表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/134

セリナは家で

 心に傷を負った美しい王子と、田舎の女の子の恋物語。

 恋から愛へ変化する―。

 二人の思いは成就するのか、それとも、指先から零れ落ちていってしまうのか……。


 この作品は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』の設定を見直し、大幅に改変したものです。

 推敲しようとしていましたが、それに収まりませんでした。基本的な部分は同じですが、主人公セリナの設定が変わったため、変更を余儀なくされる箇所がいくつもあります。脇役達の性格や立ち位置もはっきりしたため、変えたい部分があります。

 もっと面白くなることを願って……。      

 

                               星河ほしかわ かたり

 リカンナと別れて家に帰ると、(きび)しい目付役の母のジリナがいないことをいいことに、姉達も妹も遊びに行って留守だった。そもそも今は冬なので農作業も忙しくない。

 それでも、今までだったら内職の刺繍(ししゅう)や編み物をしているはずなのだが、今期はジリナとセリナの屋敷勤めの給金があるので、それもしなくて済むのだろう。本当ならしなければならないはずだが、ジリナも多少多めに見ていた。


 それに、今はセリナにとっても良かった。晩ご飯を作りながら、明日、若様とお散歩した時に食べるパンを作ろうと思っていたからだ。フォーリを休ませると言っていたから、ご飯を自分達で用意しなければならない。口止め料に親衛隊の分も多めに作って渡しておけばいいだろう。


 本当にフォーリが寝ているかは疑問だが、その時はその時だ。許可が出れば一緒に食べればいい。

 セリナは家に入ると、誰もいないことを改めて確認した。生まれて初めて、家での家事が楽しい。

 大急ぎで準備をして、いつもだったら叱られる量の粉を使用し、いろいろな種類のパンを作る。発酵させるパンは時間がかかるので、一番最初に仕込み、次に発酵させないパンを作る。最後に母が隠してある蜂蜜を引っ張り出すと、お菓子を作り始めた。


 あまりに集中して作業をしていたため、人の気配に気づかなかった。

「セリナか。今日は早く帰ったんだな。」

 父のオルだ。思わずドッキリしたが何食わぬ顔で答えた。

「あ、父さん。お帰り。今日は早く帰れたから。」

「…うん、そうか。」

「そうよ。」

 答えながら父のオルで良かったと胸をなで下ろす。姉達や妹だと追い払って口止めするのが面倒なこと、この上ないからだ。


「せっかく早く帰ってきたのに、さっそく家事をしているのか。それにしても、なんだ、このパンの量は…?」

 みんなの分を多目に作ったと言っても、明日になったら全てなくなってしまう。

「うん、ちょっとね……。」

 言葉を濁してごまかした。姉達や妹だと途端に厳しい追及が始まる。あまり(しゃべ)らないオルであれば、そう厳しく追及されないだろう、という計算もあった。できれば追求しないで欲しいという願いもあって、セリナはそそくさとお菓子作りを進めた。


 寡黙であまり何か言うことのないオルだったが、ジリナの蜂蜜は目ざとく見つけた。

「おい、セリナ。それは母さんの蜂蜜だろ。そんなものまで持ち出して、一体、何をするつもりだ?」

 オルは近くの山で木の管理と養蜂もしている。セリナの家の畑はあまり広くないので、山林を使ったきのこ栽培や養蜂で収入を得ている。特に蜂蜜は高く売れるので、貴重な収入源だ。家で使う分は厳密にジリナが管理していた。勝手に使えば当然、大目玉を食らう。やめた方がいいんじゃないのか、というオルの言外の提案である。


「しーっ、大丈夫よ。最近、母さんに怒られることが増えて、怒られるのに慣れっこになっちゃった。」

 へへ、と笑うセリナを見てオルは呆れて少しの間、黙り込んでから口を開いた。

「そういう問題じゃないだろう。」

「じゃあ、みんなで食べればいいわよね? みんなの分も残しておけば文句はないでしょ?」

 セリナがにやっとして言うと、オルは目をしばたたかせた。

「……みんなの分も残す? お前、まさか、そのパンの量、お屋敷に持って行くつもりなのか?」

 思わず継父のオルの顔を見つめた。まさか、父に見抜かれるとは……いや、あり得る。だって、姉達だって妹だって、誰だっておかしいと思うし、このパンの量を消費できるといえば、お屋敷以外にない。


「…あ、うーん。まあね……。」

 オルが誰かに言うことはないと分かっているので、素直に白状した。

「…みんなと一緒に食べようと思って……。」

「みんな…? あ、蜂蜜を使うってことは、お前、若様だか王子様だかにも食べ……さすつもりなのか?」


 今のはまさか、見抜かれるとは思わなかった。思わず勢いよく口止めにかかる。

「しーっ。誰かに聞かれたらどうするのよ。まあ、明日だけよ。ちょっとお昼だけ事情があって、わたしが持って行くの。うちで作れば大丈夫よ。」

 オルの目が点になる。


「だ、大丈夫なのか? そんなことをして。何かあったらまずいんじゃないか?」

 心配するオルをセリナは(なだ)めた。

「大丈夫よ。だって、わたしも一緒に食べるのよ。発酵させる分は、明日、朝から早起きして焼く。発酵させないパンとお菓子は別だけど。今日は母さんも帰って来ない日だし、大丈夫よ。ちゃんと晩ご飯も作るから。姉さん達も黙ってるだろうし、内緒よ。」

「…内緒って。」

「いいから、いいから。」

 セリナは父の背中を押すと、台所の外に追いやった。


 案の定、帰ったら料理ができていて、しかもお菓子の口止め料もあったので、兄と姉達二人と妹の口止めに成功した。四人はセリナの作るパンの量に(いぶか)しんだものの、蜂蜜入りのお菓子を食べているので、結局、追求しなかった。

 物語を楽しんでいただけましたか?

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


                              星河ほしかわ かたり

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ