犯人の手がかり 2
心に傷を負った美しい王子と、田舎の女の子の恋物語。
恋から愛へ変化する―。
二人の思いは成就するのか、それとも、指先から零れ落ちていってしまうのか……。
この作品は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』の設定を見直し、大幅に改変したものです。
推敲しようとしていましたが、それに収まりませんでした。基本的な部分は同じですが、主人公セリナの設定が変わったため、変更を余儀なくされる箇所がいくつもあります。脇役達の性格や立ち位置もはっきりしたため、変えたい部分があります。
もっと面白くなることを願って……。
星河 語
「…ねえ、フォーリ。今の話、ジリナさんだけには話した方がいいと思う?」
グイニスの質問にフォーリは少し考え込んだ。
「…そうですね。彼女は抜け目ない女性です。しっかりと村娘達を管理してくれています。状況によっては、話す必要が出て来るかもしれません。しかし、今は時期尚早ではないかと思います。」
フォーリの判断を全面的に信頼しているので、グイニスはうん、と頷く。
「分かった。フォーリがそう思うなら、今の話はフォーリに任せる。…ところで、セリナ達は無事に帰った? 遅くなっちゃったけど。」
「その件ですが、かなり遅くなったため、今夜は彼女達を泊まらせることにしました。どっちみち、早朝からの仕事は泊まり込みでしたいとの要望も出ていたので、信用できる村娘達だけそうするつもりで準備していました。ジリナさんも私達が時間通りに帰らなかったため、今日は帰らないと家族に伝言を頼んだそうですから。」
別荘から村まで行くには林の中を通ったりする。灯りを持って歩くにしても、猪や山犬に出くわせば危ない。その話を聞いてグイニスは、ほっとした。
「そう、それなら良かった。」
「とりあえず、今日の所はこれで終わりです。」
「うん、分かった。」
グイニスはほうっと息を吐いた。とりあえず、緊張する話が終わって安心したのだ。自分が普通の王子と違うことは分かっている。とはいえ、比較対象が切れ者の王太子で従兄のタルナスしかおらず、劣っている所ばかりなのは分かっていたし、比較にすらならないことも知っていた。
それでも、少しだけセリナ達のために何かできたような気分になって嬉しかった。
「若様、そろそろ入浴の時間です。」
フォーリが準備をしながら言った。うん、と頷いてから自分は頷くしかしていない、とグイニスは思う。
「分かった。今日は泥だらけになったから、綺麗にしないとね。」
セリナは若様にブローチを返そうと思い、フォーリに会うために部屋に向かった。若様はセリナが渡したブローチをセリナを助けるために、ぽいっとその辺に投げ捨てて助けてくれたが、その後、拾うのを忘れていたのだ。そんなに物に頓着がないらしい。
でも、せっかく拾ったのだし、若様がフォーリに抱えられて登っている間に拾っておいたのだ。外套を止めるためのブローチは少し大きめのように思う。
護衛の親衛隊の兵士に要件を伝えると、入浴中だと言われてがっかりしたが、同時に妙な想像をしてしまう。美少女のような美少年の若様と、鉄面皮だが華やかな顔立ちのフォーリ。
「あの、フォーリさんも一緒に……?」
せめてフォーリが入っていなければ、彼に渡せばいいと思ったのだが……。
「ああ、そうだが?」
護衛の兵士はきょとんしつつ、セリナに返した。今日はフォーリにブローチを渡せないようだ。そう考えながら、同時にあのフォーリが若様と一緒に裸になって入浴していると思えば、いけない世界を覗いているような気がした。なんとなく、顔が赤くなってしまう。
その時、親衛隊の兵士がぷっと吹き出した。
「…お前、今、妙な想像をしただろう? ま、分かるけどな、口には決して出さないことだ。命が惜しかったらな。」
図星をさされて気まずい思いをしていたセリナだったが、最後の「命が惜しかったらな」と言った兵士の顔が急に真顔になり、セリナはごくりと唾を飲み込んだ。
「…命が惜しかったらって?」
「ここだけの話だ。」
兵士はこんな話をしてくれた。以前の領主の邸にいた時、若様の愛らしい容姿にすっかり参ってご執心になってしまった領主兵が幾人かいたらしい。何とかして、若様の裸を見て本当に男か女か確かめようと企んだという。
そして、その企みを実行したところ、一緒に入っていたフォーリに手加減なしに容赦なくやられ、全員、あの世に行ったらしい。
「嘘じゃないぞ、本当だ。ここに来る数ヶ月くらい前の話だ。」
セリナはびっくりした。かなり近い話である。てっきり一年くらい前の話だと思ったのだ。真顔で繰り返し兵士は言った。フォーリは常に若様についているため、入浴時間も別に取ることはないという。
「あれは、まあ、見せしめでもあった。だから、お前達も気をつけろよ。入浴中は絶対に手加減しない。夜、寝ている時はなおさらだ。ニピ族は眠っていても、襲撃されたら反射的に反撃するように訓練を受けている。ニピ族が一番危ないのは、眠っている時だと言われている。逆に起きている時が一番、安全だということだな。」
「……。」
母のジリナがニピ族のフォーリを怒らせないよう、口を酸っぱくして言っていたが、さらに恐ろしさが分かった気がした。呆然として聞いていたセリナは、ようやく頷いて部屋に戻ったのだった。
物語を楽しんでいただけましたか?
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
星河 語




