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夕陽色の髪の王子さま 5

2025/07/29 改

 心に傷を負った美しい王子と、田舎の女の子の恋物語。

 恋から愛へ変化する―。

 二人の思いは成就するのか、それとも、指先から零れ落ちていってしまうのか……。


 この作品は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』の設定を見直し、大幅に改変したものです。

 推敲しようとしていましたが、それに収まりませんでした。基本的な部分は同じですが、主人公セリナの設定が変わったため、変更を余儀なくされる箇所がいくつもあります。脇役達の性格や立ち位置もはっきりしたため、変えたい部分があります。

 もっと面白くなることを願って……。      

 

                    星河ほしかわ かたり

「ねえ、聞こえる? 君、大丈夫?」

「…え?」


 再三尋ねられて思わずセリナが変な声を出すと、少年はにっこりした。彼が笑うだけで辺りが一気に華やいだような気がした。村で見たことがないほど上等な衣服を(まと)ったこの美しい少年が、村の領主の別荘に住むことになった、気が狂っているという王子様なのだ、とようやくセリナは気がついた。


「良かった、聞こえるんだね。ね、大丈夫? どこか、怪我はない?」


 ようやく意味がセリナの頭に届いた。耳も訛りのない言葉に少し慣れたせいだろう。


「え、ええ、だい、大丈夫、です。」


 セリナは慌てて立ち上がりつつ、お尻をはたいた。目の前の少年に比べて、セリナの服はみすぼらしくて急に恥ずかしさを覚えた。


「良かった。危なかったね。」


 少年はセリナの服装なんか気にもしていないようで、嬉しそうに微笑みかけてくる。そんな視線を受けるだけで、セリナは顔中が沸騰(ふっとう)しそうになった。セリナが赤くなっている間に、少年は目線をロバのクーに向ける。


「そしたら、早くこの子馬を起こしてあげよう。」


 セリナは首を(かし)げた。どう見ても、少年はクーを見ている。どうやら、ロバを子馬だと勘違いしているらしい。


「これ、子馬じゃなくて、ロバですよ。」


 思わず訂正してしまう。少年は目をまん丸にしてから、照れ笑いをした。


「そうか、そうだったのか。だから、馬にしては耳が長いなって。ロバを初めて見たよ。」


 素直な感想に、思わずセリナは少年が可愛くなってしまった。


「でも、馬鹿じゃないですからね。」


 つい言ってしまってから、しまったと思うが遅い。今度は少年が首を傾げる。


「馬鹿ってどうして? 私はこの子が馬鹿だなんて言ってないよ。」


 パルゼ王国では、なぜかロバみたいな奴だと言うと、頭が弱い馬鹿な奴という意味である。だから、この村でもロバはそういう意味で使う。


「それとも、私がロバを知らなかったから、そう言ってるの?」


 少年は少し表情を(くも)らせている。セリナはそれを見て焦った。なんで、こんなに焦っているのかと思うほど焦りながら口を開く。


「あ、あの、違うんです。ここら辺ではロバみたいなって言うと、人を馬鹿にする意味で使うんです。頭が悪いとか。でも、実際のロバは賢いので、いつも、わたしが勝手に腹を立てていたから、つい、そんな言葉が。」


 すると、少年は納得したようだった。


「なんだ、そういうことか。びっくりした。急にそんなことを言われたから。」

「ご、ごめんなさい。」

「いいよ。理由が分かったから、気にしてない。それより、早くこの子を起こしてあげよう。」


 少年がロバのクーに近づいて鞍に触ろうとしたので、慌ててセリナは止めた。万一クーが暴れでもして、少年が怪我をしたら大変なことになる。


「待って。えーと、その、鞍の紐が切れてしまってるので、まずは穀物を下ろしてやらないと立てないので、それからです。」


 まだ幼げな顔立ちを見るに、まだ少年はセリナより三つ、四つ年下のようだ。少年の格好をしていないと少女だと思ってしまう。そもそも、サリカン人の姿にあまり見慣れていないので、男の子の髪が長いのに見慣れていない。女の子ではないかと疑ってしまいそうになる。


 少年はセリナを見上げて(うなず)いた。まだ、セリナの方が少しだけ背が高い。目線はやや下にある。


「この麻袋に穀物が入っているんだね。」

「ええ。」

「手伝うよ。麻縄は切ったらだめだよね?」

「そうです。わたしが縄をほどくので……えーと、若様はそこに袋を積んで下さい。」


 やる気満々なので手伝って貰うことにした。ジリナの厳しい教育のせいか、若様という言葉も出てきて、内心でセリナはほっとした。確か、王子様がやってくる前の村人全員参加の集会で、役人が王子様と言ってはいけないと言っていたはずだ。なぜかは興味がなかったので忘れてしまったが。


 今思えば、もうちょっと良く聞いておけば良かったと少しだけ後悔した。


「ねえ、ここに積むの?」


 少年の声にセリナは我に返った。


「ええ。そこに積んで下さい。」

「…地面の道路に積んでいいの? 食べ物なのに。」


 セリナはその言葉の方に驚いた。そして、本当に育ちがいいのだと思う。しかも、どこが気が狂っているのか、今のところ全く分からない。狂っているどころか、素直で可愛い性格だ。


「大丈夫ですよ。それに、穀物はみんな外で育っているんですよ。地面に落ちた物でも、拾って袋に詰めてますから。」

「そうなのか…! でも、考えてみればそうだね。じゃあ、ここに置くよ。」


 王子だろうと思われる若様は、麻袋を順番にセリナから受け取って積み重ねた。そうしておいて、ようやくロバを起こす。


「この子、怪我してない?」


 心配そうに若様が聞いてくる。


「そうですね。大丈夫みたい。」

「ねえ、()でてもいい?」


 セリナが大丈夫と言った途端に、嬉しそうに目を輝かせて若様が聞いてきた。思わずため息をつきそうになるのを堪え、セリナは頷いた。


「いいですよ。そっと。」

「うん。」


 セリナが若様の手を誘導する前に、若様はさっとクーの鼻面を()で始めた。


「毛がふかふかしてるね。横倒しになってお腹、苦しくなかった?」


 クーは大人しくして若様の口調に会わせるかのように、大きな目を(またた)きさせた。


「ふふふ。」


 大変可愛らしい笑みにセリナは見とれかけたが、大事なことを思い出した。鞍である。壊れたのなら大変だ。どうにか修繕できないか、見てみないといけない。もし、修繕できそうにもないなら、そんな状態で粉ひきに出かけたセリナは帰ってきたジリナに叱られるだろう。面接にも行けなかったし、きっとひどく叱られるはずだが、しょうがなかった。


 今はできるだけ叱られないように、鞍の状態を確認しなければならない。確認して、セリナは落胆した。革紐が完全に一カ所切れており、それを(つな)ぐ代用品さえ見つからないのだ。つまり、粉ひきに行って戻ってくることさえできない。


 セリナは思わず、地面に積んだ穀物入りの麻袋を恨めしい目で見つめてしまった。これをどうやって持って帰るというのか。自分が一つずつ抱えて運ばなければいけなくなる。それを考えると何がなんでも修繕したいが、果たしてできるかどうか。


 そんなことを一瞬で考えたセリナだったが、結局、母ジリナの雷が落ちることを怖れた。


(やっぱり、母さんの雷が落ちることだけは避けないと。)


 そんな決心をして、セリナは鞍の切れた革紐を引っ張ってみた。結べないか試すのだ。


「何をしているの?」


 若様が不思議そうに尋ねる。少しだけだが、母を怖れるあまり、この美貌(びぼう)の少年のことを忘れていた。何か持っていたら(もう)けもんだと思って尋ねてみる。


「何か、紐状の物を持っていませんか?ここに通せる太さの物が必要なんですが、麻紐じゃ太すぎるし、すぐに切れてしまうし。」


 セリナは切れた革紐同士を結ぼうと、短くなった革紐をぐいぐい引っ張った。若様がじっとセリナの手元に視線を注ぐのを感じたが、素知らぬふりをする。


「! あ、ちょうどいい物があるよ。」


 突然、彼は言って何か動いたので、セリナは思わず振り返った。ちょうど、若様が髪紐をほどいた所だった。美しい朱色がかかった夕陽のような髪の毛が、きらきらと日の光を反射しながら背中に流れ落ちていった。思わずセリナは息を止めて見入った。


 性別を超えた美しさがあるのだと、この時、セリナは初めて知った。たとえ、彼が同性の少女だったとしても、同じように息すら止めてみとれたに違いない。

 物語を楽しんでいただけましたか?

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


                    星河ほしかわ かたり

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