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王太子の来村 7

 タルナスはどうすべきか悩むが、それにはランゲル医師が答えを出し……。


 心に傷を負った美しい王子と、田舎の女の子の恋物語。

 恋から愛へ変化する―。

 二人の思いは成就するのか、それとも、指先から零れ落ちていってしまうのか……。


 この作品は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』の設定を見直し、大幅に改変したものです。

 推敲しようとしていましたが、それに収まりませんでした。基本的な部分は同じですが、主人公セリナの設定が変わったため、変更を余儀なくされる箇所がいくつもあります。脇役達の性格や立ち位置もはっきりしたため、変えたい部分があります。

 もっと面白くなることを願って……。      

 

                             星河ほしかわ かたり

 ポウトが差し出してくれた手巾ハンカチで涙や鼻を拭う。

「手をお出しください。」

 ランゲルに言われて左手を差し出した。悲しいことや苦しいことがあると、左手で胸の辺りの服を握りしめる(くせ)があり、今もくっきりと(しわ)になっていた。

「殿下、胸が痛いことはありますか?」

「先ほどは、(おどろ)きと怒りと悲しみのあまり胸が痛かった。グイニスのことを考えれば胸が痛む。表現ではなく、本当に胸が痛かった。」

「殿下、その時、息苦しさはありませんでしたか?」

 ちょっと苦しかったような気はしたが、それよりもグイニスのことで悲しかったから、そのせいだろう。

「…よく分からない。たぶん、そんなに息苦しくはなかったと思う。」

「分かりました。後で気持ちが落ち着くお茶とお薬をお持ちしますので、それをお飲みください。」

 ランゲル医師の言葉にタルナスは頷いた。


 しばらく誰も何も言わず、沈黙が部屋に満ちた。

 タルナスは、ただただグイニスに相対した時、どうするべきかを考えて深く思考の海に沈み、波間に漂っていた。

「……私はどうしたらいいのだろう。」

 タルナスのぽつりと漏らした言葉に、タルナスより年上のタルナスに仕えてくれている大人達が黙り込んだ。先ほどから沈黙しているとはいえ、今の沈黙は何と言えばいいのか分からず、言葉がなくての沈黙だった。


「殿下、殿下はどうなさりたいのですか、セルゲス公に対して。」

 一番最初に沈黙を破ったのは医師であるランゲルだった。その問いを受けてタルナスはまた泣きそうになった。

「…どうって。今までのように会いたいけれど、どんな顔をして会えばいいのか分からない。あんな話を聞いてしまった以上、今までのように振る舞うのは、どうなのかとも思う。でも、グイニスが忘れているのに急に態度を変えてもおかしい。それでは、グイニスの方が勘づいてしまう。だから、どうすればいいのか分からない。」

 タルナスの素直な心の内をランゲルは黙って聞いていた。

「殿下、私の考えを述べます前に、して頂きたいことがございます。」

 ランゲルは言って、クフルに薬箱から茶葉を渡した。お茶が運ばれてきて、良い香りのお茶をタルナスは飲み干した。煮出す方式の薬はまだ完成しておらず飲んでいない。


 ランゲル医師はタルナスの脈とタルナス自身も落ち着いたのを確認してから口を開いた。

「殿下。今から私が述べますことは、殿下にとっては辛いことかと存じます。ですが、殿下ならばきっと成し遂げることがおできになると信じておりますので、申し上げるのです。よろしいでしょうか?」

 ランゲルは医師として、何か覚悟を決めたような表情をしている。長い前置きに、タルナスは少しだけ心がざわついたが頷いた。

「殿下、セルゲス公には以前と変わりない態度で接して頂きたく存じます。それは、セルゲス公のためです。」

 実はタルナス自身、グイニスのためには前と変わらない態度が一番いいのではないか、とは心の隅で思っていた。

 だが、タルナスが耐えられないと思ったのだ。しかし、タルナスの気持ちがどうであれ、ランゲルが医師としてそう言うのであれば、その医師の指示に従うほかないし、グイニスのためならば自分の気持ちを押し込めることくらい、タルナスにはできた。

 だから、今まで悩んでいたのが嘘のようにタルナスは納得して頷いた。


「殿下がそのことを知られた以上、殿下にはお伝えしなくてはなりません。これは患者のことを話すことになるので、他言無用でお願いします。殿下ならば、そのようなことはなさらないと分かっておりますが、必ず申し上げることになっておりますので。」

 ランゲルの言葉で、タルナスはカートン家が知っていたのだと気づいたが、隠していたことを怒るより、今は何を知っているのか正しいことを知る方が先だと怒りを抑えた。

「…分かった。話してくれ。」

「それでは申し上げます。私共カートン家は三年半前にセルゲス公を診察した際に、何があったのか承知しておりました。しかし、それを十五歳にもなられていない殿下に申し上げるのは、殿下に非常なご負担をおかけすることになるので、申し上げませんでした。まずは隠しておりましたことをお詫び申し上げます。」

 タルナスはため息をついた。先に謝られたら怒ることはできないし、さすが宮廷医だとも思う。タルナスが怒りを抑えたのを見逃さず、そして、何に怒ったのかを明確に瞬時に理解して、黙っていた理由を詫びたのだ。


 物語を楽しんでいただけましたか?

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


                             星河ほしかわ かたり

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