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散歩に行きたい理由 6

 心に傷を負った美しい王子と、田舎の女の子の恋物語。

 恋から愛へ変化する―。

 二人の思いは成就するのか、それとも、指先から零れ落ちていってしまうのか……。


 この作品は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』の設定を見直し、大幅に改変したものです。

 推敲しようとしていましたが、それに収まりませんでした。基本的な部分は同じですが、主人公セリナの設定が変わったため、変更を余儀なくされる箇所がいくつもあります。脇役達の性格や立ち位置もはっきりしたため、変えたい部分があります。

 もっと面白くなることを願って……。      

 

                             星河ほしかわ かたり

 すると、ベリー医師がグイニスを振り返った。

「ほら、ぼやぼやしている時間はありません。犯人を(おび)き出すにはフォーリがいないと伝達しなくてはなりませんからな。親衛隊に行っておけば、自然と屋敷中に伝わっていきますよ。心配無用です。」

 ぼやぼやするなと言われても、ぼやぼやしているのがグイニスなのだった。


「え、でも先生?」

 思わずぽかんとしてベリー医師を見つめる。

「何をぼんやりしているんですか。まさか、今さら恐いとか怖じ気づいているんですか。こうなったからには、若様が危機をご自分で脱しないといけません。なんせ、フォーリは寝ていますから。」

「でも、犯人が必ず来るとは限らないよ?」

「なぜです? フォーリがいない絶好の機会ですよ?」

「だって、犯人はセリナの家族かもしれない。セリナも一緒にいるのに、本当にやってくるかなって…思うけど……。」


 ベリー医師の勢いに押されて、グイニスは尻すぼみになりながら答えた。

「そうでしょうか。ああ、そうだ、セリナと二人っきりになってはいけませんよ。二人だけの時に何かあった場合、セリナが犯人にされてしまい、確実に殺されてしまいます。」

 セリナがいるから、犯人は手出しをできないのではないか、そこに自分の甘い考えがあったことを気づかされて、グイニスはだんだん気持ちが落ち込んできた。セリナが犯人にされるなんて考えていなかった。セリナが犯人だとは思わないし、思いたくない。


(……だって、セリナは姉上みたいに、叱ってくれた。生きてるだけでいいって、言ってくれた。)

 あんなに必死になって崖から助けてくれたのに、犯人のはずがない。犯人なら、主犯でなくともわざわざ崖で助けるわけがない。知らない振りをして通り過ぎれば良かったのだ。それをしなかったのは、セリナだ。だから、セリナは犯人ではないとグイニスは思いたかった。


 それに、感情が顔に出やすいセリナに嘘を突き通すなんてできるわけがない。

 でも、セリナが犯人でなくても家族が関わっているかもしれない。

(お母さんが関わっているって分かったら、きっと悲しいだろうな……。)

 そう思えば、犯人は動かないのではないかと思う。思ってしまう。望んでしまう。今日は何もしないで。そう願ってしまう自分がいる。フォーリを助けたいのか、何をしたいのか分からなくなりそうだ。

 こんな優柔不断な自分がグイニスは嫌いだった。弱虫の自分が嫌いだ。


「いいですか、若様。たとえ、フォーリに頼んでセリナを助けようとしても、ヴァドサ隊長に殺されますよ。」

 まさか、そんなことはしないよ、と言いたかったが続いた言葉に黙るしかなかった。

「若様もご存じの通り、彼はとても真面目な人柄ですから、セリナが若様を害したとなったら、心を鬼にして、すまないと泣きながらでも任務を全うしてセリナを斬るでしょう。」

 シークは真面目で誠実で優しい人だが、人を殺せる。

 グイニスを守るために、何人も人を斬ってきた。任務に忠実で真面目な彼は、雇い主である叔父のボルピス王にも忠実である。セリナがグイニスを害したと分かったら、ベリー医師の言うとおり、妹と近い年齢であってもなんでも、泣きながらでも斬るだろう。


「まあ、犯人にしてみれば、一度、セリナ辺りに濡れ衣を着せて犯人を捕らえたつもりにさせ、安心した所でゆっくり殺す。その方が確実にいけますからね。」

 もちろん、殺されるのはグイニスだ。そうなれば、セリナも死んで自分も死んでしまう。フォーリもみんな死んでしまうという結末だ。たぶん、ベリー医師は死なないような気がするが。こんな時だが、なんとなくベリー医師は死なない気がした。


「一体、何の話ですか? ベリー先生?」

 シークが険しい顔で診療室の入り口に立っていた。いつの間に来ていたのだろう。グイニスは彼の部下達を疑っていると知られたくなかったが、仕方なかった。黙っているしかできなくなったグイニスに代わり、ベリー医師が口を開く。

「ちょうど良かった。今の話、ある程度は聞いていたでしょう。若様の提案でフォーリを休ませています。」

「それは分かっています。フォーリを休ませたいから、今日は特に念を入れて護衛して欲しいと若様が仰ったので、お待ちしておりました。散歩をされるというお話でしたのでお迎えに参りました。」


 当初はグイニスはベリー医師と一緒に、シーク達親衛隊の元に行く予定だった。ベリー医師の所に行ってから来る、と言えば自然とそうなる。しかし、予想以上にベリー医師の説得に時間がかかったので、迎えに来てしまったのだ。しかも、あまり聞いて欲しくない話も聞かれてしまったらしい。

「ですが、若様が(おとり)になって犯人を誘き出すとかなんとか、どういうことですか?」

 シークは(むずか)しい顔でグイニスとベリー医師の顔を交互に見比べた。


 物語を楽しんでいただけましたか?

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


                             星河ほしかわ かたり

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