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喧嘩 1

 心に傷を負った美しい王子と、田舎の女の子の恋物語。

 恋から愛へ変化する―。

 二人の思いは成就するのか、それとも、指先から零れ落ちていってしまうのか……。


 この作品は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』の設定を見直し、大幅に改変したものです。

 推敲しようとしていましたが、それに収まりませんでした。基本的な部分は同じですが、主人公セリナの設定が変わったため、変更を余儀なくされる箇所がいくつもあります。脇役達の性格や立ち位置もはっきりしたため、変えたい部分があります。

 もっと面白くなることを願って……。      

 

                                 星河ほしかわ かたり

 このお屋敷ではいくつかの決まりごとが存在する。

 一つ、大きな物音を立てたり、大きな音を立てて扉を閉めない。また、足音もできるだけたてないようにする。

 一つ、若様は王子様だと分かっていても、決して王子様とか、殿下と呼んではならない。必ず若様と呼ぶこと。

 一つ、若様の部屋に勝手に入らない。

 一つ、若様専用の厨房に勝手に入らない。

 一つ、若様の衣服、及びフォーリの衣服を勝手に洗濯しない。決まった人間以外、決して触ってはならない。

 一つ、若様に気安く声をかけてはならない。また、若様に色目を使ってはならない。もし、使ったらフォーリに殺されると思え。

 一つ、親衛隊の兵士達と気安く会話してはならない。肉体関係になるなど、もってのほかである。クビは確定。もちろん、護衛のフォーリを誘惑するなどあり得ない。死にたいなら別だが。

 一つ、夜は必ず家に帰ること。仕事が残っていてもである。だから、洗濯物など、途中で終わったら良くない仕事は、そうならないように考えて行うこと。


「…なんで、夜には必ず帰らないといけないのかな?」

 リカンナが洗濯物をごしごし、洗濯板で洗いながら疑問を口にした。

「さあ。」

「みんな言ってるよ。泊まりだったら楽なのにって。」

「分かんないけど、とりあえず早くしようよ。今日は洗濯物が多いし。」

 先日から、若様とフォーリは自分達の食料を(まかな)うため、近くの山林に狩りに行ったり、釣りに行ったりしている。それに伴い兵士も一緒に行動するため、衣服の汚れが多くなった。そして、洗濯物が増えているのだ。

「そうだね。」

 毎日がそんな感じで進む。今日はとりわけ多かった。昨日の担当の人が洗いきれなかったのだ。その分、増えている。洗えないと兵士達の着る服がなくなってしまう。洗濯組の十人は、必死になって次の日に持ち越さないよう、洗濯に精を出していた。


「あんた達、精が出るわねぇ。」

 昨日、洗わなかった十人の内の一人、シルネとエルナがやってきて嫌味に言った。シルネは村長の娘で、エルナは従妹である。二人ともセリナが拾われ子なので馬鹿にしている。以前から嫌味な娘達だ。

 それにも増して、ジリナが信頼されているといおうので、セリナは余計に他の村娘達からの嫌がらせが増えていた。ジリナに仕返しなどできやしないので、娘のセリナに当てつけるしかできないのだ。


「…あんた達、わざと洗わなかったでしょ。」

 セリナ達と組になっている一人のアミナが(にら)みつけた。シルネとエルナは今のところ、真面目に仕事をこなしていた。村長の家の娘達が働けないのは恥だと言われているのだろう。

「なによ、そんなことないわよ。途中で洗えなかったら、まずいじゃないの。だからよ。あたし達のせいにしないでよねー。」

 シルネが高笑いをする。

「ほんっと、セリナのせいよ。セリナといるから、迷惑かかってんのよ。セリナと組になっていることを恨みなさいよ。」

 エルナがアミナに言いながら、手に持っていた汚れた桶の水を仕上がりのすすぎ用の水が入った(たらい)に入れた。リカンナが急いで桶を払い避ける。それが、運悪くシルネの顔に当たった。

「いったあ! 何すんのよ、あんた!」

 シルネがリカンナを突き飛ばした。ばっっしゃあん! と派手な音を立てて、リカンナが盥の中に尻餅をついた。

「そっちこそ、何すんのよ!」

 リカンナが怒鳴り返す。だが、元々パルゼ王国で先祖が地主か何かの子孫のシルネは、他の村民を見下しているので鼻先で笑っただけだった。


「ふん。あーあ、仕事が増えちゃった。」

「あんた達、いいかげんにしなさいよ!」

 頭にきたセリナが怒鳴ると、二人は忍び笑いした。

「何よー、怒鳴っちゃって。あんたみたいな村の外れ者が、あたし達に発言する権利なんてないんだよ! 拾われっ子のくせに!」

「何が言いたいのよ!」

 シルネが権利などとややこしいことを言いだしたので、セリナは少し警戒(けいかい)しながら睨み返した。

 シルネは(さげす)むような笑みを浮かべる。こういう笑みを浮かべているシルネは、どんな嫌がらせを考えているか分からない。

「あんたさ、みんなのことも考えなよ。」

 シルネはにやにやと笑い続ける。

「あんたが、全部一人でやるって言ったら、嫌がらせをやめてもいいわよ。」

「あんた、何、勝手に決めてんのよ!」

 盥から出たリカンナが怒鳴りつけた。

「一人でやれって!? 無理に決まってんじゃない!」

 今までセリナに対する嫌がらせを、ことごとく成功させてきたシルネの言葉なので、リカンナが血相を変えて叫んだ。 


「適当にすればいいのよ。馬鹿じゃないの。どうせ、赤の他人の服を洗ってんだし?」

 エルナが馬鹿にしきった口調で言う。

「そうよ。親衛隊だか何だか知らないけど、どうせ、どっかの農家の子供なんでしょ。先祖が地主のあたし達より下なんだから。適当に洗ってたって、ばれないわよ。真面目に仕事するなんて、馬鹿のすることよ。手もあかぎれするだけだし。」

 シルネがふん、と鼻をやや上に向けて偉そうに胸を張る。

「仕事に手を抜けるわけないでしょ!」

 ジリナが見張っているのに、手を抜こうと考えているシルネとエルナに呆れて、リカンナがびっくりして大声を出す。

 そんなリカンナを見下して、シルネがふんと鼻先で笑った。

「そんなこと知らないわよ。もし、あんたが手伝ったりしたら、どうなるって思う? 若様の厨房に入って、物を物色してたって言いつけてやる。」

 一瞬、みんな考えが追いつかなかった。どうやったら、そんなに意地悪を思い付くのかというほど、人をいじめることにかけては天才的なシルネだ。


「ちょっと、あんた…。」

 リカンナが言うより早くセリナは、シルネの(ほお)を叩いた。さらに突き飛ばし、水浸しの地面に倒れた所を押さえつけて、エプロンを奪う。それでびしょ濡れになったリカンナの服を拭いた。

 セリナが下を向いてリカンナの服を拭いている間に、エルナが桶を持ち上げた。

「危ない…!」

 アミナとリカンナの声が重なった。セリナの頭の上から、掃除して汚れた水が降り注いだ。さらに立ち上がったシルネが、泥の付いた手をセリナの頭にこすりつける。みんなが呆然としている間に、エルナが洗濯中の盥に靴ごと入って洗濯物を踏みつけた。水が多ければ靴がびしょ濡れになるので入らなかっただろうが、そこまで水が入ってなかったのが災いした。

「ちょっと、やめなさいよ!!」

 セリナとリカンナ、アミナだけでなく他の村娘達も含めて、みんなが頭にきて叫んだ。

「あんた達にはできないでしょうが……!」

 シルネとエルナの高笑いが(ひび)く。

 物語を楽しんでいただけましたか?

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


                                  星河ほしかわ かたり

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