盗み聞き 1
復活してきたセリナは、人があまりこない場所を掃除していたが、ベリー医師が薬を持って歩いていくのに気づき、出来心で後を追う。すると……。
心に傷を負った美しい王子と、田舎の女の子の恋物語。
恋から愛へ変化する―。
二人の思いは成就するのか、それとも、指先から零れ落ちていってしまうのか……。
この作品は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』の設定を見直し、大幅に改変したものです。
推敲しようとしていましたが、それに収まりませんでした。基本的な部分は同じですが、主人公セリナの設定が変わったため、変更を余儀なくされる箇所がいくつもあります。脇役達の性格や立ち位置もはっきりしたため、変えたい部分があります。
もっと面白くなることを願って……。
星河 語
あれから数日経って、セリナはどうにか前向きになれたのだが、復活した後もすぐには元気になれなかった。やっぱり色々と考えてしまう。
一人になりたいのもあって、箒を持って裏の通路など、みんながやりたがらない所の掃除をしていた。この日も通路の掃除に向かう途中、ベリー医師の後ろ姿を目撃した。
(考えてみれば、先生にも心配をかけたし、一応、お礼っていうか……、とにかく言っておいた方がいいかも。)
セリナは何気なしに、そう思ってベリー医師の後を追った。だが、ベリー医師は盆を持って歩いているのに、足早にどんどん進んで行ってしまう。呼び止めるにも少し距離が遠い。それに、いつもジリナの目から隠れて、仕事をしているセリナにはピンとくるものがあった。
(何か隠してる。知られたくないことなんだ。だって、わたしが母さんに見つからないように歩いている時と、おんなじ感じがする。)
セリナはすぐに確信した。そうと分かったので引き返そうとしたが、急に一体、何の秘密なのか知りたくなった。少しの間、そこで行くか行くまいか足踏みしたが、結局、誰も見ていないし、好奇心に負けてついていくことにした。
それに、ベリー医師が持っている盆の中身はきっと薬だろう。若様に持って行っていた盆と同じだ。だから、間違いないはずだ。
セリナが急いで走って後を追うと、ベリー医師が角を曲がって建物の中に入り、階段を登っていく所だった。セリナは箒を近くに隠すと四つん這いになって後を追う。
母のジリナの目をくらませるために身につけた技だ。リカンナは上手くいかないと言ったが、セリナはこれで結構ジリナの目をくらませている。
セリナは四つん這いのまま階段を上った。あんまり、この建物の周りには来たことがないので、初めて入る建物だ。中は案外綺麗だった。階段も掃除されていて、ゴミがほとんど落ちていない。誰かが掃除しているとしか思えなかった。
踊り場の先に廊下が続き、その先に部屋があって、ベリー医師はその中に入っていく。セリナはそうっと立ち上がると近づいた。部屋は広く手前の部屋に続いて、さらに奥にも部屋がある。ベリー医師はそこの一番奥に入っていった。
薬を持っていくということは、誰かが休んでいるというか、薬が必要な状況だということである。一体誰なのか、考えつかなくてセリナは首を捻った。親衛隊のけが人達は医務室の近辺にいる。
(そんなに具合悪そうな人、いたっけ?)
セリナはとりあえず手前の部屋に入った。ここには扉はついていないくて、奥の部屋にだけ扉がついているようだ。まずは慎重に手前の出入り口近くの壁に身を寄せてしゃがんで様子を覗う。
「具合はどうですか? 」
ベリー医師の声が聞こえた。静かなので声がよく聞こえる。
「おかげさまで、だいぶ良くなりました。」
「!」
セリナはびっくりして声を出すところだった。
(隊長さん!?)
この声はシークの声だ。
「確かに今朝よりは顔色が良くなったかな。先日、かなり無理をしてますからね。少し回復が遅れている。しかも、若様の治療を優先させ、さらに君の部下達の治療を優先させたから、君の具合が悪くなっていることに気がつくのが遅れてしまった。」
ベリー医師は何かコトコトしながらシークに苦言を呈している。
「フォーリも怒っていましたよ。なんで無理をしたのかと。やせ我慢しているのに、気づかなかったと言っていました。しかも、あの後、殺したかったら殺せとか言ってきたと、相当怒っていました。具合悪いのに村長達の相手もして、セリナの前にも現れて声をかけているそうですしね。」
村長達って何の話だろうと思ったが、おそらく村で事件を落石事故にしたことと関係あるのだろう。
「はは、フォーリは相当怒っているようですね。自分で言いに来ない所をみると。」
「笑い事ではありません。もし、矢に毒が塗ってあったら、今度こそ君は死んでいた。間に合わなかった。毒矢でなくて良かったですよ、全く。」
フォーリが怒っていたと言っていたが、ベリー医師も相当怒っている様子だ。
「そうですね、毒矢だったら部下達の命も危なかった。」
「あなたが、一番危なかったんですよ、ヴァドサ隊長。実際にあれだけ矢を受ければ、皮の胴着を着ていても貫通した矢がいくつかあったんですから。」
セリナはドキッとした。矢の話をしていて、おかしいとは思ったのだ。貫通した矢がいくつかあった? セリナは若様の毒のことに気を取られていて、ずっと忘れていたが、考えてみれば助けてくれたのは、シークとその部下の隊員達だった。
丸太の時は彼の隊員のうちの誰かで、矢の時はシークが自分を盾にしてかばってくれた。セリナはそのことに気がついて青ざめた。助けて貰ったお礼さえ、言うのを忘れていた。
物語を楽しんでいただけましたか?
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
星河 語




