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盗み聞き 5

 一番のくせ者はベリー医師に間違いありません。


 心に傷を負った美しい王子と、田舎の女の子の恋物語。

 恋から愛へ変化する―。

 二人の思いは成就するのか、それとも、指先から零れ落ちていってしまうのか……。


 この作品は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』の設定を見直し、大幅に改変したものです。

 推敲しようとしていましたが、それに収まりませんでした。基本的な部分は同じですが、主人公セリナの設定が変わったため、変更を余儀なくされる箇所がいくつもあります。脇役達の性格や立ち位置もはっきりしたため、変えたい部分があります。

 もっと面白くなることを願って……。      

 

                            星河ほしかわ かたり

 ジリナは続ける。

「さらに言えば、うちのご領主様はトトルビ様と競争するようにノンプディ様に言い寄っておられたそうですから、それが無視された上に、若様の護衛でやってきた親衛隊の隊長に懸想(けそう)したので、恨み骨髄(こつずい)だったと思います。(むち)打たれれば、ノンプディ様のお気持ちが余計にヴァドサ殿に傾いてしまうため、嫌だったはずです。」


 ふむふむ、とベリー医師は治療しながら聞いている。

「ただ、トトルビ様は意味を分かっておられなかったかと思われます。どうも、少し足りぬお方のようなので。新聞を読んでいてもそれが伝わってきます。最後に少し解せないのが、レルスリ様です。あのお方のことはよく分かりません。どうして、ヴァドサ殿を鞭打って、あの方に対する見せしめになるのか……。」

 さすが、母のジリナは何でも知っている。セリナもへぇー、とジリナの話を聞きながら感心した。今までだったら、都の話なんてつまらないと思っていたのに、今は本当に面白い。というか、関係ある人達が目の前にいるのだ……!

 しかも、鞭打ちの刑とか、お話の中でしか知らなかったようなことが次々と出て来る。


「ジリナさん、答えは簡単ですよ。」

 ベリー医師が真面目な顔で、少し声量を落として言う。

「レルスリ殿もノンプディ殿と同じ理由なんですよ。」

「! え!?」

 シークとジリナの声が重なった。

「どういう意味です?」

 ジリナが慎重に聞き返した。


「大きな声では言えませんが、レルスリ殿もノンプディ殿と同じように、彼のことを心から思っていまして……。」

「ちょ…、ベリー先生、何を言っているんですか!?」

 シークが慌ててベリー医師を止めようと、腕を(つか)んでいる。腕を掴んでも、口を止めなきゃ意味がないと思う。シークの顔色は青ざめている。

「二人で彼を分け合う……、そういう仲なんですよ。」

「!」

 さすがのジリナも口元に手を当てて絶句した。セリナも絶句した。

「先生! 何を言うんですか!!」

 シークが一人で怒っているが、かえって信憑(しんぴょう)性が増すような気がする。


(ちょっと、ちょっと、どういうこと!?)

 途端に心臓がドキドキしてくる。

(隊長さん、モ何とかが男だけど男が好きな人にもモテるってって言ってたけど、本当だったの!?)

 そうなれば、バムス・レルスリには男女両方の愛人がいるのだろうか!?

「先生、ひどいです、なんで、そんな嘘を言うんですか!」

 シークが今にも掴みかかりそうな勢いでベリー医師に抗議している。しかし、どこか半分泣きそうな声のような……。

(分かるわ。だって、そんな秘密、誰にも知られたくないもの。絶対に嘘ってことにしておかなくちゃ。)

 セリナはいかにも物わかりが良さげに、うんうんと頷いた。


「…く、くくく。」

 するとベリー医師が笑い出した。何だかいかにも悪そうな笑い方だ。

「さすがのジリナさんも(だま)されましたね。」

 ジリナがぽかんとベリー医師を見つめる。そんな姿を滅多に見られないが、セリナも今はそれどころではなかった。どういうことよ、と思わずセリナは戸口から身を乗り出した。

「今のは冗談です。嘘ですよ。」

「! 先生、ひどいですよ、今の冗談! 先生が真面目に言うから、信じかけたじゃないですか! それに、ヴァドサ殿にも悪いですよ…! 悪い冗談です!」

 家族でもない相手に対して、ジリナが珍しく怒っている。


(…母さんじゃないけど、今のは本当に悪い冗談よ。わたしだって信じかけた!)

 セリナも思いっきり同調する。

「本当です、先生、なんて嘘を言うんですか!」

 シークにも抗議されるが、ベリー医師は笑っている。笑っている場合じゃないでしょ、内心、少しセリナは腹が立った。

「いやあ、ちょっと、この人にお灸を据えようと思いましてね。無茶ばっかりするから。」

 悪びれずもせずにベリー医師は続けた。

「この鞭打ちだって、陛下に無理だって言ったら、きっと、他の罰にしてくださったはずなんですよ。しかも、何回くらいなら耐えられるか陛下に聞かれて、一応、罰として鞭打つのだから、できるだけ多く叩くべきだと答えたらしく、陛下もお困りになっていましたから。」


 ジリナの目が点になった。

「……なんと馬鹿真面目な。」

 思わずジリナは言ってしまってから、はっとしている。

「…とにかく、鞭打ちの刑は大変だったでしょう。刑罰用の鞭は特別製で、皮膚が破れて血肉が飛ぶように作られていると聞いています。十回でも背中じゅう血まみれでした。」

 ジリナは話題を変えるように言った。

「刑吏の腕によっては、同じ所ばかり叩かれて肉がえぐれてしまい、治りきらないとか。二十回も鞭打たれれば、普通の生活に支障が出るほどの後遺症になるとも聞いた事があります。」

 シークの背中は十回どころではなさそうだ。

「さすが、ジリナさんはよくご存じで。ほら、シーク、君はね、よーく反省しなさい。いつも危険なことばかりやって。フォーリが無謀だ、無謀だと思っていましたが、あなたは案外その上をいっているんですよ。十八回も鞭打たれたんです。」


 なんだか、ベリー医師の説経が始まった。

「そもそも、今のジリナさんの話ですが、元気な人の話。あなたはあの時、毒を二回も飲んでいて、しかも、一つは私も初めての調合の猛毒で、今もあなたを苦しめている毒でフラフラしてたんですよ。」

 毒を二回も飲んでたってどういう意味? ジリナの顔色が悪くなっている。おそらく、普通の親衛隊には起こらないだろうことが起きているのだ。

「あなたね、鞭でどうして死ぬんだろう、みたいな顔してますが、直接的にそれで死ななくても心臓発作を起こしたり、脳の血管が切れてしんだり、刑の傷跡が化膿してそれで死ぬこともあるんですからね。現に君は十八回目で気絶したんでしょうが。二十五回も受けたらどうなっていたか。とにかく、反省しなさい。」


 さっき、二十回でも普通の生活に支障が出るほどの後遺症が残るとか言ってなかったっけ? それが、本当は二十五回受けるはずだった? なぜ、そんなことになるんだろう。しかも、他の人を罰せないから代わりに受けているだけの罰で?

 若様を狙うならまだしも、どうして、親衛隊の隊長が狙われるのだろう。そこからして分からなかったが、若様を狙えない程ちゃんと守るから邪魔なんだと気がついた。

「でも、だからって、あの嘘はひどいですよ、先生。」

 シークは抗議したが、ベリー医師は無視して彼の背中に傷薬を塗っている。

 物語を楽しんでいただけましたか?

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


                            星河ほしかわ かたり

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