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散歩事件の顛末 6

 母ジリナの行動にびっくりするセリナ。


 心に傷を負った美しい王子と、田舎の女の子の恋物語。

 恋から愛へ変化する―。

 二人の思いは成就するのか、それとも、指先から零れ落ちていってしまうのか……。


 この作品は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』の設定を見直し、大幅に改変したものです。

 推敲しようとしていましたが、それに収まりませんでした。基本的な部分は同じですが、主人公セリナの設定が変わったため、変更を余儀なくされる箇所がいくつもあります。脇役達の性格や立ち位置もはっきりしたため、変えたい部分があります。

 もっと面白くなることを願って……。      

 

                    星河ほしかわ かたり

 医務室に戻ると、フォーリはシークやベリー医師と話をしている所だった。

「遅かったな。」

 フォーリが完全に振り返る前に言い、セリナが口を開くより早くジリナが床に平伏した。

「うちの娘がたいそう、ご迷惑をおかけ致しました。娘が若様にパンを作って差し上げ、その結果、毒を口にしてしまったと、たった今、娘から聞きました。シルネとエルナにつきましても、言い訳のしようがございません。わたしの監督不行き届きでございます。

 ですが、娘もシルネとエルナにしても、田舎の娘達で深く考えたわけではありません。どうか罰するならば、わたしを罰し、娘達の命だけはどうかご容赦下さい。この通り、伏してお願い申し上げます。」

 ジリナの行動にセリナは目を丸くして、突っ立ったまま呆然と眺めていた。


「ジリナさん、あなただけのせいではありません。立って下さい。ちょうど話があります。」

 それでも、平伏したままのジリナにシークが近寄って立たせた。

「……申し訳ございません。」

「責任の重さで言うならば、私の方が(はる)かに重い。毒味をさせたため、すっかり安心してしまいました。もっと用心すべきでした。まさか、若様のパンに毒の粉が降ってあったとは。」


「あの!」

 パンの話が出たため、セリナはいたたまれなくなって叫んだ。

「……ご、ごめんなさい、わたし、隊長さんが見ていない隙に、若様が食べたパンとは違う包みのパンを出しました。それを、毒味係の人に渡しました。うっかり、置いてくるパンを二つにしたから、若様に食べてもらうためのパンが、減ってしまうって思って……。」


 フォーリ用に置いていくパンを分けた時、セリナがパンに触りシークが布に包み直したパンを(かご)に入れた。セリナが一番、毒に触っている可能性が高かったが、その後、便所に行って手を洗ったのでた難を逃れたのだ。


「…セリナ、分かった。よく、勇気を出して言ってくれた。それでも、護衛隊長の私が許可を出した。それは変わることはない。私の責任だからお前が責任を感じる必要はない。」

 セリナの両目から涙が溢れ出る。パンをすり替えたことを(とが)められなかったから、ではない。思い切って話したことを認めてくれたからだ。

「あの時、みんな食べていた。セリナが一番、あの毒入りのパンを食べてしまう可能性があったし、パンを食べなくとも、毒を口にしてしまう可能性もあった。だから、セリナが犯人だとは考えていない。」

 犯人ではないかと疑われて仕方ないのに、セリナを犯人ではないと認めてくれて嬉しかった。フォーリだけでなく、シークもそうだと分かって心強かった。


「一番、悪いのは私だ。」

 その時、若様の(かす)れた声がした。

「若様、ご無理はなさらず。」

 フォーリが体を起こそうとする若様を支えた。ちょっとの間に意識が戻っていて、セリナは心から安心した。死んでしまうのではないか、ずっと不安だったから。人生の中でこんなに、ほっとしたことはなかった。


「若様、よかったあぁ!」

 叫びながら腰が抜けて床に座り込んだ。真っ赤に泣きはらした両目にさらに涙が盛り上がる。

 若様の方もそんなセリナを確認し、はぁっと息をついた。本当はそんな若様をもっとちゃんと見たいのに、涙で前が(ゆが)んで見えない。


「良かった、セリナが無事で。巻き込んでしまったから。」

 話すだけで息が苦しそうだ。

「フォーリを休ませて、その間に真犯人をあぶり出そうとしたら、相手の方が一枚も二枚も上手だった。ベリー先生の心配が的中してしまって……。」

「若様。どっちみち、手段を問わずいつか、実行するつもりだったのでしょう。村の娘達を使い、罪をなすりつけて逃げるつもりだった。しかし、計画は途中で失敗したので、今後、どう出るかが問題です。」

「ジリナさん、シルネとエルナから話は聞きましたか?」

 ベリー医師の問いに、ジリナは二人が初めて村に来た商人に言われて実行した経緯を説明した。


「叔母上かな。」

 また体を横にした若様が言う。

「ジリナさん、ごめんなさい。娘さんを巻き込んでしまいました。危険な目に遭わせてしまって、ごめんなさい。」

 息も絶え絶えに若様がジリナに謝罪する。

「いいえ。謝って頂くのはもったいのうございます。謝るべきはわたし共です。本当に申し訳ございません。」

 ジリナはもう一度、若様に頭を深く下げる。そんな母の姿を見たことがないので、セリナはただ(おどろ)いていた。


「ジリナさん、もう謝らないで。あなたのせいじゃない。」

 酷い顔色で若様はきっぱり言った。

「セリナにも罪を問うつもりはない。今回の件で誰にも罪を問わない。村の娘達にも口止めをして。じきに話は伝わると思うけど、それでも、落石事故だったと通して欲しい。村の人達に余計な不安は与えたくない。ジリナさん、あなたならできると思う。やってくれますか?」

「承知致しました。必ずその通りに致しますので、ご安心下さい。」


 若様は頷いた。

「それから、ヴァドサ隊長。もう一度言うけど、絶対に自害しないで。私が命じた。だから、責任を感じて絶対に自害しないで。護衛はヴァドサ隊長でないと嫌だ。命がけで私を助けてくれたのは分かってる。ヴァドサ隊長でなかったら、丸太が転がってきた時点で死んでいたと思う。」

 若様は意識が朦朧(もうろう)としながらも、丸太が転がってきたのは分かっていたらしい。実際にあの状況で冷静に対処したことが(すご)いと思う。セリナは何がなんだか分かっていなかった。

 それにしても、何度も自害しないように頼むのはなぜなんだろう。国のことに疎いセリナには理由が分からない。ジリナをこっそり(うかが)うと、複雑で(むずか)しい表情をしていた。もしかして、こんな状況になってしまったら、責任を取って自害してもおかしくないのだろうか。

「……若様。先ほど、お約束致しました。ですから、ご安心下さい。」

 シークが答え、若様はようやく安心したように息を吐いた。

 物語を楽しんでいただけましたか?

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


                             星河ほしかわ かたり

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