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悲鳴 5

 心に傷を負った美しい王子と、田舎の女の子の恋物語。

 恋から愛へ変化する―。

 二人の思いは成就するのか、それとも、指先から零れ落ちていってしまうのか……。


 この作品は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』の設定を見直し、大幅に改変したものです。

 推敲しようとしていましたが、それに収まりませんでした。基本的な部分は同じですが、主人公セリナの設定が変わったため、変更を余儀なくされる箇所がいくつもあります。脇役達の性格や立ち位置もはっきりしたため、変えたい部分があります。

 もっと面白くなることを願って……。      

 

                                 星河ほしかわ かたり

 しばらくぼんやりしていたセリナだったが、重いため息をつくと自分も戻るために裏庭を歩いた。ただでさえ体が重かったのに、重い話を聞いたせいで余計に気分も重くなり、ますます体も実際に重くなった気がした。

 途中で立ち止まって空を見上げた。何だか今日は仕事をしたくない。何もやらないで、だらだら過ごしたい気分だった。


 一度、ぎゅっと目をつむって開けると、上から見下ろされていた。セリナはぎょっとして一瞬(いっしゅん)目を見開き、それから、ひっという悲鳴と共に後ずさった。今日、一番、会いたくないフォーリである。人が来た気配が全くしなかった。ちょっと目をつむっている間にやってきたのだ。

「お前に話がある。」

 フォーリと二人きりで話などしたくないので、セリナは慌てて言い訳を考える。

「…し、仕事があるので……。」

 本日したくない仕事をすぐに言い訳にした。

「お前の母のジリナに伝えてある。」

 逃げ場はない。それでも、ためしに言ってみる。

「…そうだ、若様の側についていなくていいんですか?」

「若様には今、ヴァドサ…親衛隊長達がついている。」

 よどみなく答えるフォーリ。やはり、逃げ場はない。

「ついて来い。」

 フォーリは、さっきジリナと話をした場所の前にある物置小屋の中に入った。思わず立ち止まって小屋を見つめる。


(…こ、今度は密室だよ…。)

 昨日の険しい顔のフォーリを思い出し、恐くて中に入る勇気がない。

「何をしている。早く来い。」

 フォーリに()かされて、セリナは冷や汗をかきながら中に入った。残念ながら鉄面皮のフォーリと密室で二人きりになっても、胸がときめくことはなかった。それよりもむしろ、恐怖で一杯だった。本当に逃げ場はない。しかも、入浴中に(のぞ)きをしようとして殺された話を思い出し、余計に恐ろしかった。

(…考えてみれば、昨日も立派な覗きなんじゃないの!? だって、寝室だし……。いや、覗きどころか、中に入っちゃった!)

 セリナはざーっと血の気が引くのが自分でも分かった。今日、セリナは殺されてしまうかもしれない。

(…で、でも、母さんに話をしたなら、殺されはしないはず……。)

 そこに一縷(いちる)の望みを託し、セリナは震えながらフォーリと対面した。そんなセリナを無言で観察していたフォーリは、一言ぼそっと告げる。


「お前、私に殺されると思っているのか?」

「! ひいや、ち…!」

 図星をさされ(おどろ)きすぎて喉が詰まり、変な言葉しか出ない。本当はいいえ、違います、と言おうとしたのに。

「お前を殺す必要はない。」

 いつものように言われて、セリナはどっと安心しかけた。

「素直に事情を話すならば。」

 後に続いた言葉にもう一度背筋が凍った。素直に話さなければ殺されるのだ。

「嘘をつかなければ問題ない。」

 確かにそうかもしれないが、全く嘘をつかないで済むのか心配だった。

「お前に聞きたいことはいくつかある。」

 恐怖で心臓が縮こまっているセリナをよそに、フォーリは淡々と話を進めた。

「昨晩はなぜ、部屋に来た?」


 セリナは答えようとして、しばらく口をぱくぱくさせていたが、声が出ていなかったため、フォーリに深呼吸させられた。何度か深呼吸した後、ようやく事情を話した。便所の帰りに悲鳴が聞こえて慌てて駆けつけた、という話に納得したようだ。

 良かった、と心底胸をなで下ろす。そこに一つも嘘はないので、これ以上、何か聞かれても答えようがない。そうなったら、殺されてしまうので、殺される確率が減ったのだ。

 何も聞かなければ帰れるのに、セリナは自分の方が聞きたいことが出てきてしまった。ふと、思ったのだ。若様は必死になって、姉を戦地に送らないで下さいと誰かに懇願(こんがん)していた。

(若様にお姉さんっているのかな?)

 それが無性に気になってしまった。何か考えていたフォーリであったが、セリナのそわそわした行動に敏感に気がつく。


「お前、何か聞きたいことでもあるのか?」

 セリナは『あんた、やめなさい!』と言うもう一人の自分の声を無視して質問した。だって、どうしても聞きたかったのだ。

「…あのう、お聞きしにくいんですけど、若様にお姉さんがいるんですか?」

 てっきり、(きび)しい声で戒められると思っていたのに、フォーリは『なんだ、そんなことか』という表情でセリナを見下ろした。小屋には明かり取りの窓があって以外に中は明るい。

「お前、聞いたことがないのか。リイカ様だ。」

「リイカ様?」

 どこかで聞いたことがあるような気はするが、よく思い出せない。首を(かし)げていると、フォーリがため息をついた。

「戦姫様だ。これなら知っているだろう。」


 セリナは弾かれたようにフォーリを見上げた。「戦姫様」その名を知らぬ者は、きっと王国の中にいないはずだ。それならセリナでも知っている。田舎でも有名な話だからだ。

 美少女でありながら敵国の軍隊を()散らして戦う、勇敢な戦士。時々、戦に勝ったという話を商人が運んでくる。セリナも戦姫様の話を聞くのが大好きだった。作り話だとしても、かっこいいし素敵だ。

 少女が屈強な男達を蹴散らして戦って勝つのだ。その姿はかっこ良くて少女達の憧れであり、少年達の英雄でもあった。戦姫様の仲間達もまたいいのだ。少年達には、戦姫様の右腕の軍師派と戦姫様の剣として戦う突撃部隊の隊長派があって、どちらがよりかっこいいか論争がたびたび起こる。少女達にはどちらをより恋人にしたいか、論争がたびたび起こる。

 まあ、とにかくその「戦姫様」の話はセリナも大好きなのだ。一日中だって話していられるくらいだ。

「…ほ、本当にいるの!?」

 大好きだとはいえ、商人の作り話だと半分以上思っていたので、思わず力を込めて目を輝かせつつ、前にのめり込みながらセリナは聞き返した。声が裏返ってしまったが、今は実在するかどうかの方が気がかりだった。


 物語を楽しんでいただけましたか?

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


                                 星河ほしかわ かたり

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