夕陽色の髪の王子さま 8
2025/07/31 改
心に傷を負った美しい王子と、田舎の女の子の恋物語。
恋から愛へ変化する―。
二人の思いは成就するのか、それとも、指先から零れ落ちていってしまうのか……。
この作品は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』の設定を見直し、大幅に改変したものです。
推敲しようとしていましたが、それに収まりませんでした。基本的な部分は同じですが、主人公セリナの設定が変わったため、変更を余儀なくされる箇所がいくつもあります。脇役達の性格や立ち位置もはっきりしたため、変えたい部分があります。
もっと面白くなることを願って……。
星河 語
「帰りましょう、若様。」
そう言って、若様の前に来ると肩に触れてそっと促した。
「ちょっと待って、フォーリ。これを直して欲しいんだ。この人のロバの鞍の革紐が切れてしまって、あやうくロバの下敷きになる所だったんだよ。」
若様はフォーリをロバの側まで引っ張ってくると、突っ立っているセリナの横に来た。フォーリは制服は着ていないが、背も高く帯剣している。地味だが結構、上等そうな服を着ているし、帯の間に扇子を挟んでいた。その上に外套を羽織っている。
「ほら、ここ。だから、この髪紐を使うように言ったんだけど、上等な物は受け取れないって。」
「それで、髪を下ろされていたのですね。」
フォーリは鞍を見ながら納得したように頷いた。
「若様。その娘さんの言うとおり、この髪紐は使えません。鞍に使えるほどの強度はなく切れてしまいます。ですから、髪を結び直しましょう。」
「そっか。それじゃあ、仕方ないね。」
若様はようやく納得すると、素直に後ろを向いた。フォーリは懐から櫛を出し、手早く丁寧に若様の髪を梳いてまとめ、若様から髪紐を受け取り、綺麗に結い上げて髪を結んだ。朱色がかった夕陽のような赤い髪が子馬のしっぽのように跳ねる。
その様子を不思議な気分で、セリナと村の若者達は見つめていた。ただ、髪を結んで貰っているだけなのに、見てはいけないものを見ているかのような、それでいて目を離せない、何か妙な背徳感があった。
「痛くないですか?」
「うん、平気。ありがとう、フォーリ。それで、その鞍なんだけど、どうしたらいい?」
セリナよりも若様の方が鞍にこだわっている。
「これを使ったらどうですか?」
埒があかないと思ったのか、一人の兵士が進み出た。
「私の替えの靴紐です。」
彼らは足首よりは長い長靴を履いていた。この辺では珍しい。この辺では長靴を履いていることはない。革で作った短靴を履いている。その長靴はおおよそ決まった規格で作られているため、靴が大きい人は靴紐で調整するようになっていた。また、切り込みを入れることで脱ぎ履きしやすくなっている。
フォーリはそれを受け取ると、その兵士も手伝って手早く修繕した。さらに、他にほつれている所を見つけたフォーリは、帯の間から革製の道具入れらしき物を取り出す。セリナと村の若者は一斉に驚く。裁縫道具だったのだ。裁縫は大抵女性の仕事であり、男性である護衛が持っているとは思わなかったのである。
フォーリはそのほつれまで縫ってしまった。何でもできるんだな、という思いがみんなの表情に表れていた。
「これでいいでしょう。」
「さすが、フォーリだね。しっかり直ってる。」
若様は修繕された所を指で触りながら頷いてセリナを見た。若様とフォーリの視線を受けて、ぽかんとしていたセリナは、はっとして慌てて頭を下げた。
「あ、ありがとうございました! 本当に助かりました……! こいつらは若様に釣られて出てきただけのただの野次馬で、可愛い子に興味があるだけの役立たずですから、本当にありがたいです、ありがとうございました。」
セリナは緊張のあまり、一息に言ってからふうっと大きく息を吐いた。この時、言うなれば、虎のしっぽを触ったことに全く気がつかなかった。
「……。」
セリナの言葉でフォーリと後ろの護衛達の視線が一斉に鋭くなり、村の若者達を眺めた。その視線と一気に気温まで下がったかのような緊張感に、セリナも若者達に視線を向けた。若者達はただ突っ立って様子を眺めていたが、一人は若様に投げられて地面に転がった後、そのまま地面に座り込んでいた。
「……お前達は一体、そこで何をしている?」
フォーリは静かに、だが、どこか剣を思わせるような冷たい声で尋ねる。え、と村の若者達は戸惑った。さすがに素直に言えない。
「おしおきしてたんだよ。彼女に手を出そうとしてから。」
その時、えっへんと胸を張って若様が答えた。
「若様が、ですか?」
フォーリがいささか驚いた様子で聞き返す。
「うん。」
自信満々に若様は頷いた。ぴょん、と可愛らしく髪の毛が揺れる。フォーリと護衛達は困惑気味に顔を見合わせている。困惑しているのはセリナと若者達も同じだった。お互いに顔を見合わせる。
(この若様、何を言ってるの? やっぱり気が狂っているって話、本当なのかしら。)
思わずセリナはそんなことまで考えた。
「だって、べっぴんさんとか言って笑いながら近づくから。」
セリナと若者達は目が点になった。そして、セリナは頭を抱えたくなった。何か、この若様はきっと勘違いしている。若様はセリナに近づいたと思い込んでいるのだ。実際には若様に近づいたのだが。
物語を楽しんでいただけましたか?
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
星河 語