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セリナの本心 3

 セリナはフォーリにばっさり言われてしまいますが、フォーリからベリー医師に選手交代です。


 心に傷を負った美しい王子と、田舎の女の子の恋物語。

 恋から愛へ変化する―。

 二人の思いは成就するのか、それとも、指先から零れ落ちていってしまうのか……。


 この作品は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』の設定を見直し、大幅に改変したものです。

 推敲しようとしていましたが、それに収まりませんでした。基本的な部分は同じですが、主人公セリナの設定が変わったため、変更を余儀なくされる箇所がいくつもあります。脇役達の性格や立ち位置もはっきりしたため、変えたい部分があります。

 もっと面白くなることを願って……。      

 

                              星河ほしかわ かたり

「……それは、フォーリさんはニピ族だし、そんなこと、簡単にできて失敗もしないんでしょうけど、わたしには無理です、そんなこと。」

 セリナは自分でも(おどろ)くほど、不満げにたらたら文句を言った。そして、そのセリナの言葉に対してフォーリなら「当然だ。」とか何とか返ってくると思っていた。

「多くの人は勘違いをしている。ニピ族は最初から失敗をしないのだと。でも、それはまったく違う。先人達が多くの失敗を繰り返し、少ない成功から失敗をしにくい事例を見つけ出し、経験を積んで今がある。」


 思わずセリナはフォーリを見上げた。眉根を寄せて、たぶん少々辛そうな表情をしている。鉄面皮なので表情を読みにくいが、おそらくそんな感じだろう。

「我々は護衛という任務の特性上、多くの死に向き合わなければならない。任務のために殺さざるを得なかった命、助けられなかった仲間の死、守るべき(あるじ)の死、そして、自分自身の命。多くの(しかばね)の上に我々の今がある。」

「……。」

 (むずか)しかった。逃げたいのに逃げられない。それは、確かに護衛だから多くの人の死と向き合ってきたのだろうとは分かるが、フォーリが何を言いたいのか、いまいち理解できなかった。ただ、フォーリが生半可な覚悟でここにいる訳ではないのだ、ということは分かる。


「まだ聞きたかったら、カートン家一門のベリー先生に聞くといい。」

「……。」

 別に聞きたくない。でも、そんなことは言えなかった。

「カートン家一門が今までにどれほどの人を()()()()()のかを。」

 セリナはぎょっとしてフォーリを見上げた。

「そんな言い方、ないんじゃ無いんですか!? だって、多くの人を治しているのに、ひどい言い方です!」

「ようやく、まともな反応が出てきたな。別にひどくない。我々の護衛でさえ、多くの人の死の上に今がある。直接、人の命に関わる医者の一門だ。一体、どれほどの命に向き合ってきたと思っている。まあ、お前の頭は悪くないのだから、よく考えてみることだ。」

 フォーリは時々、皮肉を言っているのか()めているのか分からない時がある。今もそうだった。カチンと頭にきている時に言われても、皮肉だとしか思えない。


「おやおや、フォーリ殿はまだ十代の少女にも随分(ずいぶん)、手厳しい。」

 当のベリー医師がやってきた。

「命に関わる。(きび)しくしなければ死ぬ。それに仮死状態じゃなくなったようだ。」

 フォーリは平然と答える。 

「まあまあ、そうかもしれませんな。その後の治療は医師の役目ですし。」

 ベリー医師がやってきたところで、フォーリは戻っていく。セリナとリカンナはどうしたらいいのか分からず、戻ろうとした。


「君達はまだだ。仕事があるなら、とっくに君のお母さんが呼びに来ている。」

 ベリー医師に引き止められ、セリナとリカンナは顔を見合わせた。

「先ほどのフォーリ殿の言ったことだけど、あれは本当のことだ。カートン家一門は、それは数え切れないほどの人を殺し、その命の上に今がある。」

 セリナは殺すという表現に抵抗があった。

「でも、先生、殺すって。おかしいでしょ、人を治しているのに、殺すなんて言い方、変です。」


「まあ、確かに治してはいる。でも、治せる人もいるが治せない人も大勢いる。全員を助けられるわけではない。神でもあるまいし、失敗もなく助けられるとでも? 私だって治せなくて死なせてしまった人は何人もいる。治療法を間違い、病を悪化させてしまったこともある。

 だけど、努力している。カートン家が神のようになんでも治せると人には思われているが、そんなことあるわけがない。我々が一番、神ではないことを知っている。

 もちろん、人を死なせてしまったら落ち込む。ああすれば良かった、こうすれば良かったと後悔はつきない。多くの治せなかった人達の死の上に、今のカートン家がある。

 カートン家は初代がカートン家と名乗る前、それまでは毒使いの一族だと思われていた。藪医者で多くの人を殺す、草や石や昆虫なんかを集める変わり者の集団。そう思われていた。

 だが、カートン家はそれまでの医師の家門がやらなかったことをやった。それは千年の長きにわたり、多くの薬草や毒草、さまざまな鉱物などを集め、それらが人にどのように作用するか記録し続けた。

 千年の下積みがあったから、初代は凄まじい勢いで多数の薬を作り、流行病を治し、多くの医学書を編纂(へんさん)できた。先人達の忍耐と努力があったからこそ、成し遂げることができ、今も宮廷医を輩出する医者の家門になっている。」


「……せ、千年も。」

 別に聞きたくなかった話だが、いつの間にかベリー医師の話に聞き入っていた。隣のリカンナも同様だった。

「そう。それだけ、多くの人を助けられずに殺してきたことになる。医者だって間違う。死なせないで治療できたら、それが一番いいが、いつも上手くいくとは限らない。

 問題は、失敗した後どうするかだ。先人達の試行錯誤の上に今がある。同じ失敗をしないよう研究し、努力してきた。そして、今でも研究を続けている。未だに人体を解明できていないからね。」


 セリナは目を丸くした。カートン家の医者といえば、何でも知っていると思っていた。当然、人の体も全部知っていると思っていたのだ。だから、当のカートン家一門の医師が、しかも、若様の専属医としてついてきている医師が、そんなことを言うとは思わなかった。意外すぎて言葉が出て来なかった。

「今も解明できていないって。…それに、なんでそんなに長い間、医者であろうと決めて、子孫がそれを引き継いで来れたんですか? 普通、やぶ医者だと言われたら、途中で(くじ)けてしまうと思うんですけど。」

 セリナの質問にベリー医師が少し笑った。

「カートン家がやぶ医者だと言われた理由が分かるかな?」

 セリナは首を振る。見当もつかない。

「分かりません。」

「他の医者が敬遠するような病や怪我も引き受けたからだ。どんな医者も見放した患者を診ようとした。死にそうな人もみんな引き受けた結果、死亡率が高くなり、カートン家に行ったら死ぬと人々は思うようになった。実際には治った人も多いが、人は成功例よりも失敗例の方が記憶に残る。」


 当時、医者にかかれた人はどんなにほっとしただろう。でも、治ると期待したのに治らなくて、がっかりもしただろう。家族が死んだ人達が、カートン家に行ったら死んだと言ってしまう。そして、そういう悪い噂が立ってしまう。悪循環だ。それはセリナにも理解できた。

 物語を楽しんでいただけましたか?

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


                              星河ほしかわ かたり

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