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若様の癇癪 1

 心に傷を負った美しい王子と、田舎の女の子の恋物語。

 恋から愛へ変化する―。

 二人の思いは成就するのか、それとも、指先から零れ落ちていってしまうのか……。


 この作品は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』の設定を見直し、大幅に改変したものです。

 推敲しようとしていましたが、それに収まりませんでした。基本的な部分は同じですが、主人公セリナの設定が変わったため、変更を余儀なくされる箇所がいくつもあります。脇役達の性格や立ち位置もはっきりしたため、変えたい部分があります。

 もっと面白くなることを願って……。      

 

                               星河ほしかわ かたり

 結局、セリナは夕方に若様のところに行った。フォーリに笑われた後『顔が出来てから行け』と許しを貰ったからだ。

 母のジリナの態度を思い出して真似をする。廊下の途中にある見事な鏡の前に立って自分の姿を眺め、何事もないような顔を取り繕う練習をしてから向かった。そんな練習をしているとジリナに見つかったが、フォーリに言われたことを伝えると『仕方ないねぇ』とぼやきながら去った。


 そんなんで、ようやく若様の部屋にたどり着いたが、何か一悶着(ひともんちゃく)が起きているようだった。

 今、フォーリは若様の夕飯の料理中でいないらしい。

「ですから、若様、落ち着いてお聞き下さい。そのような話は嘘かもしれません。おそらく事実ではないでしょう。信じてはいけません。」

 親衛隊隊長のシークが必死になって、若様を(さと)している声が聞こえてきた。いつも隊長のシークは落ち着いた口調で話している。若様が狩りの最中に行方不明になった時も、フォーリを落ち着かせながら部下達に指示を出していた。今、思えばセリナとリカンナも、シークの落ち着いた様子を見て焦らずに済んでいたと思う。

 それが今は、ゆっくりした口調でも緊迫感が漂っているから、何か異常事態が起きているとセリナにも分かった。扉には隙間が開いている。廊下に立って侍っている親衛隊の兵士達が困ったような、しかし、危機感を持った表情で(たたず)んでいた。


(……これはどうしよう。引き返した方がいいかな?)

 セリナは戻ろうと思ったが、一人の兵士がセリナに目を留めて近づいてきた。

「…お前はセリナだな? 何をしに来た?」

 名前は……覚えていない。

「は、はい。えーと、フォーリさんに言われて来たんですけど。」

 フォーリという名前を聞いて、眉間を寄せて何か考え込むような表情になった。

「若様のブローチです。フォーリさんにお渡ししようと思ったら、直接、若様にお渡しして欲しいと言われました。」

 セリナが話していると、もう一人薄い褐色の肌をした兵士がやってきた。彼は“森の子族”と呼ばれている、昔ながらの生活をして森に住んでいる部族出身だ。


「――そうです。もし、話が本当ならば、まず、フォーリから話があるはずです。それがないということは、その話はおそらく嘘でしょう。」

 副隊長の……たしかベイルだったはずだ――の声もした。

「…でも、フォーリは、私に心配させないために、あえて何も言わないのかもしれない。」

 若様の声にはいつもの明るさがない。代わりに緊張が走っている。


「まずいな。」

 最初の兵士が呟き、もう一人の兵士と何やら手で合図を送り合った。最初、何も知らなかった頃は、変なことをしていると他の村娘達と影で笑っていた。しかし、ジリナから、それは手信号というもので、口で話さなくても意思疎通できるようになっていると聞き、目をしばたたかせて(おどろ)いた。他にも音や旗などで信号を送り合うこともあるという。

 セリナがびっくりして、そんなに覚えることがあるなんて信じられない、わたしじゃ無理と言うと、ジリナに当たり前だろ、そうでなかったら華の職業にすらならないと呆れられたのである。


 とにかく、その手信号で二人は何か話し合っていた。そして、とりあえず二人は(うなず)き合った。最初に声をかけてきた方がセリナに耳打ちする。

「フォーリの指示なんだろ? なら、とりあえず中に入ってろ。」

「え?」

 思わず聞き返したが、しっ、と仕草で黙らせられ、仕方なく質問を飲み込む。

「とにかく中に入ってろ。」

 そう言われて背中を押されたため、セリナは部屋の中に静かに入った。なんとなく衝立の影に隠れる。


「部下が余計なことを申し上げました。フォーリは私の部下ではありませんが、決して隠しごとは致しません。」

 シークが何か謝罪している。

「でも、もしかしたら、その話は本当かもしれない。叔父上なら、それくらいのことはなさるだろう。姉上が戦死しても隠すことくらいなら。ニピ族も騙せるような裏工作をしているのかもしれない。」

 若様の固い声を聞いて、セリナは緊張した。昼間、フォーリと話した若様の姉君のリイカ姫の話だ。戦姫様が戦死したって? 一体、どこからそんな(うわさ)を? 部下がとシークが言っているということは、兵士達から聞いたのだろう。ということは、村娘達が噂していたから、彼らの耳に入った。


 昨日、セリナは家に帰らなかったので、そんな噂があったとは知らなかった。それに、セリナはジリナから何事か注意された後、フォーリにも同じことで注意されたとみんなから思われていたため、腫れ物を扱うように遠巻きにされていた。だから、セリナも噂を知らなかったのだ。

 村娘達が話しているなら、商人がやってきたのだ。いつもより早い気がするが、天候や売り物の都合で変わるから、別段、珍しいことではない。話を聞けないのは少し残念だったが、今日は本当の話を聞いた。


 戦姫様が戦死?

(本当なの? どう考えてもおかしい。だって、フォーリさんにそんな素振りはなかったもの。)

 若様達姉弟のことで、普段は冷静な態度しか見せないフォーリが怒りを(にじ)ませていた。落ち着いた態度しか見せないからといって、情熱がないわけではないのだ。本当はとても情熱的な人なのだろう。考えてみれば、そうでないと若様の護衛を命がけでできないはずだ。

 もし、本当に戦死ししていたら、さすがのフォーリももっと慌てていたはずだ。

(つまり、嘘。嘘よ。でたらめだわ。でも、商人にしてみれば、戦姫様が活躍した方が売れるのよね。なんで、戦死したという噂を流す必要があるんだろう。)

 そこまで考えて、だから、兵士がうっかり若様に()らしてしまったのだと気がついた。戦死が本当かもしれないという情報があったのだろうか。

「仮にそうだったとしても、まずはフォーリに確認するべきです。」

 いつもは何かしらフォーリと()めていることが多いシークが、フォーリに確認するように強調した。


 物語を楽しんでいただけましたか?

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


                               星河ほしかわ かたり

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