王太子タルナスの回想 6
久しぶりに投稿したら、前書きと後書きを書くのを忘れました。まあ、いいかと思いましたが、載せ直してみます。
心に傷を負った美しい王子と、田舎の女の子の恋物語。
恋から愛へ変化する―。
二人の思いは成就するのか、それとも、指先から零れ落ちていってしまうのか……。
この作品は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』の設定を見直し、大幅に改変したものです。
推敲しようとしていましたが、それに収まりませんでした。基本的な部分は同じですが、主人公セリナの設定が変わったため、変更を余儀なくされる箇所がいくつもあります。脇役達の性格や立ち位置もはっきりしたため、変えたい部分があります。
もっと面白くなることを願って……。
星河 語
二人を見つめながら、必死に嗚咽を堪えつつ泣いていると、側にいたポウトがそっとしゃがんだのが気配で分かった。
「殿下。」
と静かにポウトは話しかけてきた。
「おそらく、殿下が今、お考えになっていらっしゃることと、私が考えていることは同じでしょう。もう、護衛を取り替えることはできないと、お感じなのですね。私も同感です。
殿下、フォーリはできる男です。ですから、誰もが羨ましがる護衛でしょう。ただ、私も同じニピ族です。フォーリほどではありませんが私も殿下にお仕えしたいのです。」
ポウトの言葉に、タルナスは泣きながら目を上げた。思いがけない言葉だった。涙で揺らめく向こうに、真摯な表情のポウトがいた。フォーリより穏やかな空気の持ち主だ。
「私が殿下の護衛ではいけませんでしょうか?」
嗚咽で言葉が出て来ない。だから、慌てて首を振った。嬉しい言葉を伝えたいのに、涙が出てきて言葉にならない。
「……な、なぜ…私に、仕えてくれようと?」
なんとか疑問を口にした。ポウトが優しく微笑んだのが涙の向こうに見えた。
「殿下がご立派だからです。大人でも難しいことをやり遂げられました。」
タルナスは、違うフォーリのおかげだと言いたくて首を振った。
「フォーリのおかげだと言われたいのでしょう? でも、フォーリの心を動かしたのは殿下なのです。フォーリは言いました。まだ幼いが立派な王太子であり、王の器だと。」
その言葉に胸をつかれて余計に涙が溢れる。
「私が殿下にお仕えしたいのは、それだけではありません。殿下は従弟のことを思いやることのお出来になる、優しいお方だからです。そして、従弟のために計画を立て、それを実行なさった。手助けがあったとはいえ、最後まであきらめずに成し遂げられた。大人でもあきらめずに最後まで成し遂げるのは難しいことです。」
ポウトの顔が涙でずっと揺らいでいる。
「そして、今、殿下は従弟のために護衛のこともお譲りになるおつもりです。自分ではなく、年下の従弟のためにそうなさるおつもりです。ですから、私は殿下のその優しいお心をお守りしたいのです。」
ちゃんと答えたいのに、答えられなくてタルナスはポウトの胸に抱きついた。少し驚いた様子のポウトだったが背中に手を回して撫でてくれた。
「ずっと我慢してこられたのですね。今は我慢しなくていいのです。泣きたいだけ泣いてください。」
ポウトの優しい言葉に久しぶりにタルナスは人に甘えた。父が摂政になって以来、両親にも誰にも甘えられなかったから。分かってくれる人がいて安心できた。
「…ねえ、どうして泣いているの?」
ポウトの胸で泣いていると、ふいにグイニスの声が間近で聞こえてドキリとした。こっちから声をかける前に来てくれたのだ。涙を拭いて顔を上げる。お互いに泣き顔を知っている。ポウトが手巾で涙を拭ってくれた。しばらく、グイニスはそれをじっと見つめている。タルナスは視線を感じたままそれを観察していた。グイニスは何かを思い出そうとしているように見えた。
それで、タルナスは気がついてしまった。グイニスは自分のことを忘れているのだと。衝撃的な事実だった。あまりの衝撃で一瞬だけ涙が止まったが、次の瞬間にはまた涙が溢れてくる。胸が痛くて、気づけばずっと胸の辺りの服を握りしめていた。
「…ねえ、もしかして、知っている人?」
タルナスの視界に入ったのは、顔色の変わったフォーリとポウトの姿だった。グイニスはきょとんとしている。
「…うん、そうだよ。知っている人だよ。」
そう言ったのが限界だった。あまりの衝撃でタルナスは気絶した。
物語を楽しんでいただけましたか?
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
星河 語




