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散歩事件の顛末 11

 今回はちょっと短め。お話の都合です。



 心に傷を負った美しい王子と、田舎の女の子の恋物語。

 恋から愛へ変化する―。

 二人の思いは成就するのか、それとも、指先から零れ落ちていってしまうのか……。


 この作品は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』の設定を見直し、大幅に改変したものです。

 推敲しようとしていましたが、それに収まりませんでした。基本的な部分は同じですが、主人公セリナの設定が変わったため、変更を余儀なくされる箇所がいくつもあります。脇役達の性格や立ち位置もはっきりしたため、変えたい部分があります。

 もっと面白くなることを願って……。      

 

                               星河ほしかわ かたり

 セリナは話を聞いているうちに、だんだんお腹が痛くなってきて冷や汗もかいてきた。かなり、具合が悪い。異が焼けるような痛みがある。セリナの異変にシークとジリナが気が付いた。だが、シークが口を開くよりジリナの方が一歩早かった。

「セリナ、どうしたんだい? そういえば、その腕は治療して貰ってないね。」

 (ひど)い腕の()り傷が痛むのかとジリナは言ったが、その言葉にベリー医師が振り返った。

「ああ、それじゃあ、治療してあげよう。」


 だが、フォーリはセリナの様子に腕の怪我ではないのではないかと疑った。そう、先ほどのことがある。

「そういえば、先ほど、セリナが自責の念に駆られ、毒入りのパンを食べようとしたので、吐かせて口をゆすがせましたが解毒薬が必要ですか?」

 フォーリの言葉にベリー医師が弾かれたように振り返った。

「なんだって? 馬鹿なことを…! 私はある程度、毒に慣らされているからいいようなものだが、そうでない者は危険だ。」

 ベリー医師は慌てて解毒薬を器に注いだ。

「多目に作ってあって良かった。」


 セリナに解毒薬をベリー医師が渡す。セリナはさっきから、毒のせいで具合悪くなってきたのではないかと心配になっていたので、ほっとしながら器に口をつける。

 湯薬を一口、口に含んだ途端、あまりのまずさに思わず吹き出した。セリナ自身もはしたないと思ったが、呆れるほど勢いよくぶーっと音を立てながら、まともにベリー医師の顔に吹きかけた。

「……。」

 誰もが言葉を失って何も言えない。ベリー医師のあごから薬がぽたっ、ぽたっ、と(したた)り落ちる。


「セリナ! お前って子は!」

 一番最初に我に返ったのはジリナだった。

「ベリー先生、申し訳ありません!」

 ジリナは急いでベリー医師の顔を手ぬぐいで拭う。

「ご、ごめんなさい!」

 セリナも慌てて手伝おうとするが、ジリナにぴしゃっと手を叩かれる。

「お前は黙ってその薬を頂きなさい! 貴重な薬なんだから、残らず飲み干すんだよ! 今度こぼしたら尻を()いて叩くからね!」


 母の前では何も言えない。しかも、粗相した直後では反論のしようもない。セリナは必死になって薬を口に入れた。まずくて舌が(しび)れそうだ。吐きそうになるのを必死に堪え、涙目になりながら薬を飲み干した。何度もせり上がる吐き気を押し戻した。

 若様は偉い。吹き出しもせずに飲んでいた。しかも、何度も。


「吐くんじゃないよ! 吐いても同じ、尻を剥いて叩くからね!」 

 頭をぴしゃぴしゃ平手で叩かれる。痛くはなかったが、衝撃で吐きそうになる。やめてと言いたかったが、まだ薬を飲みきっていなかったので口を開くこともできない。セリナは必死に口元を抑えて吐き出さないように堪えた。他の大人達は必死に笑いを飲み込む。薬をかけられたベリー医師でさえ、笑いを咬み堪えていた。


「ねえ、フォーリ。お尻を剥いて叩くってどういうこと? お尻をどうやって剥くの?」

「それは衣服を脱がせるという意味です。」

 小声でやり取りする声が聞こえる。母のジリナのことだ、たとえ、若様の前だろうと有言実行するに決まっている。セリナは意地で薬を飲み込み、吐き気を堪え続けた。

「ふうん。そういうことか。」

「その後で、お尻ぺんぺんしますよ、ということです。」

「なんだ、びっくりしちゃった。本当にお尻の皮を剥くんだと思ったから。」

「さすがにそれはできません。死んでしまいますから。」

 何気に恐い想像をしている若様との小声のやり取りが妙に大きく聞こえてきて、それが余計に笑いを誘う。

 セリナは恥ずかしさで真っ赤になりながら、必死に吐かないように堪えたのだった。

 物語を楽しんでいただけましたか?

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


                              星河ほしかわ かたり

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