル王女ではなく、俺に向いている。


「……王女」


 俺は剣を構えながら王女へ呼び掛ける。


「俺がどうにか道を開きます。そちらは脱出を」

「それは……」

「悪いが逃がすつもりはないぞ」


 魔物がにじり寄ってくる。絶望的だが……俺は覚悟を決める。

 ここで戦い、王女を救う――それしか道はないし、俺はそのために『終焉の剣』を手にしたのだ。


「ふむ、決意に満ちた瞳だな。ならば、その意思を……砕いてやろう。そして、横にいる王女へ見せつけよう――人間とは、私の手によって滅ぼされる愚かな存在であると――」


 オルザークの背後にいた魔物が、襲い掛かってくる。魔法の明かりによって照らされた空間に、漆黒が突き進んでくる――


「王女は、身を守ることを最優先に!」


 一方的に叫ぶと俺は、間合いを詰めてきた狼の魔物へ一閃した。敵は体当たりと共に俺を吹き飛ばす気でいたみたいだが、こちらの斬撃によって頭部が斬られ、力をなくし消滅した。

 次に来たのは複数体の狼。それに対し俺は感覚で動きを予測しながら――首筋を狙う魔物へ一閃した後、胴体を狙ってきた個体も攻撃をかわしながら頭部を斬った。


 それによって、二体の魔物が一瞬で消える。そこで次に漆黒の甲冑を着た魔物が近づく。剣を掲げ、上段からの振り降ろしが俺へと迫る。

 それに俺は剣をかざし――受けた。衝撃はそれほど大きくはなく、体勢がぐらつくこともない。すかさず俺は魔物の剣を弾いて反撃。首を断ち切り、魔物は倒れ伏す。


 続けざまに、今度は棍棒を持った子鬼のような魔物――津波のごとく襲い掛かってくる魔物達。だが俺はそれを真正面から受け、片っ端から斬り伏せていく。

 感覚的に時間の流れが遅くなり、魔物の動きを見切りながら剣を振っているような感じだった。スローモーションで接近する魔物に対し剣を振って瞬殺し、すぐに切り返して別の魔物へ刃を向ける。その繰り返しではあるのだが、速度自体魔物が応戦できる領域を超えているため、俺だけが一方的に攻撃している。


 結果、実際には数秒程度の時間で十数体の魔物を滅することができた――ここで、騎士風の魔物が五体同時に襲い掛かってくる。それは理路整然とした動きかつ、俺へ仕掛けるタイミングが完璧に同じ――意図したものだと理解できた。

 俺は半ば反射的に動いた。どう応じればいいのか、剣の力を通じ理解できている。五体の魔物が一斉に剣を放とうとした……その寸前に俺は間合いを詰めて一閃した。


 繰り出した横薙ぎは、等しく魔物の首を吹き飛ばし、五体の魔物は一斉に消滅。次は、と即座に思考を切り替えた時、俺は魔物の動きが止まったことに気がついた。


「……貴様」


 そしてオルザークが、俺へ向け声を上げる。


「何者だ?」

「……残念だけど、名を名乗っても俺のことは知らないと思うよ」


 返答に対し、オルザークは警戒を込めた視線をこちらへ投げかけてきた。


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