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悲鳴 1

 心に傷を負った美しい王子と、田舎の女の子の恋物語。

 恋から愛へ変化する―。

 二人の思いは成就するのか、それとも、指先から零れ落ちていってしまうのか……。


 この作品は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』の設定を見直し、大幅に改変したものです。

 推敲しようとしていましたが、それに収まりませんでした。基本的な部分は同じですが、主人公セリナの設定が変わったため、変更を余儀なくされる箇所がいくつもあります。脇役達の性格や立ち位置もはっきりしたため、変えたい部分があります。

 もっと面白くなることを願って……。      

 

                                星河ほしかわ かたり

 夜中にセリナはどうしても便所に行きたくなった。便所に行くには外に出なくてはならないため、本当なら行きたくない。だって、暗い中を歩いて行くのは怖いし、雨が降ったりしていたら最悪だ。濡れてしまうし泥はねもする。必死に我慢したが、結局、起き上がった。

 リカンナを起こして一緒に行ってもらおうと思ったが、リカンナはぐっすり眠り込んでいて、二、三回ゆすった程度では起きなかった。


 セリナは仕方なく、夜も消さないようにと言われているランプを手に取った。火事になったら危険なので、火を入れていない広めの火鉢の真ん中に起き、その上に銅製の(あみ)(おお)いをかける事になっている。ランプの火は最小限に(しぼ)ってあって心許ない。ちんまりとした火が、ガラスの中に灯っている。

 それでも、蝋燭(ろうそく)よりましだ。蝋燭は一歩歩くたびに、灯火(ともしび)(はげ)しく揺れて、あっと思った時には消えてしまう。そろそろとしか進めないし、外に出たら肝心の便所の前に消えていることもしばしばだ。

 何かあって駆けつけなければならない時のため、ランプという高級な灯りがあるのだ。落として壊したりしないように、セリナは最新の注意を払って便所に行った。あまりに気を使ったため、眠気はすっかり覚めてしまった。そうこうしながら無事に用を足し、そろりそろりと部屋に戻る。


 屋敷内に戻った時は心底ほっとしたが、それはそれで不気味だった。暗くて広い屋敷は気味が悪いほど静まりかえっている。セリナはなんとなく上を見上げた。使用人が使うのは玄関から全てにおいて表側ではなく裏側であるが、それでもセリナの家にはない階段がついている。この階段を使って上階に向かう。

 二階に若様の寝室がある。他にも重要人物、親衛隊の隊長やその辺の人達は二階の寝室のはずだ。

 たしか、とセリナは思い出した。夜には夜番の兵士が見張りにいるとジリナから聞いた。若様の部屋の前に二名、見張りに立つことになっているという。ブローチのことで行った時、椅子があるのを見ていたので、おそらくそこに座って気づいたら居眠りしている状態なのだろうと思う。


 セリナはゆっくり歩いていたが、だんだん体も冷えてくるし、そろそろ歩くのがおっくになってきて、普通に歩き始めた。すると、蝋燭なら一瞬にして消える速度になってランプに風が当たった。

(あ!)

 思わず足を止めたが、ランプのちんまりした火は何事もなかったかのように、ちんまりとした火を灯し続けていた。

(なあんだ、消えないじゃない。良かったぁ。気を使い過ぎちゃった。)

 ランプは蝋燭と違い、そう簡単に風の影響を受けないと分かってほっとする。本当ならだめだが、早く帰りたいので誰もいないし近道をすることにした。裏側を長々歩くのではなく、ちょっと表側を通って行くのだ。

(早く帰ろ。)

 ふわぁぁ、とセリナはあくびをした。


 うわあぁぁぁぁ!

 暗い屋敷の中で(にび)いた突然の悲鳴にセリナは飛び上がって(おどろ)いた。それが何なのかすぐには理解できず、体を縮こまらせて背中を丸めながら、きょろきょろと辺りを見回す。

 幽霊話や化け物の話は信じていないが、こういう時は否応が無しに聞いた話を思い出してしまう。泊まりが決まった時に、他の村娘達に言われたのだ。先日亡くなった女性の幽霊が出るんじゃないかとか……。


 あぁぁ! うわあぁぁぁ!

 更なる声にようやく異常事態だと察した。同時に幽霊や化け物ではないとも理解する。たぶん、誰の声かは分かった。体が恐怖で固まっていたが、急いで方向転換する。若様の部屋の方。近道をしようと近くを歩いていたから間違いない。

 セリナが走って行く間にも、悲鳴は続いた。必死に何か叫ぶ声も。だんだん声が大きくなってきて間違いなかった。


「助けてぇぇ! いやだ! やめて! さわらないで! だれか、ここから出して!」

 セリナは階段を駆け上がり若様の部屋の前で立ち尽くした。悲鳴の内容に思わずぎょっとしたのだ。だが、若様の部屋の扉が開いて灯りが漏れていて、見張りの兵士の姿もないことに気がつき、息も整えないまま部屋の中に飛び込んだ。薄暗い部屋の中、なぜか見張りの兵士二人の姿は見えない。

「やめて、そんなことしないで! 出して、お願い、ここから出して! だれか、助けて!」

 声のする方に近寄る。すると、一人の兵士がさらに奥の寝室の前に立っていた。寝室の扉はなぜか全開にしてあった。


 セリナは兵士の後ろから様子を見て、これは決して見てはいけないものを見てしまったのだと理解した。現実の危険ではないことは、うすうす察していた。

「若様、若様、大丈夫です! 落ち着いて! 目を覚まして下さい!」

 フォーリが寝台の上で泣き叫んで暴れている若様を抱きしめて、呼びかけながら背中をさすり宥めている。セリナより小さい少年とはいえ、暴れるのを押さえ込むのは大変だろう。しかし、なぜか兵士は助けようとしなかった。心配そうにじっと見つめている。

 物語を楽しんでいただけましたか?

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


                                星河ほしかわ かたり

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