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王太子タルナスの回想 8

 タルナスがタルナスのためにしたこと。読者の皆さんの中には、どうしてフォーリがグイニスの護衛についていたのか、疑問に思っていた方もいらっしゃったのではないでしょうか。その疑問が解消します。


 心に傷を負った美しい王子と、田舎の女の子の恋物語。

 恋から愛へ変化する―。

 二人の思いは成就するのか、それとも、指先から零れ落ちていってしまうのか……。


 この作品は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』の設定を見直し、大幅に改変したものです。

 推敲しようとしていましたが、それに収まりませんでした。基本的な部分は同じですが、主人公セリナの設定が変わったため、変更を余儀なくされる箇所がいくつもあります。脇役達の性格や立ち位置もはっきりしたため、変えたい部分があります。

 もっと面白くなることを願って……。      

 

                           星河ほしかわ かたり

 タルナスは側にいてグイニスを守ってやれない。まだ父に抵抗できるほどの力もない。だったら、このまま見送るしかない。見送るということは、母のカルーラが送る刺客だらけの世界に行くのを止められないということだ。ずっと、カートン家にいるわけにもいかない。じきに居場所は分かってしまう。

 カートン家が関わっていると知られたら、カートン家にどんな罰が下されるかも分からない。必ずカートン家から出て行かなくてはならないのだ。

 見送るということは、グイニスを死地に送るということだった。だったら、せめて、せめて護衛だけでも一流の者をつけるしかない。護衛の交代はしない。


 フォーリを、グイニスの護衛にする。そして、フォーリに相談せずにそれを決めた。

「グイニス、フォーリはお前の護衛だ。」

 覚悟を決めたタルナスは、グイニスを抱きしめたままフォーリを見上げて明言した。

「これは、王太子としての判断だ、フォーリ。」

 何か言いたげなフォーリに向かって何も口出しするなと、彼の目を見つめた。さすがのフォーリも少し動揺しているようだった。

「フォーリは信用できる。だから、どんなことがあっても彼の言うことを聞け。フォーリはお前を命がけで守ってくれる護衛だ。だから、お前も命を粗末にするな。これからもっと、苦しいことも辛いこともたくさん起きるだろう。だけど、命だけは捨てないでくれ。お前が死んだら私は悲しい。私だけはお前の味方でいる。たとえ、父上と母上を殺してもだ。」

 最後の一言でグイニスの体が強ばった。なんと言ったらいいのか分からないでいる。フォーリの顔もポウトの顔も少し強ばっていた。


「私はそれくらい父上と母上に怒っている。本当は縁を切りたいくらいだ。お前にだけは知ってもらいたい。覚えておいて貰いたい。どんなことがあっても私はお前の味方だ。だから、本当に危ない時は知らせてくれ。私はできるだけ力を得るから。とりあえず父上から玉座をもらい受けて、それから、お前に返すから。

 だから、私のどんな噂を聞いても私を最後まで信じて欲しいんだ、グイニス。」

「……分かりました、従兄上。きっと、そうします。」

 ようやく震える声でグイニスは答えた。静かに抱擁を解くと、タルナスはフォーリに命じた。

「フォーリ。どんなことがあってもグイニスを守れ。二人とも生きて私と再会して欲しい。」

 フォーリが片膝をついて敬礼した。

「承知致しました。必ずやご命令を全う致します。」

 こうして、フォーリはグイニスの護衛になった。



 今、二人とも元気だろうか。タルナスはグイニスとフォーリのことを思う。もう、何年も会えていない。

 従姉のリイカは助け出すどころか、実力で国王軍の中でのし上がった。一度、慰安という目的で、何とか会いに行く名目を作って愛に行った。この時も一悶着あった。王と王太子が対立し合っているので、家臣達は冷や冷やしただろう。

 とにかく会いに行ったら、今さら助け出さなくていいと言われた。それよりも、グイニスを助けてくれてありがとうと礼を言われた。まだ、道半ばだと伝えたが、あの時が一番の危機だったから約束を守ってくれて男だな、と豪快に褒められてかなり肩の力が抜けた。


 今や王と王太子が対立しているのは国中が知っている。そういったこともあり、かつてグイニスの父ウムグ王に仕えていた貴族達の後押しもあって、グイニスはセルゲス公の地位を得ることができた。もう、簡単に精神を患っている理由で暗殺することはできない。

 父のボルピスの方はそういう状況もあってか、グイニスを最近放任しがちだ。タルナスに任せきりだと言っていい。だが、母の方はそうはいかない。苛烈な母は何とかしてグイニスを殺そうとしている。

 タルナスがリイカと慰問で会ってからは、リイカにも刺客を送っているらしい。リイカには申し訳ないことをしたと思うが、姉同然の勇ましい従姉は全てを返り討ちにしている。怪しげな者を捕らえたので処刑したという報告が続いていた。


 問題はグイニスの方だ。今はベブフフの所領内にいるが、ベブフフが愚かなことをしていないか大変心配だ。ベブフフはカルーラにごまをすっているので、何かありそうな気がする。

「ポウト。」

「はい。」

 呼ぶとすぐに影のように控えていたポウトから返事が返る。

「グイニスに誕生日の贈り物を届けたいと思う。」

 普通に考えれば無理なのだが、無意味にそんなことを言わないと分かっているポウトは、慎重に聞き返してくる。

「どのように手配致しますか?」

 かつてフォーリを手放さなくてはならないと思った時、とても悲しかったが、今はこれで良かったと思う。ポウトはタルナスの気持ちをよく汲み取ってくれる。フォーリほどの切れはなく少しおっとりしているが、逆に穏やかな雰囲気が、いつも心労が絶えないタルナスには心地良かった。


「グイニスはセルゲス公だ。王族が受けられる最高位だが、誕生日を迎えて日数が経つのに、祝うことすらしないのは対外的にもよくない。逆にセルゲス公が王に挨拶をしないのもおかしい。使者を派遣して迎えに行かせるべきだ。ここら辺で、グイニスの様子を確認しておくのも大事だと父上には強調する。母上には暗殺する機会だと言えば、喜んで迎える準備をなさるだろう。」

 タルナスは両親をいかに利用しながら出し抜くかを考え続けて行動した結果、そういう能力に長けるようになっていた。そして、それらが父を支える八大貴族などの貴族相手にも有効であることに気がついた。王太子の能力に気がついた八大貴族の筆頭バムス・レルスリやシェリア・ノンプディは、タルナスに対する態度が変わってきた。


「それでは、つまり…。殿下がお迎えに行かれるということですか?」

 ポウトの質問にタルナスは、いたずらっぽく笑みを浮かべながら頷いた。

「その通りだ。名案だろう。そうすれば、母上からの刺客からも逃れられるし、ベブフフが余計なことをしていないかどうか調べられる。」

「しかし、殿下が行かれるとなれば、事前に知らされることになるかと思いますが。」

 ポウトの懸念(けねん)ももっともだ。そうなれば、タルナスよりも先に刺客が行くのではないかという指摘だ。

「おそらくな。でもいいんだ。私が行くというだけで、ベブフフにはいい薬になる。だから、お前もそのつもりで準備をしていてくれ。」

 向こうも慌てて動くだろうから、ぼろも出るだろう。ぼろが出ればありがたい。それに、フォーリならば、その程度の難局は乗り切れられると信じていた。

「はい、承知致しました。」

 タルナスはグイニスと会えるようにするため、早速父の元に向かったのだった。

 物語を楽しんでいただけましたか?

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


                           星河ほしかわ かたり

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