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散歩に行きたい理由 1

 心に傷を負った美しい王子と、田舎の女の子の恋物語。

 恋から愛へ変化する―。

 二人の思いは成就するのか、それとも、指先から零れ落ちていってしまうのか……。


 この作品は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』の設定を見直し、大幅に改変したものです。

 推敲しようとしていましたが、それに収まりませんでした。基本的な部分は同じですが、主人公セリナの設定が変わったため、変更を余儀なくされる箇所がいくつもあります。脇役達の性格や立ち位置もはっきりしたため、変えたい部分があります。

 もっと面白くなることを願って……。      

 

                             星河ほしかわ かたり

 フォーリの顔を若様はじっと見上げた。

「やっぱり、だめだよ!」

 若様は言うなり、フォーリを医務室として使っている部屋に引っ張ってきた。何がだめなのかは分かっている。一昨日、皿を顔面に受けたので、青あざができたのだ。

「ベリー先生、フォーリの顔を治療して。」

 すでに経緯を聞いているベリー医師は、フォーリの顔を見てニヤリと笑う。カートン家に学んだ医師で、宮廷医師団に入る話も出ていた実力のある医者だ。一応、王族の診療に当たる医師は宮廷であるので、若様付の医師であるという時点で宮廷医である。ただ、一般には宮廷医と言うと、王宮勤めだと思われる。


「おやおや、フォーリ殿、これはご立派な青あざですな。」

 わざわざ芝居がかった調子で言ってきた。そもそも、若様の診察があるので、毎日顔を合わせている。すでに知っているのだ。何をわざわざ殊更(ことさら)に言う必要があるのか。フォーリは少しムッとしたが黙っていた。


 ベリー医師はフォーリが凄腕(すごうで)のニピ族だと分かっていても平気でニヤニヤ笑ってからかう。それは、カートン家一門の医師も武術の腕に自信があるからでもあるだろう。

 というのも、カートン家一門の医師達は全員がニピ族の武術であるニピの踊りを身につけている。実はニピ族は分裂しており、カートン家に武術を教える代わりに、いつでも治療して貰えるという契約を結んだ方を“踊り”といい、昔からの契約を守って王家に仕える方を“舞”という。

 今では踊りの方は、カートン家だけでなく貴族などにも仕えるようになっていた。そのため、昔からの契約を守るニピ族とは仲が悪い。しかし、ニピ族が契約を結ぶ時に、舞の方にも治療するという約束であったので、カートン家は踊りだろうが舞だろうが治療する。


「…ベリー先生、自分で薬を塗っていますから、大丈夫だと思います。」

 さっさと切り上げようとすると、ベリー医師はまあまあと(なだ)めた。

「早く治療して(もら)って。」

 若様がむ、と監視しているので仕方なく椅子に座る。ベリー医師はフォーリの鼻に触り、骨が折れてなくて良かったとか言っている。骨が折れたらもっと痛いはずので、折れていないのは分かっていた。

 その時だった。さしものフォーリも油断していた。首筋にチクッと痛みが走る。途端、体中が(しび)れたように動かなくなる。さらにもう一カ所に(はり)を打たれ、気絶するように意識を失った。


 動かなくなったフォーリを支えながら、鍼を抜き取ったベリー医師は若様を振り返った。

「これでいいですか? 私一人では無理なので、足を持って下さい。」

「うん。ありがとう。」

 二人はフォーリの室内履きとマントを脱がせて寝台に寝かせた。布団をかけると、衝立(ついたて)を動かしてすぐには分からないようにしておく。

 グイニスはフォーリの寝顔をじっと見つめた。

「本当に寝てる?」

 フォーリの超人ぶりを知っているグイニスは、心配になってベリー医師に尋ねた。ベリー医師はグイニスの隣に立つと寝息を確認する。

「ええ、間違いなく寝てますね。」


 二人は衝立の裏から出て来ると同じように息を吐いた。ニピ族は寝ている間が最も危ないと言われている。寝込みを(おそ)われても対処できるように訓練を受けているからだ。しかし、そんな訓練など、医者としては睡眠不足になるからやめなさいと言いたい所である。

 カートン家と契約を結んでいるニピ族達には、一人で全てを行うのではなく昼夜を交代にするように(さと)し続けて百年近く経ち、ようやく昼夜交代案を受け入れ始めた所である。昔ながらの里で育ったフォーリに対し、そんなものは通用しないので危険だった。上手く眠ってくれて良かったとしか言いようがない。


「さあて、若様。フォーリを寝せたってことは、私が代わりに若様の護衛をしなくてはなりません。なんせ、フォーリの他にニピの踊りができる者はおりませんから。」

 ベリー医師の言葉に、グイニスは首を振った。前々から思っていることがあった。

「いいや、ベリー先生はここにいて。」

 さすがのベリー医師も一瞬、言葉を失う。

「いいや、それこそ、いいや、駄目ですな。そんなことをしたら、後で私がフォーリに殺されるでしょう。それとも若様。フォーリと私を納得させられるだけの根拠がおありですか? そうでないと、フォーリに殺されるのはごめんなので、お散歩についていきますよ。」

 ベリー医師の言うことも最もだ。普通だったらそうする。いつもだったら迷わずそうしただろう。でも、今はそうしていられないのだ。


「もし、フォーリに何かあったら困る。だから、ベリー先生にはここにいて欲しい。」

 ベリー医師はむ、と眉根を寄せる。

「ニピ族の寝込みを(おそ)う馬鹿はいないと思いいますが。」

 グイニスは考えていることがあったので、ベリー医師をまっすぐ見上げた。あの狩りの事件の時から思っていたのだ。なぜ、あの時の犯人はフォーリを出し抜けたのかと。フォーリが気づかなかった。それはグイニスの中で、とても衝撃(しょうげき)的なことだった。

 もし、またフォーリが気づかないうちに何かあったら……。そう思うと不安が足下から()い上ってくるような感覚に襲われる。

 物語を楽しんでいただけましたか?

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


                             星河ほしかわ かたり

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