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王太子の来村 1

 セリナは若様とお散歩中。もちろん、フォーリの護衛付きですが。若様は従兄である王太子が来るとなって、嬉しそうにしているがセリナはその理由をいまいち理解できないでいて……。


 心に傷を負った美しい王子と、田舎の女の子の恋物語。

 恋から愛へ変化する―。

 二人の思いは成就するのか、それとも、指先から零れ落ちていってしまうのか……。


 この作品は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』の設定を見直し、大幅に改変したものです。

 推敲しようとしていましたが、それに収まりませんでした。基本的な部分は同じですが、主人公セリナの設定が変わったため、変更を余儀なくされる箇所がいくつもあります。脇役達の性格や立ち位置もはっきりしたため、変えたい部分があります。

 もっと面白くなることを願って……。      

 

                              星河ほしかわ かたり

「ね、セリナ、聞いてよ。今度、従兄上が来たら、君を従兄上に紹介したいんだ。」

 若様の体調が調い、天気の良い日は外に出て散歩していいとベリー医師から許可が出ているので、若様の散歩にセリナは付き合っていた。


「…え、あにうえって、お姉さんの他にお兄さんがいたんですか?」

 若様の言葉に、セリナはびっくりして聞き返した。若様のことなら、ちゃんと答えられるように学んだはずだったので「あにうえ」発言に、セリナは知らない兄がいたのかと(おどろ)いたのだ。

「ううん。厳密に言ったらたくさんいるけど、私のよく知っている従兄の従兄上は一人しかいないよ。意地悪な叔父さんと叔母さんの息子だよ。」

 とても嬉しそうな様子の若様に、セリナは意味を理解できなくて困惑した。意地悪な叔父と叔母の息子なら息子も当然、意地悪だとしか思えなかったからだ。セリナの生きてきた常識では、意地悪な両親の元で育った子供は揃って意地悪だった。

「…えぇ、嫌ですよ。だって、意地悪な叔父さんと叔母さんの息子なんでしょ。そんな人に紹介されたくないです。そんな両親の子供じゃ息子も意地悪に決まってるじゃないですか。」

 思わず思ったままを答えてしまった。若様が嬉しそうな理由を考えられなかった。


 セリナの言葉を聞いた途端、若様が足を止めて勢いよく振り返った。そして、唇をへの字にして、きっとセリナを(にら)みつける。セリナが困惑している間に若様が口を開いた。

「何を言ってるんだ、セリナ。セリナでも従兄上のことを悪く言ったら許さない…!」

「……え?」

 突然、珍しく若様が怒り出したので、セリナはひたすら驚いて目を丸くした。何が若様の逆鱗(げきりん)に触れたのか、咄嗟(とっさ)に理解できなかった。

「若様。セリナはタルナス殿下のことを知らないのです。それではセリナも意味が分かりません。」

 横からフォーリが助言してくれた。今回ばかりは助かる。若様がはっとして、恥ずかしそうに(ほお)を染めた。

「…そっか。ごめん、セリナ。従兄上はただ一人、私の味方をしてくれた人だ。従兄上がいなければ私は死んでいたかもしれない。本当に気が狂っていたかも。そうなっていれば、君とも会えなかったと思う。」

 そんなに重大な話に(つな)がるとは思わなかったので、セリナはびっくりしていた。セリナの育ってきた環境では、親族の知り合いが一人か二人増えたところで生死に関わることなんてなかったからだ。


「だから、従兄上は私の命の恩人なんだ。姉上のこともずっと気にかけてくれてる。慰問と称して会いに行ってくれたりしてるんだ。」

 セリナは話を聞きながら混乱していた。若様を邪険にしている叔父叔母の息子が、若様達姉弟を気にかけている? そのこと自体がセリナの常識から外れていた。理解を超えたことだった。

「……えーと、その、つまり、その従兄のお兄さんは、両親と敵対することになるのに、若様を助けてくれたってことですか?」

 すると、若様は嬉しそうに(うなず)いた。

「そうだよ。私のことで胸を痛めて気絶するくらい、心配してくれてる。今もずっとだ。だから、今度、ここに来てくれる。」

 信じられない気持ちでセリナはその話を聞いていた。


「……すごいですね。両親に抵抗するって大変ですよ。だって、わたしだって母さんになかなか抵抗できないもん。」

 田舎では特に両親や長老の意見が尊重される。だから、若者が両親に抵抗するなんて、考えられなかった。思春期の少年少女が反抗しているくらいだ。それでも、結婚などの重大事になれば言うことを聞く。

 セリナの実感のこもった言葉に、若様が笑い出した。

「ははは、そうだね。君のお母さん、恐いもんね。なんか宮殿にいたら侍女長でもできそうだよ。」

 セリナも若様も知らないことだが、若様の言葉は鋭い所を突いていた。セリナの母であるジリナは若い頃、宮廷で侍女をしていた。一人知っているフォーリは、だから若様は油断がならないと思う。

 幼い頃、王子として宮殿で育っているためか、そういう事への嗅覚(きゅうかく)が鋭い。だから、若様が知らなくていいことは、(かん)づかれないようにフォーリは最新の注意を払って知らないふりをしている。今もそうだった。


「とにかく、従兄上が来たら君を紹介したいんだ。友達ができたって従兄上にお話しして安心して貰いたいんだ。」

 セリナは内心困った。従兄上って言ったって、王太子なのだ。そう簡単に会えるとは思えないし、ジリナも許しそうにない。

 第一、いまいち意地悪な叔父と叔母の息子を信用できなかった。本当は若様のことが邪魔なんじゃないだろうか。自分のことをよく思ってくれる人を増やすために、若様を利用しているだけではないのだろうか。

(心の底では若様のことを馬鹿にしているかもしれないし。)

 村長の家庭のことを思えば、そう簡単に息子が若様を大切にしていると言われても信用できなかった。それに、自分も王太子の前で粗相をしないでいられるだろうか、という心配もある。

「でも、若様、そうは言っても母さんがどう言うか。それに、仕事の都合だってあるんですよ。きっと大忙しだから、わたしだけが抜けるわけにもいきませんよ。」

 試しにセリナはやんわりと反対してみた。

「当日、君たちがすることはほとんどないよ。だって、従兄上は王太子だから、最初から全て随行してくるから。だから、君たちがすることはほとんど変わらない。当日は掃除もないし、洗濯することくらいだよ。もしかしたら洗濯さえないかも。」

 つまり、手が空いているから来いということなのだ。セリナが困って眉尻を下げていると、横からまたしてもフォーリの助けが入った。

「若様。セリナの言うとおり、それは(むずか)しいかと。ですから期待なさらないでください。殿下の保安状の問題で、村娘達はみんな家に帰すことも検討しています。」

「ええ、そうなの?」

 フォーリの言葉に若様はがっかりした。仕方ないなあ、と呟いている。セリナはその横で心底ほっとしていた。


 物語を楽しんでいただけましたか?

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


                              星河ほしかわ かたり

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