王太子の来村 4
三日おきの更新なので、間違っていないはずですが……。
タルナスは母カルーラの告白を聞いて、父ボルピスとぎょっとして……。
心に傷を負った美しい王子と、田舎の女の子の恋物語。
恋から愛へ変化する―。
二人の思いは成就するのか、それとも、指先から零れ落ちていってしまうのか……。
この作品は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』の設定を見直し、大幅に改変したものです。
推敲しようとしていましたが、それに収まりませんでした。基本的な部分は同じですが、主人公セリナの設定が変わったため、変更を余儀なくされる箇所がいくつもあります。脇役達の性格や立ち位置もはっきりしたため、変えたい部分があります。
もっと面白くなることを願って……。
星河 語
「母上、グイニスに一体、何をなさったのですか?」
タルナスの有無を言わせぬ態度と、睨むように瞬きすらせずに見つめる視線に、カルーラは苦い表情で黙り込んでいた。自分の口が滑ったことに気がついて、しまったという顔でいたのだが、やがて、開き直った様子で顔を上げた。
「……――させたのよ。」
最初、母が何を言ったのか理解できなかった。意味が分からず、思わず父のボルピスの顔を見つめると、父もぎょっとした様子で妻を見つめていたが、タルナスの視線に気づき、困惑した様子で視線を合わせた。
「……お前も分かっているでしょう。あの子の容姿を。だから、命までは取らなくていいいように、気を狂わせようと思ったのです。だから、男達に辱めさせた。それだけです。」
まるで、精一杯の譲歩だったと言わんばかりの母の様子に、タルナスは呆然とした。ボルピスの顔も険しくなっている。眉間の皺が一層深くなったので、これは父の了承を得ずに母が独断でやったのだと推測できたし、父の様子からして間違いないだろう。
「……母上、今、なんと?」
「何度も言わせないで。」
思わず乾いた声でタルナスが聞き返すと、カルーラが苛ついた口調で答えた。
「わたくしとて、気分がいいものではありませんでした。あの子がまともだとお前の座が奪われるのですよ? 命までは取るなと言われるから、わたくしも考えたのです。」
開き直った態度でタルナスを見据える母。
「…母上、何を言っているのか、分かっているのですか!?」
「タルナス、失礼だと思わないの! 分かっているに決まっているでしょう! いちいち現場を見て確認したくなかったから、鐘がなるようにしておいたのです。」
さすがのカルーラも少しばつが悪い様子だった。しかし、母の行った所業にタルナスはすぐに言葉も出て来なかった。
だから、グイニスの足には縄が結びつけられていたのだ。てっきり逃亡の防止のためだと思っていた。それが、その理由が……。こんなにも残酷な女性が自分の母親だと思うと胸が詰まる。気づけば全身が震えていた。
「そこまでしたのか。」
言葉を失っているタルナスの代わりに、ボルピスが発言した。グイニスに対しては厳しい父も今回は怒っているようだ。
常々タルナスは、父のボルピスの態度は中途半端だと思っていた。だが、その中途半端さで、徹底的にグイニスを追い詰めることをしていないから、グイニスは未だに生きている。
「まだ、十歳だったんだぞ。お前にはほとほと呆れる。男に男をあてがうとは――。」
「何を言っているんですか!」
ボルピスが発言した途端にカルーラは、ふつふつとたぎっていた溶岩が吹き出したかのように、怒りを爆発させた。
「あなただって分かっているでしょう! グイニスはあの容姿ですよ? あの年頃の少年が好きな者などいくらでもいましたわ! 訳ないことでしたわよ! それに、なんですか、自分一人悪くないような顔をして! あなただって、同罪ではないですか!」
「だが、普通、そこまでするとは思わないだろう! 言っているはずだ、あまりグイニスを追い詰めるなと! なんど言えば分かる!」
カルーラが開き直って激昂するものだから、今まで感情を抑えていたボルピスも釣られるように怒鳴り返した。
「中途半端なのよ、あなたは! グイニスを生かすのか、殺すのか、はっきりせたらいいでしょう! あの子を追いやったくせに、無駄に生かしてどうするんです! 殺してやるのが思いやりというものですわ!」
「何も知らないくせに、グイニスを生かす意味も分からないのか! やりすぎたら、我々の方がやりにくくなるのだぞ!」
「なんですか、それはただの言い訳でしょう! どうせ、貴族も皆、我々を良く思っていないのですから、やりたいようにやればいいではないですか! 結局、あなたは名指しで批判されるのが恐いから、グイニスを生殺しにしているんですわ!」
「な――!」
だが、カルーラの口は良く回る。一般的に女性の舌は男性の舌を上回ることが多い。ボルピスが反論する間も与えず、カルーラは次々と“口撃”を続ける。
「これでも我慢したんです! あなたがあの女の子供であっても、決して殺すなと言うから、命だけは取らないで済む方法を考えてこうしたんです! わたくし一人に押しつけたくせに、今さら何を言うんですか!」
「何を言っている! お前が自ら買って出たのであろうが!」
「あなたのやり方は甘すぎる! さっさと殺してしまえばいいものを! やるなら徹底的にやらないと、タルナスの立場がなくなるんですよ! あの女の子供に奪い取られるんです! わたくしがやらないで、誰がタルナスの座を守るんですか!」
始まった夫婦喧嘩にタルナスは我慢の限界だった。
「とにかく、わたくしのやったことは間違っていませんわ!」
「母上、開き直らないでください!」
とうとうタルナスは大声を出した。
「父上の仰った通り、グイニスはまだ十歳だったんです! なんてことをしたんです!」
「お前を守るためよ!」
「母上!」
両親にどんどん失望していく。特に母には失望しっぱなしだ。グイニスのことを思うと胸が痛かった。どう謝ればいいのだろう。怒ったらいいのか、悲しんだらいいのか、分からなかった。怒りたいのに涙が出て来るし、悲しみたいのに口からは笑いが出た。タルナスは泣きながら笑った。
「ははは。」
母のしたことはグイニスにどれほどの傷を与えただろう。人間として許されないではないか。叔母が甥をそこまで辱めるなんて。
物語を楽しんでいただけましたか?
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
星河 語




