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散歩 3

 心に傷を負った美しい王子と、田舎の女の子の恋物語。

 恋から愛へ変化する―。

 二人の思いは成就するのか、それとも、指先から零れ落ちていってしまうのか……。


 この作品は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』の設定を見直し、大幅に改変したものです。

 推敲しようとしていましたが、それに収まりませんでした。基本的な部分は同じですが、主人公セリナの設定が変わったため、変更を余儀なくされる箇所がいくつもあります。脇役達の性格や立ち位置もはっきりしたため、変えたい部分があります。

 もっと面白くなることを願って……。      

 

                              星河ほしかわ かたり

 セリナは見晴らしが良く景色のいい所があるので、そこに目星をつけていた。どこに行くかとなった時、セリナが率先して案内したのだ。そうでないと、屋敷の周りをぐるり…と回っただけで終わってしまう。

 屋敷から少し離れるが、狩りに行く山よりはぐんと近いし、セリナの家から水車小屋まで行くよりも近い。散歩にはちょうどよい距離だ。しかし、散歩にはちょうど良い距離でセリナはへとへとになって歩いていた。


 出発する際、シークはセリナの背負い(かご)を部下の誰かに持たせると言ってくれたが、断固として断った。本当なら、誰かに持って貰いたかったが、揺れ動いて若様用のパンを見失っては嫌だと思ったのだ。先に親衛隊の誰かが良かれと思って、パンを取り出さないとも限らない。数個ずつ布にくるんであるとはいえ、転がり落ちても嫌だ。

「いいえ、これはわたしが持っていきます。」

「だが、相当な量だろう? かなり重くないか? ここまで運んできただけでも重かったはずだ。」

 二十人分がどれくらいになるか分からなかったのだが、一人二個ずつ行き渡るように作ったら、相当な重さになった。粉も油も想像以上に使ってしまった。後で母のジリナにこっぴどく叱られるのは、もう覚悟の上だ。


 シークは気遣ってくれたが、セリナは首を振った。

「いいえ、わたしが運びます。だって、わたしが勝手に作って持ってきたんです。だったら、最後までやり通さないと何か違うんじゃないかなって思うんです。運んで貰ったらだめだと思うので。」

 そんなんで、セリナは背負い籠を背負って歩いていたが、相当きつかった。それでも、シークにああ言った手前、後から運んでくれと言うのは(はばか)られて必死になって歩いた。

 若様がいて喜んでいなければ、到底耐えられなかっただろう。若様の笑顔を見たいがために必死になって歩いた。


「わあ、ここは見晴らしがいいね。」

 若様の声でセリナは、疲れも取れる気がした。ようやく到着したのだ。少し小高くなっている放牧地だ。

「ここはどういう所なの?」

 岩の上に背負い籠をようやく下ろしたセリナは、背中を少し伸ばしてから答えた。

「放牧地ですよ。村はずれなので、あんまり村人の人気はないかも。でも、わたしは景色が綺麗だから、よくここに来るんですよ。牛とロバがいますからね。それに、ここはあんまり人が来ないから、草もしっかり生えてますし、お腹いっぱい食べさせてあげられるんです。」

 セリナは若様に話をするのが楽しくて自然と笑顔になった。

「へえ、そうなんだ。あ、そういえば、あのロバは元気?」

 ロバの心配をする若様は優しいな、と思って嬉しくなる。

「クーですか。ええ、元気ですよ。」


 答えてからセリナは思い出した。少しからかって聞いてみる。

「そういえば、若様。あの時、分からなかった“あそこ”の意味を聞きましたか?」

「…え? あ、え…!?」

 若様は目を白黒させて慌てだした。フォーリがいたら到底出来ない。慌てている若様も可愛い。

「え、あ、えーと……何を言ってるの、セリナ……!」

 顔を赤くして狼狽(うろた)えている。あまりにも可愛くて顔がにやけてしまいそうだ。エプロンに顔を(うず)めてそれを隠す。慌てているということは、つまり、聞いたのだ。フォーリはあの調子でなんでも教えられるのか、と思えば本当になんでも出来る人なんだと感心してしまう。


「つまり、聞いたんですね?」

 わざと小声でひそひそと聞くと、若様の目が点になった。

「…だ、だめだよ、まだ年若い女の子がそんなことを言ったら、良くないと思う…!」

「えー、わたし、何も言ってませんよー。」

「もう、セリナ!」

 若様が顔を真っ赤にして怒っている。怒っている姿も可愛いので、もっとからかいたくなった。その時、シークの咳払いが聞こえたので、セリナは調子に乗ってもっとからかうのをやめた。

「分かりました。すみません、若様。それよりも、ほら、ここら辺でご飯にしませんか? 見晴らしもいいし、出て来るのが遅くなった分、ちょうどいい時間ですよ。ここの岩が座るのにちょうどいいんです。」


 セリナが謝って話題を変えたので、若様も安心したように機嫌を直した。

「草の上には座らないの? でも、お尻が濡れちゃうか。」

 聞いておきながら自分で答えを出している。野宿生活で分かっているらしい。

「そうですよ。それに、放牧地だから、時々、家畜の(ふん)が落ちていますからね。座っちゃったら最悪ですもん。」

「はは、そうだね。大変なことになっちゃう。」

 何か思い出したことがあったのか、若様は苦笑している。経験があったのだろうか。セリナは背負い籠の(ふた)にしていた布を外した。パンの匂いが漂う。匂いを()いだ途端、お腹が空いてきた。でも、今はぐーっと鳴って欲しくない。若様の前で鳴るなんて恥ずかしい。


「たくさんあるね。」

 中を見た若様が言う。セリナは手際よく布包みを取り出して岩の上に並べた。若様用の布にくるんだ中から毒味用のパンを渡すと、若様が食べる分がなくなってしまうので、シークが部下達に何か指示している間に、別の包みからさりげなくパンとお菓子を取り出した。

「これです。」

 戻ってきたシークに対して毒味用のパンを示す。形の出来が違うだけなので、問題はないだろう。

「さっきも言いましたけど、念のため。このパンは全部同じ材料でできてます。」

「分かった。」

 シークが(うなず)き、毒味係のラオとテルクがパンとお菓子を受け取って食べ始めた。いつも、二人が食べて少し時間が経ってから若様が食べる。


 物語を楽しんでいただけましたか?

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

 ここでは、少々、詰めの甘い部分を修正しました。


                               星河ほしかわ かたり

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