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悲鳴 6

 心に傷を負った美しい王子と、田舎の女の子の恋物語。

 恋から愛へ変化する―。

 二人の思いは成就するのか、それとも、指先から零れ落ちていってしまうのか……。


 この作品は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』の設定を見直し、大幅に改変したものです。

 推敲しようとしていましたが、それに収まりませんでした。基本的な部分は同じですが、主人公セリナの設定が変わったため、変更を余儀なくされる箇所がいくつもあります。脇役達の性格や立ち位置もはっきりしたため、変えたい部分があります。

 もっと面白くなることを願って……。      

 

                               星河ほしかわ かたり

 セリナの反応の方に、フォーリがぎょっとしたように一歩身を引いた。

「もちろん、実在の人物だ。ただ、お前の思っているような話ではない。光の剣で一振りで十人の敵をなぎ倒すとか、銀の弓で向こうの山に隠れている敵将をその一矢で射殺すとか、(たか)(おおかみ)の王と友達で危機に陥った時、助けに来てくれるという話ではない。」

 フォーリが話したのは、商人が村にやってきて話してくれる話だ。つまり、その辺は作り話ということだ。そこが一番面白いのに。いけないと分かっているのに、がっかりしてしまう。

「リイカ様は若様の実の姉君でいらっしゃる。若様とは五歳違いで、今年、二十歳になられた。」

 へえ、と聞き流しそうになってしまったが、今、若様の年齢が分かった。つまり、若様は十五歳だ。

(…十五!? かなり、童顔だったのね。全然、十五歳に見えなかった。十二歳くらいだと思ってた……。)


 セリナと一つしか違わない。それでも一歳は年下なので可愛いと思っても大丈夫そうだと、妙なことでセリナは安心した。しかし、そんなことは言えないので、とりあえず別に思ったことを言っておく。

「……若様は、お姉さんに戦いに行って欲しくなかったんですね。」

 ありふれたことを言ったつもりだったが、セリナは戦姫様が実在の人物だったという衝撃(しょうげき)で重要なことを忘れていた。さっきまで、フォーリに殺されるかもしれないと思っていたのに、その恐怖を忘れて余計なことを言ってしまったのだ。

 セリナが言った途端、目の前のフォーリから出される空気が急速に険悪になった。しまったと思うがすでに遅い。

「当たり前だ。戦地などに一度も行ったことのない、たった十五歳の姫をいきなり戦地に送ることなどあり得ない。若様のご容姿を見れば、リイカ様のご容姿も想像できるだろう。十五歳の娘が男だらけの集団の中で、しかも戦に勝利しなければならない。」


 フォーリの話で、「戦姫様」の話がキラキラしたものから一気に泥臭くなった気がした。急に現実味を帯びた話になって、若様によく似た女の子が戦地に送られたら、どうなるのか、火を見るより明らかなような気がした。よく考えれば、今の若様と同じ年齢だ。きっと、若様みたいに可愛かったに違いない。

「勝利は弟の命と引き換えだ。現実は作り話のように面白おかしい話ではない。どれほど苦労して実績を積み上げられたか、男でさえも(むずか)しい任務をやり遂げられているのか、若様は一度も忘れられたことはない。現実は血反吐を吐くほどの、泥にまみれた(きび)しいものだということだ。」


 セリナは言ったことを後悔した。「戦姫様」が勝つ話を聞くたびに喜んでいた。勝てばなんだって嬉しいものだ。それが、自分とは遠い場所で行われている戦だと聞いても、勝ったことを喜んでいた。でも、実際の「戦姫様」は勝つ必要があったのだ。弟が殺されるから。本当は悲しい勝利だったのだ。

 さっきまで「戦姫様」の話が聞けると思って嬉しくて浮ついていたのに、地面に叩きつけられた気分だった。靴の中にザラザラした砂が入って気持ち悪いように、セリナの胸の中もザラザラした。


 若様の叔父と叔母の若様に対する仕打ちは酷いものだが、姉に対する仕打ちも酷かった。だから、フォーリの言葉には怒りが(にじ)んでいる。

 つまり、今の話からいけば弟の命を守りたければ、必ず戦に勝利しろと王である叔父から厳命を受けていた、いや、受けている、ということになる。

 自分達がかっこいいと思っていた戦姫様は、本当は泣きながら必死になって、弟の命を守るために勝利をつかんでいたのだ。戦勝で弟の命を今でも買っているのだ。

 セリナは気がついた。だから、戦姫様は一度も敗戦したことがない。負ければ弟が殺されるから。

 涙を(こら)えられなくなって、セリナはうつむいた。さっきまでの自分が恥ずかしかった。涙が穴を修理した靴の先に落ちていく。


「…ごめんなさい。無神経なことを言いました。」

 フォーリがため息をついた。

「お前は無知だが、頭が悪いわけではない。」

 言葉がさっきよりも優しかった。

「いいか、昨晩、見たことは若様には決して言うな。分かっていると思うが、他言無用だ。」

 セリナは涙を拭きつつ懸命(けんめい)(うなず)いた。

「…わ、分かってます。」

「それは分かっている態度ではない。分かっている態度は、お前の母のような態度のことだ。何か知っている素振りは全くないだろう。あのように振る舞え。」

 ジリナの態度はセリナには腹が立つが、若様の前には必要なのだと理解した。理解しても腹は立つが。

「分かりました。むずかしいですが、努力します。」

「確かにすぐには身につかないだろう。それでいい。」


 フォーリが許してくれたので、促されて小屋の外に出た。小屋に入る前に感じていた死の恐怖はもはや忘れ去っていたが、代わりに残酷な現実を突きつけられて、苦い気持ちで一杯になっていた。

 セリナは頭を下げて戻ろうとして思い出した。

「あの、これ、お返ししないと。」

 昨日、渡しそびれたブローチだ。

「……それは、お前が若様に直接、お渡ししろ。歳の近いお前が話せば、若様も少しは気が紛れるだろう。今日は部屋に()もっておられるから。」

 つまり、今から若様に何事もなかったふりをして、会いに行けということか。セリナは慌てた。

「あの!」

「なんだ?」

「まだ、顔の準備ができてません…!」

 ジリナみたいな顔ができないので、本当に必死だったのにフォーリに笑われてしまい、真っ赤になったセリナだった。

 物語を楽しんでいただけましたか?

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


                               星河ほしかわ かたり

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